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第18筆 駄目なパターン 

 「本多君、こっちこっち」

 彩菜ちゃんが1階のラウンジの壁際に設置されているソファに座りながら、こちらに手を振った。机の上にはホッチキスで留めた小冊子が置いてある。たぶん、彼女は俺の小説を紙に印刷して読んだのだろう。俺は机を挟んで彼女の向かいに座った。

 「お疲れ」

 「お疲れ。わざわざありがとう」

 「いやいや、私も授業終わったところだし、全然。じゃあ、始めようか」

 彩菜ちゃんが姿勢を正した。俺もつられて背筋を伸ばした。これから講評が始まることで緊張しているせいか、口の中が少し渇いていた。

 「まず、ざっと読んだ感想言うね」

 「うん」

 「これって、『鬼殺しの刀』のパクリだよね?」

 「えっ」

 彩菜ちゃんは何の飾り気もない言葉で、俺の作品をそう評した。思わず驚いてしまったが、なぜ驚いたのか、その時は自分でも分からなかった。

 「違うの?」

 「・・・確かに、参考にはしたよ。でも、パクってるつもりはなかった」

 「そう。もしそうだとしたら、本多君はすごくありふれた作品を書いたってことだね」

 「・・・」

 「私は読んで、面白いと思えなかった。展開もキャラクターも予定調和ばっかりだし、感情も詳し目には書いてあるけど、説明臭くて、嘘っぽいと思っちゃった。何もかもが寄せ集めで、メッセージ性もない」

 「・・・」

 「残念だけど、これは私が読んできた本多君の作品の中で、一番ダメな作品だと思った」

 「・・・ありふれてちゃ、ダメなのかい」

 俺は下を向き、机を見つめて呟いた。彩菜ちゃんの目を見たくなかった。

 「世の中にある作品なんてさ、だいたいは先駆者のすごい作品に憧れて作ったようなものだろ。俺だってありふれた作品なんていっぱい見てきたよ。しょうがないだろ。売れる要素っていうのを自分なりに考えて、それを自分の作品に落とし込んだらこうなったんだよ」

 「確かに、そうかもしれないね」

 彩菜ちゃんは言った。

 「でもね、私は本多君にそういう話を書いてほしくないの。今までの本多君の作品は、もちろん拙いところもいっぱいあったし、賞を取れるようなものでもなかった。でも、最低限、本多君なりのオリジナリティはあったの。でもこの作品には、それが感じられないの」

 「オリジナリティ」

 「うん」

 「でも、今まで俺は評価されてなかったじゃないか。その証拠に俺は賞が取れていない。西野にもボコボコに言われるし。オリジナリティのない作品でも売れてるものなんていくらでもある。売れなきゃ、読んですらもらえないなら、自分で一生懸命話を考えたって意味ない」

 「本多君・・・」

 顔が熱くなるのを感じた。声が震えているのが自分でもわかった。

 「面白い作品を書けるのと、オリジナリティ溢れる作品を作れるのと、プロの作家になれるのとは、全部全然違うことだと思うようになったんだ。売れてる作品を読んでそう思った。読者受けする要素が入るのが、売れる作品なんだ」

 声が大きくなっていた。近くの席に座っていた学生がちらりとこちらを見る。

 「・・・本多君は、本当にそういう話を書きたいの?もし本多君が、書きたいものを我慢して、この作品を作ったのなら、私はそれは違うと思う。売れるためだけに作った作品なんて、つまんないよ」

 「・・・じゃあ、どうすればいいんだよ。俺だって今まで一生懸命頑張ってきたんだ。でもそれじゃ全然成功しなかった。だからやり方を変えようと思った」

 「それで、『小説家になろう』のPVは増えたの?」

 痛い所を付いてくる。残念ながら、更新するごとにどんどん一日当たりのPV数は減っていったし、ブックマークもまだ2件しかついていない。ランキングに載るなんていうのは夢のまた夢だ。

 「・・・増えてない」

 俺は項垂れて机に突っ伏した。もう立派な成人男性が、べそをかいて縮こまっている光景は、さぞかし滑稽なものであっただろう。

 「ごめんね、本多君」

 彩菜ちゃんの言い方が少し柔らかくなった。

 「私が正直に言うのは、本多君が本気だって知ってるからなんだ。でも、本多君のプライドをズタズタにするようなことを、言ってしまったのかもしれない」

 彩菜ちゃん。

 「謝らないでよ。講評してくれって言ったのは俺の方なんだから。どんなことを言われたって、読んだ人がそう思うなら、それがきっと真実だ」

 「・・・」

 「・・・」

 二人とも暫く黙っていた。が、やがて彩菜ちゃんが口を開いた。

 「本多君」

 「うん」

 俺はまだ机に突っ伏したまま返事した。

 「私が思う、『良い小説』を教えてあげる」

 「・・・うん・・・」

 「私が思う、『良い小説』っていうのはね――――」


 

 


 

 

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