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第21筆 チートハーレム俺TUEEEE

 期末レポートは早めに取り組みつつ、小説もコツコツ書き進めるというのが良いだろう。忙しくはなるけど。『独創書荘』のBOXは使用延長届を出せば泊まることもできるはずなので、あまりにも余裕がないときはBOXに泊まることにする。

 さて、「異世界転生」か。最近のそういう系は色々増えすぎてて違いがよく分からないんだよな。だから異世界転生とは言ってもイメージだけで実はよく知らないのである。とりあえず有名な作品からチェックしていこう。書籍化やコミカライズされている作品でも、作者が消さずに残しているものは、「小説家になろう」でも読めるから、お金をあまりかけずにすみそうだ。

 

 そう思って、いくつかの作品のあらすじや冒頭の数話を読んでみた。中にはあらすじだけで物語をすべて説明してしまっているほどあらすじが長いものがあった。それどころか、タイトルそのものが長すぎてあらすじすら読む気にならないものもあった。ここまで詳しく書かなければ分からないのか?現代人の読解力は大丈夫か?

 いや・・・『分かりやすい』ということは、別に悪い事ではないのか。そりゃ話が理解しやすい方が読みやすいだろうし。『最近の若者は~』的発想で何でも否定するのは良くないな。うんうん。というわけで最近の傾向に倣って、とりあえずタイトルは長く、あらすじは詳しく書こう。

 

 少しして、転生する時のお決まりパターンというのがあることが分かった。まず死に方の例として、トラックに轢かれそうになった他人を助けて自分が轢かれるとか、通り魔から他人をかばって死んだ、というのがあった。次に転生の仕方として、目覚めたら赤ん坊の姿で異世界に産まれていたとか、彼岸(?)の世界で神様やら女神様やらが転生先を教えてくれるとかいうのがあった。まるでゲームの導入部分のようだ。また、ここでいう「異世界」は、ダンジョンやらエルフやら喋る獣やら魔法やら騎士やら王国やら奴隷やら、ファンタジー要素を詰め込んだ感じの中世ヨーロッパ風の世界観が多かった。

 そして、主人公は「冴えない・目立たない普通の高校生」とか、「引きこもりのニート」といった設定が多かった。そのような主人公が周りから尊敬され始めたり、ちやほやされたりするという、いわば(たぶん)作者の思い描く理想の世界がそこかしこで広がっていた。何らかの才能が常人の範疇(はんちゅう)を超えてずば抜けていれば「チート」、異性にモテモテになるなら「ハーレム」、武力が優れていれば「俺TUEEEE」(オレツエエエエ、と読むらしい)と呼ばれるようだが、基本的には超人的な何かを主人公が身につけ、周りから認められ、承認欲求を満たすという図式が共通しているようだ。また、主人公のスキルが最弱だと馬鹿にされてたら実は最強でざまあ、とかいうのもあった。ご都合主義の嵐である。

 テンプレについてはだいたいこんなところか。もちろん細かく読み進めていけば作者ごとの個性は出ているだろうが、やたらと長い作品が多いので読むのが面倒くさい。そこらのライトノベルがかなりマシに思えてくる。

 

 このような小説が流行るのは、なぜだろうか。思うに、この日本という国は、人に対して「周りと同じ」であることを求め、そこから逸脱した者に対して「社会不適合者」の烙印を押す傾向が強い(と俺は思っている)ため、周りから褒められも認められもしないではみ出してしまった、抑圧された人間の叫びが、このような承認欲求の権化のような作品の創出に繋がっているのではないだろうか。要はみんな褒められたいし、ちやほやされたいのだ。幸せになりたくてもがいてるのだ。もちろん俺だって、俺の作品を肯定してほしいさ。だから、理解できないことはない。

 幸せな理想の世界は、不幸な現実の裏返しだ。昔、末法思想が広まったことが原因で、極楽浄土に行けることを願う浄土宗がブレイクしたようなもんかもな。みんな、救われたいんだ。

 分かった。「チート」「ハーレム」「俺TUEEEE」というテンプレで塗り固めた作品を創ろう。もしそれで俺の作品がヒットして書籍化などすれば万々歳だし、それを読んで読者が喜んでくれるなら双方とも得だ。

 そうだ、これでいいんだ。これで。 


 <私が思う『良い小説』っていうのはね、生きている物語なの>


 彩菜ちゃん。

 俺はもしかしたら、作家として大切なものを手放そうとしているのかもしれないな。

 でももういいや。

 言葉に花が咲くような小説なんて、俺には書けない。書けるようになったとしても、親との約束の期限までには絶対に間に合わない。

 パクリでも何でも構わない。オリジナリティなんかもうどうだっていい。

 結果を残した奴がすべてなのだから。売れなきゃ、何を言っても説得力がないのだから。作品が世に出て読んでもらえなければ、俺の伝えたいことは永遠に世界に生きる知らない誰かに届かないのだから。

 意味ないんだよ。自己満足なんて。


 俺は読み齧った異世界転生系ハイファンタジーの冒頭部分を思い出しながら、かなり適当にあらすじやキーワードを授業用レジュメの裏に書き殴った。正直、話の展開にはほとんど悩まなかった。


 「勉強も運動も平均以下の高校生、健太郎は周りから馬鹿にされ、鬱屈した日々を送っていた。こんな世界はもう嫌だと思って、いつも下を向いて歩いていた。そんなある日、トラックの目の前に子どもが飛び出していくのを見た健太郎。どこかでヒーロー願望を捨てきれずにいた健太郎は、子どもをどついて自分が代わりにトラックの前に思わず飛び出してしまう。

 誰かを助けて死ぬんなら、悪くない人生の終わり方じゃないか。あの世でそう思う健太郎。


 『トラックの前に飛び出した貴方、格好良かったじゃないですか。少しくらい、ご褒美をあげてもいいですかねえ』

 

 謎の声がすると同時に、目覚めた健太郎。そこには大草原が広がっていた。

 

 『あなたはこの世界で、もっと多くの人を救う勇者になるんです』


 気が付くと健太郎は『最強スキル』とされている『インヴィンシブル・ブレイブリー』を与えられていた。そして彼はその力を使い、最強の勇者として、世界の英雄になる。


 これは、矮小な一人の人間が、伝説になるまでの物語。」 


 ・・・こんな感じである。自分で書いといて言うのもなんだが、『最強』とか『勇者』多いな。タイトルは・・・『現世で馬鹿にされ続けた俺は異世界で最強の勇者になりました~転生バンザイ~』とかにしとくか。問題は女性経験のない俺が魅力的なヒロインを描けるかどうかだな。

 この、秒で書いたいい加減なあらすじに沿って、俺は大した設定も練らずに第1話を書き始めた。そもそもランキング上位の作品でさえ設定がガバガバなんだからまあ多少ガバってても問題ないだろう。


 <だって、お前の小説、つまんねえもん>

  

 ・・・・・・そうだよ。分かってんだよ。分かってるから、俺は――――

 突然頭の中をかすめた西野の声を一生懸命無視するように、投稿ボタンを押した。


 その時だった。

 俺の携帯電話がLINEの通知音を鳴らした。

 ロック画面を解除してLINEを確認すると、独創書荘のLINEグループに、メッセージが届いていた。

 

 『ご報告』

 



 

 

 

 

 

 

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