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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第11話 メルブ将軍


 王宮の会議の間で、ウルネス王とメルブ将軍が話をしていた。


「ウルネス様、ご報告があります」


「なんだ」


「ダラムの情報が入っております」


「なんだと」


 ウルネス王が反応する。

 ダラムとはエスプラタ国のスパイ罪による最重要指名手配者の名前で、暗殺リストのトップに名前があがるほどの重罪人だった。

 メルブ将軍が続ける。


「最近、エスプラタ国の町に姿を現したそうです」


「そうか」


「今回は、いい作戦を思いつきまして」


 メルブ将軍の突然の方向転換に、ウルネス王は違和感を感じた。


「なんだ、メルブ?」


 メルブ将軍のにこやかな笑顔を見て、さらに違和感を感じる。


「はい。先日コブラを切ったあの娘……」


「レナか?」


「はい。あの娘をお借りしたい」


「え?」


 ウルネス王はメルブ将軍の提案に驚いた。


「……だめだ」


 そして即答した。


「えっ⁉︎」


 今度はメルブ将軍が驚いた。


「まあ、まあ、ウルネス様。お聞ききください」


 メルブ将軍は慌てて説得に入る。


「いいですか、ダラムですよ? わが国の暗殺リストのトップに名前のあがる、あのアサニス国のスパイですよ?」


「わかった、わかった。そう詰め寄るな」


 ウルネス王は降参とばかりに両手を軽く上げた。

 メルブ将軍は一呼吸置くと、気を取り直して話を始めた。


「われわれは、やつのところへ幾度となく刺客を送り込みましたが、ことごとく失敗に終わりました。正直今のままでは作戦もマンネリ化しています」


 ウルネス王は黙って聞いている。


「しかし今回あの娘を使い『暗闇』という状況が作れたらどうでしょう?」


 ウルネス王は、思わずメルブ将軍の顔を見た。


「なんでもあの娘、暗闇でも目が見える特殊な能力があるとか……」


「どうしておまえがレナの能力のことまで知っているのだ。誰から聞いた?」


「ただのうわさですよ」


 メルブ将軍はしれっと答えた。


「うそをつけ、おまえがうわさを聞いただけでそんなことを言うか。調べて確証済みだな?」


 するとメルブ将軍は、アトス将軍を巻き込んだ。


「いやいや、あのアトスがですよ? 面白い娘がいるって言うんですよ。それで話を聞いていたら作戦をひらめきましてね」


「アトスめ……」


 ウルネス王はそうつぶやくと、椅子の背もたれに寄りかかった。


「これは有効な作戦になり得ます」


 メルブ将軍の声から、本気具合が伝わってきた。


「確かに、興味深いな」


 ウルネス王は天井を見ながら言った。どう考えても、レナの能力は暗殺にうってつけだった。

 しかし、ウルネス王は意外な言葉を口にした。


「レナに何かあったらどうするつもりだ?」


 それを聞いて、メルブ将軍は一瞬沈黙した。


「……確かに安全を保証できる任務ではありません。しかし、あの娘でなければこの作戦は成立しません」


 メルブ将軍は正直に本当のことを伝えた。

 ウルネス王も、あの裏切り者のダラムを抹殺することが国の最優先事項だということは、重々承知している。

 しばしの沈黙の後、ウルネス王は観念したようにため息をついた。


「わかった、おまえにレナを預けよう」


「ありがとうございます」


 メルブ将軍はにっこりと笑った。

 その笑顔を見たウルネス王は、メルブ将軍に言いくるめられたことに不満を覚えた。任務でレナを預けるとなれば、当分自由にはできない。

 あんな小娘一人を自分の思い通りにできないことが、逆に狩猟本能を刺激した。

 今回はなぜかセラがけん制に来るし――それが一番怖いし。


「レナのやつ、またうまいこと逃げたな……この俺がおあずけをくらったままとは……」


 ぶつぶつ文句を言うウルネス王に、メルブ将軍がアップで詰め寄る。


「ウルネス様……まさかそんな理由で私の頼みを断るおつもりだったのですか?」


 これには言葉を詰まらせた。


「ふん、失敗するなよ」


 憎まれ口をたたくウルネス王に、メルブ将軍はもう一度にっこりと笑顔を作った。


「お任せください」


***


 レナはメルブ将軍に連れられて廊下を歩いていた。

 その頬はもう真っ赤といっていいほど紅潮し、目を輝かせていた。そしてさっきから何度も、心の中で同じことを叫んでいた。


(あのメルブ将軍に、任務を命じられてしまったー! しかも『おまえにしかできない任務だ』と言われてしまったー!)


 もう興奮し過ぎて、鼻血が出そうだった。

 メルブ将軍は、鼻を押さえながら身もだえるレナを困惑気味に見下ろした。そしてウルネス王の言葉を思い出す。


『レナに何かあったらどうするつもりだ?』


 ウルネス王がこの娘に対し、あんなことを言うとは正直驚きだった。本当に気に入っているとなると、こちらもただの捨て駒のような扱いで済ませる訳には行かない。

 メルブ将軍はもう一度レナの顔を見た。


(それにしてもこの娘の顔、どこかで見たような……)


 しかしメルブ将軍には思い出せなかった。

 二人は訓練をする広場までやってきた。

 広場には、なぜか数人の踊り子たちが集まっている。レナが不思議そうに踊り子たちを見ていると、メルブ将軍が言った。


「おまえには、まず踊り子になってもらう」


「はい!」


(踊り子……?)


 ますます意味がわからないレナなのだった。

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