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エピローグ. その胸に大きな野望とささやかな日常を

「ねぇ、大輔君。流星群ってさ。えっと、彗星の通り道? が地球の近くにある時に見れるんだよね?」


 新学期初日。

 始業式が終わり、ホームルーム前の担任の先生を待っている間。


 自分の席でまったりしていると、雪月がこっちまでやってきた。投げかけられた質問に顔を上げて応える。

 この娘、なんと僕の彼女。


「そうだよ」


「ならさ」


 一旦そこで言葉を止め、雪月が自分の考えを披露する。


「もし仮に、仮にだよ。未発見の彗星が太陽近くまでやってきて、その軌道が地球の軌道のすぐそばにやって来たと仮定するよ。それがフェリスの方向にあったのなら」


 雪月が言いたいことが分かった。

 なるほど、確かにそうなるかも知れない。フェリスは過去、とある星座のα星だった星。現在の流星群の名前みたいにそう命名されることだってあるだろう。


「「ねこ座流星群!」」


 声を揃えて答え合わせ。

 雪月の耳もパタパタと上機嫌だ。尻尾と合わせて感情を表現してるのがとても可愛い。


「が、誕生するよね」


 彗星というのは太陽の周りを回っている氷(基本的に水が主成分だけど他にも一酸化炭素とかメタンとか、珍しいものだとアルコールとか)や(ちり)(こっちはだいたいケイ酸塩)の塊だ。その彗星が何度も太陽を公転しているうちに彗星の欠片が軌道周辺に散らばり、そこに地球が突入することで僕らは流星群という現象を観測することができる。

 有名どころのハレ―彗星を例に挙げれば、 みずがめ座η(イータ)流星群とオリオン座流星群がそうだと言われいている。


 思考がゴチャついた。

 結論としては、ねこ座流星群は()()()()

 しぶんぎ座のように、既に使われていない星座だって流星群として名前を冠することができる。なら、今は恒星の一つに名前が残っているだけのねこ座近くが流星群の中心である放射点になれば、その流星群にはきっとねこ座の名前が与えられるはずだ。


「新しい流星群か。正直考えたこともなかった」


「でしょ。可能性が低い……どころじゃないことは分かってるんだけどさ、それでも夢が広がるよね」


「だね」


「最短でも数十年先かな。私達が生きてる間に増えて欲しいところ」


 もちろん雪月が言うように可能性はほぼない。僕らが生きてる間という条件を付けくわえればゼロと言っても過言ではない。現に、僕は今まで流星群が増えたなんて話を聞いたことがない。



 でも



「案外十年以内に来てくれるかも知れないよ。地球と人間の関係からすれば、奇跡なんてありふれてる。だからもう一つや二つ増えてくれたって変わらないって」


 根拠?

 知らない単語ですね。


 奇跡の条件。

 流星群になるには何度か地球を公転する必要がある。ただ、残念ながらハレー彗星のように周期的に太陽の周りを回っているものばかりじゃなく、一度太陽に近づいたらもう二度と返って来ないような軌道を描く彗星だって数多くある。

 新たに発見される彗星がそんな短期的に周回してくれることはあまり期待できない。土星や木星の重力に引っかかってくれればひょっとして、程度。地球にぶつかると人間社会へのダメージがでかいのでできれば地球に直接来るのは勘弁して欲しい。まぁこっちはたぶん望み薄かな。


 奇跡の条件その二。

 彗星って氷の塊だから太陽のそばを通り抜けれないことが実は珍しくない。どれだけ太陽に近づくのか、その彗星がどのくらいの大きさなのか、どんな組成なのか、いろんな条件があるけど、彗星の核が砕けたり分裂したりしてしまうことがある。

 もし彗星が地球の軌道の近傍で砕けたのなら、その一度きりだけでも流星群になれる、んじゃないかと思う。それどころか流れ星が雨のように降り注ぐと言われる流星雨(りゅうせいう)だって叶う……はずだ。前例とかあるのかな。調べてみよう。


「……。そうだね」


 僕がノったのが意外だったのか一瞬目を丸くした後、笑いながら同意してくれた。

 たぶん雪月も分かってる。そんなことはあり得ない。


 でも、未来に絶対はない。


 それに、こういうことを話し合うことが嫌いな天文好きはいないんだ。宇宙人を大真面目に研究する学問なんて、天文学くらい。もう既に宇宙へメッセージを送っているし、逆に宇宙人からのメッセージを拾おうというプロジェクトだって存在する。


「雪月は面白いこと考えるよね」


「あの流れ星が忘れられなくてね、ずっと考えているうちにちょっと思ったんだ」


 あの時僕の背中を押してくれた流れ星は、僕と雪月の現在を繋いだだけじゃなくて未来の夢まで見せてくれた。流れ星が願い事を叶えるという話、案外本当のことかもしれない。今度から流れ星を見つけたらねこ座流星群をお願いしてみよう。


「あれ綺麗だったよね、一回だけだったけど」


「私はあの一回で十分だったよ。何度も見えちゃうとありがたみ無くなっちゃう」


 雪月も星に惹かれるだけあってたいがいロマンチストだと思う。


「それに、一生モノの想い出もできたし」


「これからどんどん作っていくよ」


 なにせ僕らは付き合い始めたばかり。

 なんだってできるんだ。


「うん、そうだね。ヨシ! さっそく放課後デートしようよ。初デート」


 僕と雪月は今まで天体観測を二人でやることはあっても、デートとして一緒に時間を過ごしたことなんてなかった。今思うとすごくもったいない。


「いいよ。今日はバイトもないし学校は午前中で終わりだし、時間はたっぷりある」


「どこがいいかな、水族館、遊園地、ボーリング、カラオケ、映画館」


 公園で散歩とかプラネタリウムは経験があるから除外。いや、恋人になってからは違った景色が見えるかもしれないけど、僕だって初彼女で浮かれてる。できれば雪月が挙げたようなベタなところに行きたい。


「とりあえず片っ端から行って、お金尽きるまで遊びつくそう」


 スマホを取り出し、雪月と顔を突き合わせてスケジュールを組む。

 取り付けられた星入り水晶のアクセサリーが、窓から入って来た太陽の光を反射してまるで流れ星のようにきらりと光った。

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