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第20筆 異世界への扉

お待たせしました。少し疲れていたので遅くなりました。

 「洋平は道を歩いていると、一ぴきのねこに出会いました。そのねこは弱っていて、今にもたおれそうでした。『こりゃたいへんだ。』洋平はねこを自分の家につれて帰り、牛乳を飲ませてあげました。ねこは元気になりました。

 『ありがとう。お礼にたからの地図をあげる』

 ねこはすっくと立ち上がって言いました。

 『ね、ねこがしゃべったあ!?』

 洋平はびっくりぎょうてんです。しゃべるねこなんて、はじめてみたのですから。洋平はとっても心ぞうがばくばくしました。

 『はい、どうぞ』

 ねこは自分の毛の中をごそごそして、地図を取り出し、洋平にわたしました。地図は毛だらけだったので洋平は毛をはらいました。その地図には、海の中を深くもぐったところに、たから箱の絵が書いてありました。

 『やったあ。たからの地図だあ。ありがとう』

 『へへへ』

 『きみも一緒に行こうよ』

 洋平は言いました。

 『でも、それはぼくが君にあげたから、もう君のものだよ』

 『だめだよ。ひとりじめするのはよくばりだもの。二人で探したほうが、一人よりも楽しいよ。だから、一しょに行こう』

 ねこはうれしくて、思わずなみだを流していました。

 さあ、二人の大ぼうけんの、はじまりはじまり。」


 ・・・おお。何じゃこりゃ。俺、こんなの書いてたのか。俺にもこんな時代があったんだな。今、同じものを書けと言われたら、恐らく書けないだろう。昔すぎて当時の自分の精神状態を全く思い出せない。

 先生はこの程度の話でも、言葉に花が咲いているように生き生きしてると言ってくれた。それはもしかしたら、こう書けば読者はこう思うだろうとか、読者受けする話はなんだとか、そういった余計なことを何一つ考えずに書けていたからかもしれない。今みたいに、プロになりたいなんて思っていなかった頃の方が、かえって良い話が書けていたのかもしれない。いわゆる、狙いに行くとダメってやつ?無欲の勝利ってやつ?

 「生きた作品」か・・・。何だろうな、それって。


 すっかり吐く息が白くなった寒空の下、キャンパス内はどことなく落ち着かない空気が漂っていた。1月ももう半ばになり、いよいよ期末試験や期末レポートといった単位認定が迫りくる季節だからであろう。

 「レポートだるいー」

 今北が隣で首を反りながらぼやいた。俺達の学科はテスト100%の法学部などとは違って、レポートがほとんどであり、期末試験は一部を除いて実施されない。3年生はゼミもあるため、発表の担当の班はその準備もしなければならない。冬休みが開けると途端に忙しくなる。

 「まあでも、流石に落とさんでしょ」

 「レポートはまあ締切までに出せばいけるとして、言語がヤバいんよ。俺去年ドイツ語落として、今年再履だもん。今年落ちたらマジでクソ」

 落とす落とさないというのは単位の話のことだ。ここで落とした分の単位は、4年生になって余計に取らなければ卒業必要単位数に足りないため、結局は今頑張ることが一番の近道である。また、大学には英語に加えて第二外国語が必修として課されるため、それを必要分取らなければ卒業できない。中国語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、ロシア語の中から選ぶのである。ちなみに俺は中国語を選択した。今北はドイツ語を選択したが、去年単位を落としたので、今年再履修なのである。自慢に聞こえるかもしれないが、俺は今まで単位を落としたことがない(いわゆる「フル単」)。

 

 さて、この大量に課されたレポートと期末試験を乗り越えると同時に小説を書くというのは時間的になかなか厳しい。とりあえず前に連載していた「Heal-ro」は、彩菜ちゃんに講評されてから、もう終わろうと思っていたので、その分だけ早めに書こう。

 しかし、期末試験・レポートは2月上旬まであるので、そこまで休んでいると、4年生になるまでの時間が減ってしまう。

 それならもう、ある程度書きやすそうなやつにするか。「生きた作品」について深く考察したいのはやまやまではあるが、今の俺があと2か月半程度でそれを創れるのかは疑わしいし、学校の課題も気を抜けるわけではない。よく様々な小説の中に出てくる、小説家気取りの単位落としまくり大学生にはなりたくなかった。せめて大学はきちんと卒業したい。現実的な思考が頭を支配していく。

 俺は空を見上げてため息をついた。

 俺という人間の底が見えてしまったような気がした。


 書きやすい話―――――

 そう、俺が想定していたのは、今流行りの「異世界転生」だ。似たような作品ばかりが本屋に並んでいるし、ネットカフェにもライトノベルのコミカライズ作品がまとめて置いてあった。その系のアニメもいっぱいやっている。まさに今の時代の最先端というべきジャンルだろう。そういうのをいくつか読んで真似して、ちゃちゃっと書けばいいんだ。そうすれば俺が今まで書いてきたような、無駄に哲学的、文学的を目指した、意識高い系の小説よりもヒットする可能性が高いだろうよ。

 

 俺は自分で考えるのを放棄することにした。

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

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