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1–15.遠藤の部下達

話は遠藤が退職した日に遡る。

退職する遠藤を送り出した後、職場近くの居酒屋に集まっていたのは彼の部下で、特に可愛がって目をかけていた3人組だ。


「ここの塩から揚げ、めちゃウマイし、本部長にも声を掛けておけば良かったかな。」

「流石に退職日当日は本部長は自宅で過ごすんじゃないか?」

丸田福哉の言葉に平山マモルが答える。


「取り敢えず、生は頼んだから、ツマミは適当に注文しちゃってよ。乾杯しよ、乾杯。」

「適当って、この店に来たからにはポテトサラダはマストアイテムでしょう。コンビーフ入ってて美味いんだよなぁ。」

さっさと飲み始めたい石坂更紗に食の拘りが強い丸田がオススメメニューを力説している。


「から揚げにポテサラなんて、アンタらもメタボへ一直線ね。私は海藻サラダよ。」

「葉っぱ喰ってどうすんの?肉喰わなきゃ。肉喰わないとパワーで出ないぞ。」

健康志向の石坂が男2人の注文内容にケチをつけ、平山は肉こそ至高の脳筋発言だ。


このテーブルに座る3人組の前にジョッキ注がれたビールが届くと「せーの」の掛け声すらなしに、同時にジョッキを掲げる。


「かんぱーい!」

「乾杯!」

「カンパイ!」

そして乾杯の掛け声だけは見事にシンクロする。


「本部長に拾われなかったら、絶対、また転職していただろうなぁ。」

ジョッキを一気に空けてから、平山が呟く。


平山は学生時代のミリタリーや格闘技の趣味から自衛隊に入隊してレンジャー部隊を経てから転職してきた異色キャリアの持ち主だ。体力自慢の営業マンだが、決して要領がいい方では無い。営業成績が上がらず、営業所間で押し付け合いされるお荷物的な存在だったところを遠藤が自身の部署に引き取ったのが出会いだった。


遠藤は平山を社外ゴルフコンペ等に積極的に連れて行き、取引先と顔合わせさせた。取引先とのこうした出会いを切っ掛けに次第に仕事での繋がりが出来き始めた事で平山の営業成績は向上して行った。


「それを言ったら俺もそうだって。」

平山の呟きに丸田も応える。


丸田は内気な性格で頼まれた事を断れないタイプの社員だった。しかも知識が豊富で事務能力に長けていた事から周りの社員や上司は内気な丸田にどんどん仕事を押し付けた。

そして気が付いたときには1人では抱え切れないほどの業務量となり、遂に仕事に穴を空けてしまった。当時の上司が自身の管理能力を棚に上げて丸田に全ての責任を押し付けて、左遷させようとしていたところを遠藤が引き取った。


遠藤は自身が責任者をつとめるプロジェクトに丸田を引き入れ、プロジェクトリーダーに据えた。そこでもプロジェクトがスタートすると1人で仕事を抱え込む丸田はすぐに手一杯となった。

丸田は遠藤から「メンバーを使うのがリーダーの仕事だ!」と言われ、苦手ながらもメンバーに仕事を振り分けて、今度こそ仕事に穴を空けないようにプロジェクトの運営に尽力した。


ちなみに丸田にこっそりと仕事を押し付けようとした社員もいたが、それに気づいた遠藤が笑顔で「そのせいで俺が丸田に任せた仕事が遅れたら、お前が責任取るのか?」と優しく諭したら逃げていったのは秘密である。


「まぁ、アンタらは元から営業畑だけど、私は研究職からこっちに飛ばされてきたからねぇ。遠藤パパには本当に感謝だわ。」

3人の中で唯一の女性である石坂も会話に乗っかる。ちなみに石坂は機嫌が良い時は遠藤の事を遠藤パパと呼び、機嫌が悪い時はメタボ親父と呼ぶ。


石坂は学生時代は大学の研究員を目指していたが、教授の推薦もあり、遠藤たちの会社の研究部門に入社した。研究職の石坂が営業部門への配置転換となったのは、研究室での上司のセクハラが原因だった。石坂へのセクハラは始めこそ性的な発言等だったが、次第にエスカレートして、ボディタッチとなり遂には身の危険を感じるほどになった。


流石に耐えかねた石坂は部門長にハラスメントの相談をしたが、部門長は石坂よりも旧知の間柄である上司の方を守った。結果、石坂は嘘の告発をしたとして研究室を追われる。遠藤はそんな石坂に「畑違いになるけど、営業部門でやってみるか?」と声を掛けて引き取ったのである。


3人はそれぞれキャラクターは違うが、遠藤に感謝している同志であり、遠藤が退職してしまった事を本当に残念に思っている。

また、今まで遠藤によって守られてきたという自覚があり、遠藤がいないこれからに不安も感じていた。


「本部長、まだセカンドライフに何するか決めてないって言ってたよなぁ。」

「いっそのこと会社を興して、私たちを雇ってくれたら良いのにね?」

「んだんだ。」

平山と石坂がとても都合がいい妄想に耽け、丸田は料理を目一杯に頬張りながら相槌を打っている。この後も遅くまで遠藤との思い出話に花が咲きそうである。


ただ、彼等はこの時すでに遠藤がこの世を去っている事を知らない。

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