第8筆 お前はプロになれねえよ
私生活が忙しくなってきたので、更新が遅くなるかもしれません。すみません。
俺はムッとして聞き返した。
「つまんねえ?」
「そうだよ」
「・・・何でそう思った?」
そう思った理由こそが大事だ。俺は努めて冷静に訊いた。どんな読者からの感想であっても真正面から受け止めることが自分の成長に繋がることは理解している。
西野は手元のビールの入ったグラスをくいっと持ち上げて飲み、置いてから話した。
「まず、一つ。お前の話は何を伝えたいのかが分からん」
「・・・ふむ」
俺は頭の中でメモするつもりで注意を傾けた。
「小難しいし、無駄に哲学的だと思った。その割には誰でも思いつくような台詞ばかり出てくる。浅い事しか書けないのに、カッコつけてるって感じがした」
「・・・」
実際に殴られたわけではないが、言葉の拳で殴られたような感覚に襲われた。結構痛い事言ってくれるじゃないか。手加減なしの連続パンチは効いたぜ。
「そして、もう一つ。人間が描けてない」
「何・・・」
「キャラクターは表面的には数多くいるかもしれねえけど、その実全員お前のアバター。踏み込んだ描写も足りない。もっときちんと人間を観察しろや。読者舐めてんのか」
「めちゃくちゃ言ってくれるじゃん」
さすがに言いすぎじゃないのか。腹が立ってきた。
「これくらいはっきり言われて反省しない限り、お前はプロの作家になんて絶対なれねえよ。もっと他の作家の書いた本を読んで勉強しろ」
「そういうお前はどうなんだ。今お前が言ったことを、お前は本当に実践できてんのか」
「俺は別にプロの作家なんか目指してない。だから、俺は今言ったことをできていないかもしれないが、それはどうでもいい事だ。自分の事は棚に上げさせてもらう」
「何だよ、くそっ」
「いいか、これはあくまでお前のために言ってるんだぞ」
「だからって・・・言い方ってもんがあるだろ」
その時、島本君が俺と西野の間に両手を挟んできた。
「まあまあまあ、お二人さん。今はそれくらいにしときましょ。今は文化祭の打ち上げでパーッと楽しむときだし。そんな険悪な顔してたら、損ですよ。あと、西野さんも言いすぎですよ」
「俺は事実を伝えただけだ」
西野はあくまで悪びれない。
「ちょっと、西野さんか本多さん、あっちの方と席の交代しましょうか」
「んじゃあ、俺、ちょっと村上君に声かけて代わってもらうわ」
俺は立ち上がった。今は西野の顔を正面から見たくない。
「あ、本多さん」
島本君が俺を後ろから呼んだ。
「ん?」
「ちょっと、耳を」
耳を貸せということらしい。
「あんまり気にしなくていいと思いますよ。僕は本多さんの小説、好きですし」
彼は俺の耳元でそう囁いた。裏表のない子の褒め言葉は、胸に沁みる。
「ありがとう」
俺は彼に礼を言い、離れた席にいる村上君に交代してもらった。
「あー、コットンじゃん。何話してたの?」
俺が席を移動すると、4年生、つまり俺の先輩である浅野先輩がハイボール片手に話しかけてきた。俺の名前は「ことは」だから「コットン」と呼ばれている。
「西野にダメ出しされました」
「あー、あいつ結構厳しいよな。俺も言われたことあるわ。別に俺ら、プロ目指してるわけでもないのに。なんかこだわりでもあんのかね?」
「ははは・・・」
先輩は俺がプロを目指しているのを知らない。
「まあまあまあ、飲も飲も飲も。嫌なことは酒で忘れようぜ」
「僕、あんま飲めないんすけどね」
それから俺は浅野先輩と雑談をした。好きな女子のタイプとか、先輩の彼女の惚気とか。そういうどうでもいい、だけど今はとても助かる話題を振ってくれた。
そして、宴もたけなわとなった頃、島本君の指示で、俺達は店を退散した。
「二次会行く人ー!」
店を出て少し歩き、川沿いの広い通りに出たところで島本君が部員に二次会の募集をした。
「はーい!」
彩菜ちゃんや村上君、西野や浅野先輩は二次会に行くようだ。
「本多さんもどうですか?」
「いや、俺はいいや」
島本君は俺も誘ってくれたが、断った。酒がだいぶ回ってきて頭がボーっとしてきたのもあるが、それ以上に今は、夜風で自分の頭を冷やしたかった。
「分かりました。じゃあ、また今度行きましょう」
「ごめん。ありがとう」
「いえいえ」
こうして二次会組と帰宅組に分かれ、各部員はそれぞれの行く先に歩いていった。
俺は川沿いに座って体育座りをした。水面に映る月の影がゆらゆら揺れて綺麗だった。
『お前はプロの作家になんて絶対なれねえよ』
西野の言葉が頭の中でこだまする。さっき西野に面と向かって言われた時は腹が立ったが、冷静になって考えると、西野の言うことはすべて当たっていた。現に、彩菜ちゃんも『結論に至るまでの過程が書けてない』と言っていたし。要するに読者には見抜かれてしまうポイントなのだ。
もう文化祭も終わり、いよいよ俺達の同級生は就活に向けて動き出すだろう。
このままでは学生時代にデビューして作家になるという俺の夢は達成できなくなってしまう。
まずい。まずい。まずい。まずい。
もう時間がない。
俺はしばらく川沿いに佇んだあと、電車を利用して家に帰った。
家に帰ると時計は11時を指していた。両親と弟はもう寝る準備をしていた。俺も風呂に入って寝た。
「ごはーん!」
下から母の声がして、目が覚めた。時計は7時半を指していた。
「おはよう」
俺は挨拶を交わして、顔を洗い、食卓に座った。
「言葉」
父親が俺を名前で呼んだ。
「ん?何?」
俺は聞き返した。
「お前、まだ作家になりたいのか」
「・・・そうだけど」
「就活はする気があるのか」
「・・・」
またその話か。分かってんだよ、俺だって。
「俺だって、応援したくないわけじゃない。だが、就職してもらわないと俺達としては困るんだ。大学を卒業した後、いつデビューできるか分からないお前を、プロになるまで養っておけるほどうちには経済的な余裕はないんだ」
「・・・」
分かってる。分かってるって。
「そこでだ。俺と約束しろ」
「は?」
「来年の4月までに、何かの賞を取れなかったら、作家はすっぱり諦めて、就職しろ」
俺は茶碗を持ち上げた手を動かすことができず、まるで彫刻のように固まってしまった。




