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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第12話 能力


 広間ではレナの特訓が行われていた。


「体は柔らかいわね」


「リズム感は全然ないわ」


「表情が硬いわよ」


 踊り子たちは、次々にレナを評価していく。

 レナは、ぎこちない表情と動きで踊りを習いながら、なんの任務だったか忘れそうになっていた。

 メルブ将軍は柱にもたれかかりその様子を眺めていたが、ふと声をかけられた。


「本当にあの娘を使うのですね」


 振り返ると、そこにはアトス将軍が立っていた。メルブ将軍がレナを使って何やら作戦を立てたと聞き、興味が湧いて様子を見に来たのだ。


「踊り子として店に潜り込ませるのですか?」


「ああ、一番手っ取り早いからな。本当に娘だから見つかる心配もない」


 そんな会話をしながらレナの様子を眺めていた二人だったが、だんだん不安になってくる。


「しかし……あの踊りで大丈夫ですか?」


「まあ、初日だから……」


 声が小さくなるメルブ将軍だった。

 そんなことを言われているとも知らずに、レナは夢中で踊っていた。初めこそぎこちなかったものの、だんだん形になってきている。

 しかし要所要所で何故か面白いポーズになってしまい、踊り子たちもレナも大笑いしてしまうのだった。


「ふふ、随分と無邪気な暗殺者ですね」


 笑うアトス将軍にメルブ将軍が言い返した。


「笑ったな……俺は本気だぞ。もう今までと同じやり方ではダメだ。今回はなんとしても成功させてやる」


 それからメルブ将軍は突然話題を変えてきた。


「ところでアトス、ウルネス様はどういうわけかレナを気に入っている。なぜだと思う?」


「ウルネス様がレナを?」


 アトス将軍にも、それは意外だった。


「……面白い、という意味でですか?」


「だろ? あんな小娘を」


 そう言いながら、メルブ将軍はおもむろに自分の剣を抜いた。

 アトス将軍の目の前で、剣がきらりと光る。何をするのかと思った次の瞬間――なんとレナに向かってその剣を投げたのだ。


「なっ⁉︎」


 驚くアトス将軍。

 レナはちょうど変なポーズで背中を向けていて、気が付いていない。

 アトス将軍が危ないと叫ぼうとした瞬間だった。

 レナは背を向けたままの状態で、何かを察したようにぴくりと反応した。そして、まるで剣が見えているかのようによけたのだ。

 剣はレナを通り過ぎ、派手な音をたてて壁に刺さった。

 踊り子たちも突然のことに悲鳴をあげた。

 壁に刺さった剣を見て驚くレナ。


(これは一体――⁉︎)


 慌てて振り返ると、そこにはメルブ将軍とアトス将軍の姿があった。


(あれっ⁉︎ 将軍が二人になってる)


 そして明らかにメルブ将軍が、剣を投げたポーズをしていた。レナは、自分の踊りがひどいのでメルブ将軍を怒らせてしまったと思い、背筋が凍りついた。

 メルブ将軍はアトス将軍に言った。


「アトス、今のがわかるか? レナはこちらを見ていない」


 アトス将軍も驚いている。


「暗闇の中で目が見えるというのは、正確な表現ではない。目隠しをしても自由に動けるということは、気配を見ることができると言った方がいいのかもしれぬ」


 アトス将軍は思わずうなった。


「なぜそんな能力が……あいつ、自分の能力を理解しているのか?」


 その時、メルブ将軍の目が鋭く光った。


「あの娘は使える。ウルネス様のそばに置いておくだけではもったいない」


 こんなに楽しそうな表情のメルブ将軍を見ることはめずらしかった。


「楽しそうではないですか、メルブ様」


 アトス将軍がそう言うと、メルブ将軍はゆっくりとアトス将軍の方を向いた。


「ふふ……恐ろしい娘だとは思わぬか? 闇の中では、私やおまえでもかなわぬぞ」


 確かに――能力が本物なら、とんでもなく恐ろしいことだった。闇に紛れて戦うことほど、レナに向いている戦い方はない。


「そうですね……」


 アトス将軍は素直にそう答えた。


「それにしてもメルブ様……レナが剣を避けられなかったら、どうするおつもりだったんですか?」


「そんなことでは、この作戦の意味がないだろう?」


 アトス将軍の質問に、メルブ将軍は平然と答えた。

 先ほど、ウルネス様がレナを気に入っていると自分で言っていたのに。


「……怖いお人だ」


 アトス将軍はそうつぶやきながら、レナの方へ歩いていった。


「レナ、大丈夫か?」


 そう言って壁に刺さった剣を抜いた。


「はい! あの、踊りがひどくて申し訳ございません!」


 レナは恐怖に震え上がっていた。

 しかし、アトス将軍から思いがけないことを言われた。


「全く大したもんだ。メルブ様に認められるとは」


「えっ?」


 レナは驚いた。

 アトス将軍はレナに言った。


「おまえの剣は特殊だ。おまえには力ではない戦い方がある。メルブ様のもとでよく学べ」


「アトス将軍……」


 アトス将軍の言葉は、兵士として腕力のない自分を肯定してくれたように感じて、レナは嬉しくなった。


「はい!」


 そして元気よく返事をした。

 メルブ将軍もレナのそばにやってきた。


「おまえのその能力、存分に使わせてもらうぞ」


「はい! よろしくお願いいたします」


 レナは身の引き締まる思いだった。

 するとメルブ将軍が続けた。


「任務まで時間がない。いろいろと詰め込むからバカでは務まらんぞ」


「えっ? あ、はい!」


 急に雲行きが怪しくなった。レナは頭がいいとはお世辞にも言えない。

 さらに踊り子たちが被せてくる。


「踊りもまだまだ時間がかかりそうですね」


「えっ? あ、はい……」


 レナは返事をしながら、笑顔が引きつってしまうのだった。

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