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第23筆 潮時

 「ふぁあああ・・・」

 気が抜けていたせいか、欠伸(あくび)をして声が出てしまった。

 「寝不足?」

 向かいに座った岩城(いわき)が、駒を進めながら訊いてきた。

 「いや、失礼。単に暇すぎて思わず欠伸しただけ」

 「ほら、本多の番だぞ」

 「うぃ」

 俺は現在、ボードゲームサークルのBOXに来て、サークル員と人生ゲームを遊んでいる。炬燵(こたつ)に足を突っ込んで、男4人で人生ゲーム。ちなみにこの炬燵は一年中BOXに放置してある。お約束の通り、上には蜜柑を乗せたお盆が置いてある。炬燵の周りには、ボードゲームとは関係のない、PS(プレステ)2やらニンテンドウ64やらといった昔懐かしのゲーム機がコードを絡ませたまま散乱していた。俺がこのサークルに入会した時からあったものなので、誰が持ち込んだのかは知らない。

 指でルーレットを回すと、3が出たので駒を3つずつ進めた。

 「会うの久しぶりだよな。去年の文化祭以来じゃない?」

 「あー、そうだな。つっても、うちは大した活動してないだろ」

 「まあ活動時間は基本自由だしな」

 俺が所属するボードゲームサークル『ボードゲーマーズ』は、週2回ほどの活動日を設け、そこで集まったサークル員たちが各々好きなボードゲームを遊ぶという形態で活動している。もっとも、活動日に限らず各サークル員は自らの団員証を使ってBOXの鍵を借りて開けることができるので、実質的には好きな時間にボードゲームを遊ぶことが可能となる。もちろん、活動日に来なければいけないという制限も全くない。

 その自由度から、結構な数の大学生―――ゆうに100人は超えるだろう―――が所属している。その大半は幽霊部員であるが。だから、BOXに来ても誰もいない日もある。また、部員の4割ほどは大学のもう一つのキャンパス(理系の学部を集めたキャンパスである)に所属しているため、こちらにいる実質的な人数はそこまで多くはない。ちなみにサークル員の9割は男子である。

 大人しめの学生が多く、飲み会もそんなに激しくないので、俺のような眼鏡のインドア派大学生にとって居心地の良い居場所となっている。他のサークル員もかなりの確率で眼鏡をかけている。特段大学デビューをせず、陽キャになれなかった陰キャ者共の集まりとも言われているとかいないとか。まあ、そういう明るいとか暗いとかのレッテルを他人に貼るような人間の分け方は、どうかと思うけれども。


 『この世の創作物の9割は、駄作である』

 どっかの天才作家がそんなことを言ったらしい。その天才に言わせれば、残りの1割以外は読む価値のないものなのだそうだ。人が一生懸命作った物語を、そんな簡単に切って捨てることのできない俺は、“天才”にはなれないのだろう。

 小説を書かなくなってから、2週間以上が経った。今は2月下旬に差し掛かるところだ。小説を書かない冬休みは、最初は1日を長く感じたが、しばらく経つといつの間にか1週間過ぎ、気づいたら今になっていた。時の流れがあまりにも早くてびっくりしている。大人になると時間が短く感じるというが、こういうことかもしれない。


 村上君の小説を読んでから今日までずっと、考えていたことがある。来る日も来る日も、頭の中をずっと駆け巡るその言葉は、とっくに気付いていたはずの、当たり前過ぎる結論だった。


 『俺には、作家(ストーリーテラー)の才能がない』


 馬鹿だな、俺は。こんなこと、賞に落ち続けてた時点でとっくに分かってただろ。俺には最初から才能なんてなかったんだよ。それでも作家を目指す覚悟があるかどうかって話だったんじゃないのか。

 結果は明白だった。後輩が賞を取ったくらいでめそめそして小説を書けなくなるメンタルの持ち主が、そんな覚悟を持っているはずがなかった。

 で、結局、行きついた先は、ボードゲームサークルに入り浸って、グダグダ過ごすという道だった。

 潮時なのかもな。 


 「じゃあ、次は何する?」

 人生ゲームが終了したので、岩城がゲーム盤を片付けながら言う。ちなみに俺は途中で職業『作家』になるが、本が全く売れず、出版社から契約を打ち切られてプータローになり、借金に喘ぐという末路を辿った。勿論(もちろん)順位は最下位である。

 「『犯人は誰だ?』やろうぜ」

 |俺の左隣に座っていた盤上ばんじょうが提案した。ちなみに『犯人は誰だ?』とは、『犯人』というカードを軸にして、その犯人カードを持っている人をみんなで当てるというカードゲームである。『犯人』の他には、犯人を当てられる『探偵』、ゲームスタート役である『第一発見者』、犯人を捜す『犬』などがあり、これらのカードを駆使して犯人を追い詰めていく。

 

 そうやって遊んでいたが、用事やバイトで抜ける者がおり、人数が減っていった。残ったのは俺と岩城だけだったため、お開きにして家に帰った。


 「お前はまだ、小説を書いているのか」

 夕食中に父が訊いてきた。今は母、父、俺しか食卓におらず、弟は二次試験の直前ということで予備校でまだ勉強しているため、ここにはいない。

 「・・・・・・」

 今は一時的に休んでいるだけ。そう言ってしまえれば楽なのだが、それが嘘にならない自信がなくて言えなかった。

 「分かってるよな。4年生になるまでにデビューできなければ、普通に就職するという約束」

 「覚えてるさ」

 父が硬い表情で念を押す。俺は短く返した。

 

 父との約束の期限まで、あと約1か月。

 現実は、待ってくれない。

 

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