第5筆 講評タイム
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
この作品はまだまだ続きますので、言葉たちの物語にしばしお付き合い下さい。
「本多君の小説、『釈迦の流儀』はね・・・」
彼女は語り始めた。
「まず、発想は良いと思うの。『蜘蛛の糸』はだいたいの人が知ってる有名な作品だし、そこをベースにすれば、一から作った話よりも説明が省けるしね。だけど、なんだろう――――話の流れが、作者が持っていきたい結論に誘導していってるように見えて、そうね、作者が結論ありきで書いてるような感じがして―――つまり、本多君の思想が、ひいては本多君という人間が作品から透けて見えてしまっている感じがしたの」
俺は固唾を飲んで聴いていた。
「深いテーマを描いているはずなのに、最初から作者が『こうあるべき』と思って書いているから、釈迦の弟子がその結論に至るまでにあんまり悩んでいないように見える。さんざん悩んで、考え抜いた先に辿り着いた、っていう過程の掘り下げが足りないんだよね。キャラクターが作者のストーリーの道具になっている感じがした」
俺は膝の上で拳を握った。鼓動が早くなるのを感じる。
「まあ、私が感じたのはそんなところかな。ストーリーはシンプルでごちゃごちゃしてなくて良かったと思うし、全体的には全然、悪かったわけじゃないから」
彩菜ちゃんは取りなすように言った。
「彩菜ちゃんってさ、いつも俺の話は『悪くない』って言ってくれるけど、『良い』って言ってくれたことはないよね」
「・・・」
彼女は黙った。俺は目を逸らして正面を向いた。窓から光が差し込み、立てられた本が影を作っていた。
「『悪くない』っていうのは、本心だよ。だけど、『良い』っていうと、私の中では少し違うの。今までは、あくまで文芸サークルに所属する大学生が書いた作品としては、『悪くない』っていう話だから。でも今は、プロを目指す本多君に対しては、プロの作る話と比べてアドバイスしないと失礼だと思うから。だから、『良い』ってあんまり手放しで褒められなかったの」
「・・・」
俺は黙った。寒いのに、汗が背中を伝うのを感じていた。
「ありがとう」
誠実に講評してくれた彼女に、精一杯、声を絞り出して感謝した。
「本多君」
「うん」
「頑張ってね」
「・・・・・・うん」
その直後、お客さんが来てくれて、俺の持ってきた『植込みの法則マイナス』という漫画――少年サンディで頑張って連載を続けてらっしゃる福智先生の漫画5巻セットを買っていった。このまま二人で全く別の話題を話し込むのは精神的に厳しかったので、お客さんが来てくれて助かった。
その後少しずつ客が増えていき、やがてシフトの時間が終了した。
それからは、俺は学園祭ではなく文芸部のBOXへ向かい、部誌のうち、自分の作品が載ったページを開いた。
記憶が新しいうちに、講評してもらったことを復習するんだ。彼女のアドバイスを次に活かすためにも。
さあ、反省会だ。