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第25筆 就職活動

この話から新章に突入します。お楽しみください。

 父は驚いた顔をした。

 「自分から言うとはな」

 「俺だって驚いてるさ」

 「俺としては構わない。だが、あれだけ固執していたのに、なぜ今になってあっさりと引いたんだ」

 「後輩がついこの間、賞を取ったんだ。俺のよりもずっと良い作品だった。それを読んでから、書けなくなったんだよ」

 「そうか」

 父は一度瞬きしたが、表情を変えなかった。

 「だから、そういうことで・・・俺はもう小説を書かない。普通に就職して、この家を出て、自分で生計を立ててみせる。それで、文句ないだろ」

 「もちろんだ。就職するなら、なるべく安定したところにするんだぞ」

 “安定”か・・・

 「探してみる」

 「それから、前にも言ったことだが、俺はきちんと仕事に就いて、安定した収入を得られるようにしろと言っただけで、別に小説を書くなと言っているわけじゃないんだ。ちゃんと就職して一人前になるなら、いくらでも書いてくれて構わない」

 「分かってるよ。“趣味”でなら、ってことだろ」

 「ああ」

 父はあくまで俺がプロになれるとは思っていないようだった。

 「もう、いいよ。どうでも。きっと小説は、二度と書かない」

 俺は話は終わりと言わんばかりに席を立ち、自分の部屋へ戻った。


 就職。

 俺が目を逸らし続けてきたものが、今目の前に立ちはだかっている。

 就職をするためには就職活動をしなければならない。でも、どこから手を付ければいい?そもそも就活ってどうやってやるんだ?

 俺は何一つ知らなかった。就活とは何ぞや。


 「そりゃ、あれだろ。まず色んな企業が説明会やってるから、それに参加して、自分に合いそうなところを見つける。でも希望する会社に入れるかどうかは分からんから、他にもいくつかエントリーシートを出しとく。で、面接して、結果を待つと。いくつか内定が出ればひとまず安心して就活を終われる、って感じじゃない?」

 「ほえええ・・・」

 岩城の返答に、情けない声が口から()れる。

 4月が到来し、俺達はついに4年生になった。つまり、新入生が入ってくる季節でもある。というわけで、俺たちボードゲームサークルは各々ビラの束を手に持って配るなどして、一生懸命新入生を勧誘していた。3年前に俺が入学した時は、入学式が行われた建物から出た直後、サークルの列が長蛇を成して新入生にビラを渡しまくっていたのだが(俺も両手に持ちきれないほど渡された。というか上からチラシが降ってきたと言っても過言ではない)、新入生に迷惑をかけ、かつビラが地面に大量に散乱してしまうことから、新入生歓迎会(略して新歓という)実行委員会によって去年禁止された。よって、現在では入学式当日の激しい勧誘はなく、翌日から文系学部の集まったこの狭いキャンパスと理系学部の集まった向こうの広いキャンパスで、それぞれフェアに勧誘を行うことがルールとなっている。

 「ボードゲームサークルでーす!興味ありませんかー!?」

 後輩君たちが頑張ってビラを配りに行ってくれている。受け取る側からすれば興味の持てないサークルから勧誘されても困惑するだけなのだが、自分が勧誘する番になるとしつこくなりがちなのは何故だろう?ちなみに俺はビラ配りを一時中断し、新入生にサークルの概要を説明するためのブースに座っていた。ブースと言っても白い長机を挟んで椅子を向かい合うように置いただけのものだが。

 「なるほどね、就活ってそんな感じなのか」

 本来4年生は就活で忙しいため新歓には参加しないのだが、俺は就活を始める以前の段階であるため忙しくはない。むしろ、就活をしている友達から情報を聞き出さないとどうしていいか分からないため、俺は後輩の手伝いを兼ねて情報収集のために学校に来たのである。

 「つーかわざわざ、悪いな。相談乗ってもらっちゃって」

 「いや別にいいよ。1日も空けられないほど暇じゃないし。それに、後輩にばっか任すのもあれだし」

 「しっかりしてるよなー、岩城は・・・」

 「いや、みんなやってることだから。ていうかむしろお前が取り残されてる方だぞ」

 「ううっ・・・!言わないで・・・!」

 俺は大袈裟に顔を逸らした。

 「今まで何やってたの?」

 岩城が素朴な疑問をぶつける。

 「いや、その・・・小説書いてた」

 「小説?ああそうか本多って、文芸サークルと兼サーしてたもんな。そっちが忙しかったんか」

 「ま、まあ、そうかな」

 ここ2か月ずっと独創書荘には言っていなかったが、そういうことにしておこう。

 「あれ?でもお前、うちのサークルに最近結構来てたような・・・」

 あっ、気付いちゃったかー!

 ・・・まあいいか・・・別に。

 「実は、文芸サークルには最近全然行ってなかったんだ」

 「だよなあ」

 「俺、言わなかったけど、プロの作家になりたかったんだよね。だからずっと小説書いてたんだけど、全然ダメでさ。で、ちょっと前に後輩が小説で賞取って、出版することになって。それから俺、書けなくなったんだ」

 俺は父に説明したのと同じ説明をした。

 「・・・そうだったのか。全然知らなかった。だから、今から就活なんだな」

 「うん」

 「ドンマイ!でも、就職してからまた作家目指しゃいいじゃん!諦めたわけじゃないんだろ?」

いい奴だと思う。俺は少し下を向いた。

 「いや、それなんだけど・・・」

 

 「文芸サークルどうですかー!!名前も『独創書荘』って言って、かっこいいですよー。あ、ほらそこのお姉さん!どうですかー!!」

 俺が言いかけた時、若干高いトーンのやかましい声が耳を(つんざ)いた。うるさいなあ・・・って、ん?今の声って・・・

 「あれ?本多さんじゃないですか?」

 そのうるさい奴・・・もとい、元気な奴と目が合ってしまった。

 「島本君・・・」

 「何してるんですか?こんなところで」

 島本君はきょとんとした様子だった。

 

 今、一番会いたくない人間と出会ってしまった。


 


 

 

 

 

 

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