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1ー02.最初の出逢い

遠藤は深い闇のなかに心も体も投げ出されている様な感覚でボンヤリと漂っていた。体を動かそうと思っても、固まってしまった様に意思通りに動いてくれない。


ここに至る直前の記憶を手繰り寄せる。

ポテサラと焼き魚を買って、スーパーを出たところで強い衝撃を受けた。

恐らくは事故に遭遇して、この様に体が動かない状況になっているのだろう。

それとも既に死んでしまったのかと思いを巡らす。


ネガティブな思考に至っているのにも関わらず、思いのほか冷静でいられるのは体に伝わる温かさを感じていたからだった。理由はハッキリとはしないが、この温かさは遠藤に安心感をもたらしていた。


温かさに身を任せる事で体の彼方此方の感覚が少しづつ戻り始めているのを感じる。どうやら腕の中に何か柔らかなモノを抱えており、そのモノが遠藤に温かさを伝えている事が判ってきた。身体の感覚を取り戻す為、積極的に指を動かし、腕の中にある柔らかなモノを触り続ける。


暫く続けたところで、ようやく薄っすらと目を開ける事ができた。最初は白い光が眩しくて何も見えなかったが、段々と目が慣れてくる。

遠藤が定まらぬ焦点の中で最初に認識したのは美少女の顔だった。


透き通るような白い肌と赤い瞳、銀色の長いストレートヘアの美しい顔立ちをした外国人の美少女が一糸纏わぬ姿で遠藤の目の前・・・正確には腕の中にいた。つまり、先程から触り続けていた柔らかく温かいモノの正体が彼女であった事が判明する。


銀髪の美少女は遠藤と目が合うと、遠藤の首に手を回して少し赤く染まった顔を近づけて、そのまま口付けをして来た。美少女の顔が近づいた事で彼女の髪の良い匂いがする。嗅覚も戻って来た様だ。しかし、まだ体は自由に動かせないようだ。そんな事はお構いなしに美少女は遠藤の唇を弄び続ける。


先程まで冷静だった遠藤もまさか美少女に唇を奪われるとは思っておらず、想像の遥か上を行く展開にただ驚くばかりである。彼女の舌が口の中で艶めかしく動いているのを感じながら、何とか体を動かそうと試みる。


肘から先の感覚を総動員し、やっとの事で腕を動かして本来の力からは程遠くて弱い握力で何かを掴む。

ポニョん。

この状況でこんな触感のモノと言えば・・・心当たりは1つしかない。いわゆるラッキーなアレだ。

その証拠に美少女は「アン」っと声を出して唇を離した。


遠藤は美少女の声に慌てて反応して手を引く。先程まで固まった様に動かなかった腕もこの瞬間は驚く程スムーズに動いた。


「お目覚めになりましたか。勇者様。」


何事も無かったかの様な美少女の言葉に遠藤の理解は追い付かない。胸を触った事でてっきり怒られると覚悟していたのに拍子抜けである。

美少女は外国人の見た目に似合わず、流暢な日本語で話しており、遠藤は胸を触った事をあえてスルーして自分が知りたい事を聞く事にする。


「ココはどこなんでしょうか?まさか死後の世界なんて事はないですよね?」

冗談を交えながら遠藤は美少女に訊ねる。

「ここはルージュシュワ王国の王都クスラートで御座います。」


これまで聞いた事もない国名や都市名に遠藤は一瞬、困惑するが、怯まずに質問を続ける。

「生憎、私の知っている場所の地名ではないので、ピンときてないのですが・・・。ところで私は何故ここにいるのでしょうか?」


目覚めるなり、立て続けに質問をしてくる遠藤に美少女は微笑みながら答える。

「あらあら、勇者様ったら、そんなに矢継ぎ早に質問されなくっても。まずは私に自己紹介をさせて下さいませ。私はこの屋敷の女主人でベルゼ・ルージュシュワと申します。山中で倒れている勇者様を発見して、こちらに保護させて頂きました。」


美少女は自らを女主人と言い、その名前に国名に入っていた事が気になる所だが、ひとまずそれはスルーして遠藤は美少女に礼を述べ、自らも名乗る。

「左様でしたか。それは大変お世話になり、ありがとうございます。ご挨拶が遅れましたが、私は遠藤誠司と申します。」


漸く挨拶を交わし終えると美少女の方から遠藤に話を促してきた。

「私に答えられることはお答えしますので、お聞きになりたい事があればどうぞ。」

「そうですね。では、今、私が置かれている状況について教えて下さい。多分、仕事帰りに買い物に寄った事までは覚えているのですが、その後の事が思い出せないのです。」

遠藤は美少女が遠藤を発見し、この屋敷に保護するまでの話を聞いた。





ベルゼ・ルージュシュワはルージュシュワ王国で公爵位を与えられている貴族である。そして人族が多いルージュシュワ王国の貴族の中では珍しく、吸血鬼の血を引いている。


そんなベルゼは先日、王城より呼び出しを受けて登城した。そこで知らされたのは何者かが王国が承認していない勇者召喚の儀式を行おうとしているとの情報だった。


王国は事実関係の調査と儀式を中止させる事を目的に調査隊を結成して派遣する事と決定した。そして王国で最も魔術に詳しいベルゼに調査隊へと同行する事を要請した。


ベルゼは吸血鬼の長い寿命を学問や研究に費やしている事から、魔法に関して王国随一の深い見識を持っている。王国が調査隊への同行を要請するのは当然の事であり、ベルゼも当たり前のように要請を二つ返事で了承すると自らの従者を引き連れて参加した。


調査隊の調べで王都から僅かに離れた山中の村の教会で勇者召喚の儀式が執り行われようとしている事が判明し、一行は現地へ急行した。

しかし、現場に調査隊が突入した時には既に儀式の形跡だけを残して、もぬけの殻となっていた。結果として調査隊は間に合わず、儀式を阻止する事が出来なかった。調査隊の隊長格の騎士長はせめてもの手掛かりを得る為にベルゼに助言を求めた。


ベルゼが儀式の行われた現場を確認したところ、残された召喚魔法の魔法陣の構成から、かなり上位の魔術師により儀式が執り行われた事が判明した。ここで行われた儀式は成功した物と見て間違い無いようだった。


更に詳細に調査を進めると残された魔法陣から2つの発見があった。

1つは同じく魔法陣には複数の勇者を召喚するべく複数回の起動回数が組み込まれていた事だ。1人を召喚させる術式だけでも高難易度となるのにも関わらず、複数回起動する術式が魔法陣の中に見事に書き上げられていた。

この事からも、この魔術師の能力の高さが伺える。


そしてもう1つの発見はこの魔法陣には召喚先の座標が明確に組み込まれていない事だった。この為、召喚された勇者はこの場所からズレた何処かに出現したと思われる。これは複数回起動の術式を書いた召喚魔術師と同一人物とは思えない程のミスだった。


ベルゼは調査隊に魔法陣に関する説明をするに当たって2つの発見のうち、座標が明確に組み込まれていない事のみを伝え、勇者がこの周辺の他の場所に現れている可能性を示唆して周辺の捜索を行う事を提案した。

召喚の儀式を行った者達も今頃、必死になって見失った勇者を探しているに違いない事から、調査隊は 先んじて勇者を確保する為に人員を割いて捜索隊を編成した。


捜索隊は人員配置を終えると村の教会を出立して寒冷期の山中へと捜索へ向かい、程なくして1人の男を保護する事に成功する。

ベルゼから複数の勇者が召喚された可能性について報告を受けていない調査隊はこの1名の保護により、後は実行犯の追跡を残すのみとの見解となり、この後の行動方針を決定した。

調査隊は隊を半分に分けて犯人の追跡を行う班と保護した勇者を連れて王都へと引き返す班とに分かれての行動となった。ここでベルゼも調査隊から外れ、王都に帰還する事とした。


しかい、調査隊と別れたベルゼと従者達はすぐに王都に帰還せず、複数名召喚されたはずの勇者を捜すべく捜索活動を行った。冬山での捜索は困難を極めるものだったが、従者達の努力もあり、幸運にも川沿いの小道で倒れている男を発見する事ができた。


ベルゼは発見された男の身なり・・・この世界では見かけない衣装・・・現代のビジネススーツ姿を見るなり、儀式によって召喚された勇者である事を確信した。そして従者達に秘密裏に自身の屋敷へと連れ帰るように命じた。


ベルゼが調査隊に魔法陣が複数回起動したらしい事を伝えなかったのは自身が勇者を確保する為だった。


男は非常に危険な状態でベルゼの屋敷へと運び込まれた。寒冷期の山中で倒れていた事で体温が下がり、顔色が青を通り越して紫色となっており凍死する一歩手前の状態であった。


ベルゼは男に温めたワインを自ら口移しで飲ませた。この行動は暖めたワインで男の体温を上げる事は勿論、男を眷属化するために魅了のスキルを使う為のものだった。彼女は勇者を研究の対象として確保したいとの考えで行動していた。


しかし、この行動がベルゼにとって大きな誤算となる。勇者の肉体はベルゼのスキルよる魅了効果をレジストするだけでなく、効果を反転させた。結果、ベルゼ自身が男に魅了されてしまったのである。


図らずも魅了状態となったベルゼは欲望のままに男の衣服を脱がせると、自身も裸となって毛布の中で男に抱きついた。ベルゼの体によって低体温となっていた男の体は温められ、男は意識を取り戻す。結果としてベルゼが男に献身的な看病を施した状況となったのだった。


勇者エンドウ・セイジと吸血鬼の公爵ベルゼ・ルージュシュワはこうして出逢った。


セカンドライフでは美少女との出会いがあった。


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