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イージアン  作者: 高田
第一章 レナ
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第10話 手合わせ


 アトス将軍は、好奇心を大いに刺激された。この娘の剣は、どれほどのものなのか。そして、すぐに攻撃に出た。

 レナが剣を避けると、その剣の軌道があり得ない角度で曲がり、レナを目掛けてきた。


「なっ⁉︎」


 レナは思わず声が出る。アトス将軍の剛腕の成せる技だった。レナは自分の剣を盾にして、かろうじて回避した。ものすごい威力に、剣を受けた手がしびれた。


(こんなの、まともに受けたらひとたまりもない!)


 レナは全身に冷や汗が流れた。息をつく暇もなくアトス将軍の攻撃が続く。まともに受けないよう、なんとかかわしていくレナ。しかし、アトス将軍のスピードと威力が桁違いで、かわすだけで精一杯の状態だった。

 まさに『圧倒される』の一言だった。

 レナにとって絶望的な状況だったが、周りの兵士たちからは驚きの声が上がっていた。


「すげえ……あいつ、アトス様の攻撃を耐えてやがる」


 一方的ではあるものの、ここまでアトス将軍の攻撃に耐えられる者はそうそういなかった。

 アトス将軍も驚いていた。


(身軽さゆえか? とはいえ、これほどの素早い動きができるとは……)


 そして目を輝かせた。


(こいつ、俺の剣が見えてるのか?)


 レナは意図せずして、アトス将軍を楽しくさせてしまった。よって、攻撃のギアがさらに上がってしまった。


「――⁉︎」


 もう避けきれないと思った瞬間、レナは恐怖で体が動かなくなった。そして、アトス将軍の剣をまともに受けてしまった。


「うっ!」


 レナは弾き飛ばされ、地面を転がり、そのまま壁に激突した。


「おおっ!」


 兵士たちから声が上がる。

 レナは衝撃と痛みで一瞬息が止まったが、動かなければとどめを刺されてしまう。すぐに体を起こし、なんとか剣を構える。しかし恐怖で呼吸がうまく整えられない。

 レナはもう泣きそうだった。

 兵士たちは、この不思議な対戦にくぎづけになった。


「大したもんだぜ、あいつ」


「アトス様が楽しそうだもんな。だが、もうそろそろ限界か?」


 アトス将軍も何か考え込んでいたが、おもむろにレナに質問してきた。


「攻撃はどうした? レナ」


「えっ?」


「おまえの攻撃は、最初のあれひとつだけか?」


「うっ……」


 図星だった――。

 核心を突かれ動揺するレナ。攻撃できる余裕もなかったが、このままかわし続けるのも限界だった。


(よし……こうなったら)


 剣をグッと握る。


(いちかばちか、正面からの連続攻撃だ!)


 レナは意を決して地面を蹴った。

 兵士たちが驚く。


「うおお⁉︎ あいつ、アトス様の挑発に簡単に乗ってるぞ!」


 案の定アトス将軍は、飛びかかってっきたレナの一撃を軽くあしらった。そして、レナの攻撃を見た全員が衝撃を受ける。

 なんという非力――!

 跳ね返されたレナは、自分の浅はかな考えが恥ずかしくなった。


「ぷっ……」


「ぷぷっ……」


 その時、どこからともなく変な声が聞こえてくる。レナが振り返ると、周りの兵士たちがゲラゲラと笑い出した。


「弱ええ~!」


「うそだろー⁉︎ こんな非力なやつ、初めて見たぜ!」


 兵士たちは、本当に楽しそうに笑っている。


「スピードとパワーのバランスが、おかしすぎだろ!」


「アトス様~! なんすか、そいつ?」


(笑われたー!)


 レナは真っ赤になった。


(やっぱり、やるんじゃなかった! しかも全然連続にもっていけてないし!)


 そして激しく後悔した。


「ふふっ……おい、決着はつけるぞ」


 アトス将軍も笑いをこらえているように見えて、さらに恥ずかしかった。


「これで最後だ」


 そう言うと、アトス将軍が踏み込んできた。

 レナは瞬時に集中した。


(突きだ――アトス将軍は突きでくる!)


 カウンターでいけるかもしれない、と思った時だった。アトス将軍は、自分の持っている剣を離したのだ。


「えっ⁉︎」


 レナは一瞬訳がわからなくなり、アトス将軍の手を凝視してしまった。するとその手が、レナの目の前に迫ってきた。


「あっ⁉︎」


 次の瞬間、レナの左肩はアトス将軍にわしづかみにされていた。

 周りの兵士たちが叫ぶ。


「やった、捕まえたぞ!」


 アトス将軍はもう片方の手で、剣を握っているレナの手ごとつかむ。そしてそのまま、レナの剣をレナの喉元に突きつけた。本当にすごい力で、レナは全く身動きが取れなかった。


(強い……強すぎる! 次元が違う――!)


 レナはもう放心状態だった。

 勝負の決着がつき、兵士たちから歓声が上がった。

 アトス将軍は、レナの体が軽く華奢(きゃしゃ)なことに驚いた。なぜ、このような娘が兵士になったのか?

 ともかく決着がついたので、アトス将軍はレナをそっと解放した。

 兵士のひとりが近づいてきて、アトス将軍の剣を拾うと笑顔で渡した。


「アトス様、この面白い兵士はなんですか?」


「さあな」


 アトス将軍も笑った。

 レナは放心状態のままだったが、その表情はむしろ恍惚(こうこつ)と言ってよかった。


「あ、あ……ありがとうございました!」


 レナは慌てて頭を下げた。

 すごい体験をしてしまった――。

 自分の想像をはるかにこえる強さを、目の当たりにしてしまった。そして素直に感動していた。


(自分も、もっともっと強くなりたい――!)


 レナは心からそう思った。

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