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ファーストキスの仕方  作者: 松 宏幸
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第7話 チュっとしたい

「藤堂ー!ブロックアウトだよー!」

村田先生の声が鳴り響く。


雅也「はいっ」


村田「違ーーう!!」


村田「押し出すんだよー!」


村田「ちょっと岩田!教えてやれ」


岩田「はい」

岩田は三年生、バスケ部のホープだ。

どのポジションもできるチームのエース、得点王だ。しかも、背が高く、顔もさわやかなイケメン。だがプレイは強く男っぽい。男から見ても女から見てもカッコいい先輩だ。この先輩がいたからバスケ部に入ったと言っていいくらい雅也の憧れの人だ。


岩田はコートに入ったと思ったら、さっとゴール下に入り込み、ディフェンス役の柴山を押し出す。的確にパスを受け取り、クルっと回って、リングに向けて、しなやかな腕が伸びてゆく。ストっと吸い込まれるようにゴールにボールが落ちた。


「カッコ良過ぎる••」

雅也は、その後岩田のディフェンスに戻る動きを目で追った。


何が違うか?

まず、運動神経。

これは仕方ない。ただオレも小学校では、高飛びはクラスで1番、徒競走は学年5位と、それほど悪いわけではない。

しなやかさ。

これは、経験の差もあるだろう。イワケンくんは、小学校の頃から、隣り町にあるバスケットボールスクールに通っていたし、両親も経験者のようで、色んな人から教わっているらしい。

オレはまだこないだ始めたばかり。背が大きいことでスカウトを受けて始めたが、本物のボールを触ったのも、入学した4月が初めてだ。これは、練習次第だな。

雅也はあれこれ考え、岩田のようにオレもなれる、こじつけのような理由を考えていた。

ただ、一番大きいこと、それは"気持ち"ということ、それが自分には欠けていることを、雅也本人が一番わかっていた。

「だって、ガニ股がカッコ悪い。本当はフォワードをやりたかった。」

雅也はレイアップシュートが得意で、小学校の体育館で遊んでたときに、ふざけてやったらいきなりうまく出来たので、自分はバスケットの才能がある。と思っていた。なので、中学に行ったらバスケットボール部に入る気持ちはあったのだ。

だが、実際入ったら、背が高いからセンターをやれと村田先生に言われ、センターって外野?バスケを詳しく知らない雅也は、そのポジションに納得していなく、気持ちが今ひとつ入っていなかった。


村田「交代!岩田サンキュー」


岩田「雅也かんばれよ。」

岩田は交代で雅也とすれ違うときに声を掛けた。

雅也「ありがとうございます」

う、イワケンくんにがんばれと言われてしまった。これはがんばるしかない!さっきのイワケンくんの見本、ガニ股カッコ悪くなかったなぁ。ボックスアウトもやる人によればカッコいいんだ?あのしなやかなプレイ。カッコ良かった!

雅也は、まだバスケットをかじったばかりだが、岩田のカッコいいプレイに、バスケの魅力、そして目標を見つけたようだった。


部員一同「ありがとうございましたー!」

練習が終わり、ロッカー室に急いで向かう。そう。今日は美佐と一緒に帰るのだ。

だいたいテニス部の方が早く終わるので、おそらく美佐は着替えて門のところで待っていることだろう。

急いで着替えて、練習着とタオルをプーマのバッグに詰める。

「失礼しまーす」と雅也は挨拶してロッカー室を出ようとしたところ、岩田が、

「雅也ー、村田が細かくうるさいけどさー、お前センスあるからがんばれよ。オレが居なくなったら七郷中バスケ部を背負ってって欲しいからよー。」


雅也心の中「え??センスある?七郷背負う??」「うそー!!!」

雅也「おつかれさまでしたー」

雅也は嬉しさのあまり、飛び出してきてしまった。あー、せっかくイワケンくんが褒めてくれたのに、雑にかわしてしまったー。

雅也は嬉しさとびっくりしたのとで、急に早回ししたロボット人形のようになってしまった。


雅也「美佐ー、お待たせー」

部活後にはちょうど良い5月のさわやかな風が吹いていた。

美佐「あー雅也ーおつかれー」「ん?いいことあった?」

雅也はロッカー室であったことを顔に隠せず、ニヤついていたようだ。

雅也「いや、ちょっとね。」

ちょっとね。と言いつつ、イワケンくんの話しから、”センスがある” ”七郷背負う”の話しまで、止まらず話し続けた。


一緒に帰ると言っても、美佐の家は学校から大きく右の先の方で、雅也はまっすぐ奥の奥の方の家なので、美佐を送っていくと言ったほうが正しいが、「一瞬に帰ろう」とお互い言っている。


その右へ行った方に、途中、踏み切りを超えるのだが、踏み切り待ちでも電車の音も気にせず、雅也は話し続けた。美佐は電車の音でよく聞こえなかったが、笑顔で返した。


やがて住宅街になり、人気が少なくなっていく。

雅也「ごめん、なんかオレの話しばっかで。」

美佐「ううん、私も応援してるよ。」

雅也は、ちょっと顔を赤らんで、頷いた。


雅也はちょっと周りを気にして、誰かいるか、見られているかなどを気にした。

雅也「う、二人きりだ」と確信したと同時に、ドキドキし出した。 

プーマのバッグに入っているとても良い匂いと言えない練習着がおもてまでは匂わないとわかりつつも、念のため美佐の歩く反対側の肩に回して掛け直した。


美佐はテイタムオニールが好きで、前に見たテイタムオニールの映画の話しをしている。

雅也は、テイタムオニールも映画も詳しくなかったが、美佐の声が、二人の歩く住宅街に、歩道に立つ木の葉の揺れる音と重なり、ハーモニーのように心地良く耳に響く。


美佐の家が近づいてきたが、近くまで行くと親に見られたら嫌と美佐が言うので、ひとつ手前の角で止まった。

汗臭くないか、美佐にわからないようにシャツを嗅いだ。


沈黙となる。

雅也は「じゃ」と繰り出すタイミングに困った。


二人「•••」


今度は美佐が「じゃ」と繰り出そうとするが、「お腹空いたね」と言い変える。

雅也「ね。」


美佐「•••」


雅也「•••」


雅也「美佐から行って」


美佐「雅也くんから行って」

としばらく繰り返す。


雅也が、本当に最後ねと言ったように

「んじゃ!」と手を挙げて別れた。

美佐が玄関に入る手前でもう一度手を挙げた。


雅也は歩きながら、思った。

ドラマだとあの沈黙のとき「じゃっ」と言う前に、チュっとキスしたりするよな?

と雅也はちょっとさっきに戻って美佐とキスをする場面を妄想する。

雅也は顔を赤らめ「キスかー。ファーストキスかー!」

「したいけどなぁ、、自信ねーなー」と、ぶつぶつ言いながらニヤけた。



でもなんか今日はサイコー!と、雅也は、妄想を膨らませながら、少しスキップ状態で、プーマのバッグを揺らしながら帰り道を歩くのだった。

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