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第7筆 だって、つまんねえもん

 文化祭最終日がやってきた。この2日間で目ぼしい場所は一通り回ったので、昼飯を食べてからはずっと、古本市をやっている教室にいた。客足はまばらだったが、古本は半分以上が売れた。しかし部誌の売り上げはわずか3部だった。15部ほど用意していたので、2割しか売れなかったことになる。素人が書いた小説ばかりだし、分厚いし、値段も1冊500円と安くないしの三重苦だからしょうがないのかもしれない。毎年この程度しか売れないし、予想はできていたことだが、残念であることに変わりはない。素人が書いた小説集を500円で買うより、BOOKOFFで安く売ってるプロが書いた面白い小説を3~4冊買った方が、誰がどう考えてもお得だろうし。実際、俺が客ならそうしているかもしれない。

 やれやれ・・・読者っていうのは厳しいぜ。

 「はい、じゃあそろそろ片付けよっか。机元通りに戻して、部誌はBOXに持ってって。古本は各自持ってきた人が持って帰るか、BOXに置いとくかしといてね。とりあえず5時半くらいまでには作業を終わらせて、お店に行こうか」

 部長が教室にいる文芸部員に向かって指示を飛ばす。文化祭最終日だけは1・2日目と違って夕方4時くらいに学園祭を終わらせるというルールがあるので、どこのサークルもそれに従って備品を片付ける。早めに時間設定がしてあるのはたぶん、片付けの時間とその後の飲み会の時間を確保するためだろうと思う。文化祭最終日に飲み会を行うというのは、文化祭に参加しているサークルのほとんど(全部かもしれない)の伝統である。そしてそれは我が文芸サークル『独創書荘』も例外ではない。

 俺達は協力して机を元通りにしたり、部誌をBOXに持って行ったり、古本を回収したりした。模擬店とかを出しているところに比べれば準備も片付けも少なくて済むし、部員も20人くらいはいて作業が速く進むので、5時くらいには作業が終わった。

 「終わった?」

 部長が部屋内の人間に訊いた。

 「だと思うよ」

 俺は答えた。 

 「じゃあ、早いけどお店に向かおうか。みんな、しばらくゆっくりしててもいいけど、6時半までにはお店に着いておいてね」

 部長はみんなに指示した。俺は特にすることがなかったので、彩菜ちゃんや村上君たちと一緒に、飲み会幹事の島本君が予約してくれていた居酒屋『鳥義賊(とりぎぞく)』という店に向かった。


 「えーっと、みなさん3日間お疲れ様でした!とりあえず無事に、何事もなく終わってほっとしています。みんな、本当にありがとう!今日はとりあえずゆっくり飲んで、楽しみましょう!」

 部長である彩菜ちゃんが前置きの言葉を述べる。

 「それでは、かんぱーい!」

 「かんぱーい!」

 彩菜ちゃんの掛け声に合わせて、全員が一斉にグラスを前に突き出した。

 「うえーい、お疲れ!」

 「お疲れー」

 周りからこつんこつんと、グラスの当たる音が聞こえる。俺も周囲の部員とグラスを交わす。

 「本多君、お疲れー!」

 「お疲れ、彩菜ちゃん」

 「言葉さん、お疲れ様です!」

 「おお、お疲れ、村上君」

 「お疲れ様です、本多さん!」

 「ああ、お疲れ。予約ありがとう、島本君」

 部員がどんどんこちらに乾杯してくる。後輩は先輩に対して自分から乾杯しに行くものだという暗黙のルールがあるので、後輩が遠い場所にある席から立ってやってくる。もっとも、文芸サークルは上下関係はあまりないが。

 乾杯が一通り終わった後、グラスに注がれたビールを一口飲む。ビールはあまり好きではなかったが、最近やっと良さが分かってきたところだ。もっとも、俺は酒は強くないので、グラス3杯くらい飲んだところで寝てしまうのだが。

 「そういえば、本多さんはもうそろそろ就活ですか?」

 島本君が尋ねてきた。

 「あー、そうだね・・・しなきゃいけないね」

 『そうだな、候補はいろいろあるけど、迷ってる感じかな』とでも言えば無難な回答だと思うが、プロの作家になりたいというなら、自分の夢くらい人に言えなければならないと思った。彩菜ちゃんに講評をもらった時みたいに。俺がちょっと前に読んだ漫画に、『夢って、言ってるうちに本当になると思うから』という台詞があったから、言霊を信じてみようと思う。

 「ですよねー。僕も来年の今頃やらないといけないと思うと、クッソ(だる)いですわあ」

 「・・・俺さ」

 「はい」

 「俺、実は作家目指してんだよね」

 「えっ」

 島本君は驚いた顔をした。

 「凄いじゃないですか!頑張ってください!うちからプロの作家デビューした人がいたら、すごい周りに自慢できますよ!」

 彼は笑顔で俺を励ました。裏表のない子だから、たぶん本心だろう。

 「うん。頑張る。まだ全然賞とか取ってないけど」

 「いやいや、目指してるだけですごいですよ」

 「ありがとう」

 俺は目の前に運ばれてきていた鳥の手羽先フライをかじり、ビールを飲んで答えた。

 「お前には無理じゃない?」

 「・・・え」

 斜め前の席に座っている同級生の西野が言った。俺は思わず聞き返してしまった。

 「だって、お前の小説、つまんねえもん」

 

 

 


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