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1ー11.王都散策①ギルドにて

エンドは夢中で外の景色を眺めており、その隣に座ったアリスはエンドを微笑ましく眺めながら、今日の予定と自身の目標を頭の中で確認していた。

因みにアリスの今日の目標は自分の事を「アリスさん」とさん付けで呼ぶエンドにアリスと呼び捨てられる事だ。


エンドが「さん」付けで呼ぶのは彼の教養の高さと真面目な性格故の事とは理解しているが、やはり距離を感じてしまうので、2人で行動する本日がチャンスだとアリスは考えているのである。


「ところで、今日はどんなところを案内していただけるのですか?」

エンドは本日の予定をアリスに尋ねた。

「本日はエンド様の身分証明書の発行とお召し物を購入して、ベルゼ様からのお使いを申しつかっているのです。まずは冒険者ギルドに向かうのです。」

「冒険者ギルドでもいいですが、やっぱりビジネスマンとしては、商業ギルドに登録しておきたいですね。」

アリスの説明にエンドが自身の希望を伝える。


「ビジネスマンが何を意味するのかは判らないのですが、エンド様の希望であれば商業ギルドでの登録から始めるのです。」

アリスはエンドの希望をあっさりと聞き入れて、最初の目的地を商業ギルドへと変更した。


商業ギルドは貴族街と隣接した閑静な高級店エリアを通り過ぎた先、商業エリアの中心にある。そこには商業ギルドや冒険者ギルドの他、様々な業種の組合が立ち並んでいる。ここから王都の入り口である南門までの大通りがメインストリートとなっており、多くの店が立ち並んでいる。


エンド達は商業ギルドの前で馬車から降りると、御者に夕方に迎えに来てくれるよう頼んで商業ギルドの中へと入って行った。


商業ギルドには多くの人が詰めかけ、賑わっている。ここでまず目につくのは納品に来た商人達が並ぶ窓口で1番大きなスペースを取っている。ここではギルドカードを使って代金の精算を行っており、更には銀行業務も兼ねているようだ。

そして窓口から離れた所に建物の2階に向かうための立派な階段があるが、警備兵が立ち番をしており、侵入禁止になっている。


ギルドの入り口の前に立ち、中を見渡しているエンドに気付いた可愛らしい雰囲気の狐獣人族の女性職員が声を掛けてきた。

「いらっしゃいませ。ご依頼でしょうか?それともご購入でしょうか?」

貴族の衣装を身につけたエンドは商人には見えなかったようで、貴族が客としてギルドを訪れたと思ったようだ。


「私はベルゼ・ルージュシュワ公爵家に仕えておりますアリスと申しますのです。本日はこちらのエンド・セージ様のギルド登録に参りましたのです。」

エンドが答えようとするとアリスがそれを遮って、狐獣人族の女性職員の前に立って代わりに答える。


「これは大変失礼をいたしました。わざわざお越し頂きましてありがとうございます。どうぞ上の階の応接室にて受付をさせて頂きたく思います。」

アリスが公爵家の名前を出した事で狐獣人族の女性職員は上級貴族向けの恭しい態度でエンド達をギルド2階の応接室に案内した。


通常、上級貴族がギルドを訪れるときは先触れを出し、ギルドに受け入れの準備をさせるのが普通だ。しかも、公爵家であれば、わざわざギルドを訪れるのでは無く、屋敷にギルド職員を呼びつける事もできる。


今回のように上級貴族がいきなりギルドを訪れると言うのは例外的な出来事だったが、それに動じる事なくエンド達を案内した狐獣人族の女性職員は大変優秀な職員だと思われる。


「改めまして、私はセルバ・アリダードです。当ギルドで土木部長をしております。本日、エンド様のギルド登録受付はこちらで担当職員のマリーが行わせて頂きます。」

狐獣人族のセルバは挨拶の後、受付担当職員のマリーを伴い、応接室でエンドのギルド入会受付の手続きを始めた。


入会手続きは、記入書式に沿って職員のマリーがエンドに質問しながら、記入していくだけの簡単なものだった。

さほど時間をかける事なく、エンドが全ての質問に答え終わると、セルバはマリーに耳打ちして何やら指示を出した。

マリーは一瞬だけ驚きの表情を見せたものの、すぐに席を立って応接室から退出すると、すぐに銀色のカードを持って応接室に戻って来た。


マリーがカードを持って戻ってきた事を確認するとセルバが説明を始めた。

「本来であれば、審査を行ったりで、ギルドカードの発行には2日かかるのですが、エンド様にはベルゼ公爵様の後ろ盾があるようですので、今後の良きお取引きを期待して最速でカードを発行させて頂きました。」


セルバは公爵家の関係者がわざわざギルドを訪れた事を正しく理解していた。エンドに申請、受取と何往復もさせる事を避けるため、最大限の便宜を図ったわけだ。


「では引き続き、カードの説明をさせて頂きます。」

セルバから説明を引き継いだマリーからギルドに関する実務的な細かな説明を受けて、エンドは銀色のカードを受け取った。

銀色のカードにエンドが自身の血液を垂らす事で登録が完了となり、カードはエンドの専有物となる。ギルドカードの機能は主に身元証明書と決済サービスであり、この世界の必需品の一つでもある。


また、カードにはギルドでのランクも記録されており、商業ギルドではギルドを通した取引量・取引高を基準に決まるとの事だった。

そのランクに応じてカードの色も違う。ホワイトカード= Dランク、ブロンズカード=Cランク、シルバーカード=Bランク、ゴールドカード=Aランク、プラチナカード=Sランク、ブラックカード=S Sランクとなっているらしい。エンドはシルバーカードを受け取っているので初期登録でBランクからのスタートだ。本来は ホワイトカードから始まるはずだが、これもセルバの最大限の便宜と言う事なのだろう。


「私は土木関連が専門ですが、どんな些細な事でも御用命くださいませ。今後、良きお取引をさせて頂くことを期待します。」

「こちらこそ、まだ、どの様な商売をするかは決めていませんが、その時はどうぞよろしくお願いいたします。」

セルバとエンドが握手を交わして、応接室での登録手続きは完了した。


「本日はご足労いただきありがとうございました。」

セルバとマリーに見送られてはエンド達は商業ギルドを後にした。


エンド達を見送った後、受付担当のマリーがセルバに尋ねる。

「シルバーカードを発行してもよろしかったのですか?」

「まぁ、ギルマスもサブマスも不在で、次席の私の権限ではシルバーまでしか発行できませんでしたから。」

「え?」

マリーは初期登録でシルバーカードを発行した事の是非を問うたつもりだったが、セルバの答えは思ったものと違った。


「ギルマスがいたら、もっと上のカードだったと言うことですか?」

「その時はギルマス権限の上限でゴールドを発行するように進言するところです。」

セルバの答えにマリーは全く意味がわからないという表情を浮かべる。


「ベルゼ・ルージュシュワは亜人に人気がありますからね。その後ろ盾を持つ者が商業に進出するとなれば協力を惜しまない者は少なくないでしょうね。」

「そうゆう物なのでしょうか?」

マリーはセルバに説明にまだ釈然とはしないようだ。


「案外、直ぐに自力でゴールドに到達するかもしれませんよ?」

「流石に・・・それはありえないですよ。」

マリーはセルバの予言を冗談だと思って否定した。


「それにしても、こんなに早く接触できるとは思ってもいませんでしたね。」

誰の耳にも届かない小さな声でセルバは呟いた。


セカンドライフでも忖度は存在した。


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