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第16筆 連載開始!

 俺は10時45分から始まる2限の授業を聞き終えた後、今北達とはまた別の友達と昼ご飯を食べて、学内のベーカリーで一息ついた。そこで注文した熱い抹茶ラテをふーふー言いながら飲んでいると、携帯電話のバイブ音が鳴った。

 島本君が『独創書荘』のグループラインにノートを投稿したようだ。ノートを開いてみると、「初詣のお知らせ」と書いてあった。


 「1月5日にサークル員で初詣に行きたいと思っているので、参加される方はスタンプを押すかコメントしてください。時間は午前11時集合です。」


 ノートにはそう書いてあった。初詣か。うーん、小説書く時間取りたいからなー。でもたぶん一日中やるってことはないし、大丈夫か。俺ももう大学生活あと1年ちょっとだし、文芸サークルのみんなと会える回数もそう多くない。会えるうちに会っておくか。

 というわけで、俺は返事としてスタンプを押した。


 4限の授業が終わり、16時30分になった。今日はこれで授業が終わりだ。そして今年は明日で授業が終わり、1月7日まで冬休みになる。これで小説に集中できる。

 俺は西門を出て横断歩道を渡り、5分程離れたキャンパスにあるBOXに向かった。


 守衛さんから鍵を借りて階段を上り、3階にあるBOXの前に立つ。ドアの前にはこれまで新歓等で配ったチラシの余りに落書きしたものが乱雑に貼られていた。見慣れた光景だが、改めて見ると大学生ならではの「抑圧からの解放」的なメッセージを感じる。ちなみに隣のBOXは演劇サークルが使っているが、その扉に貼られたチラシや落書きの量はうちなんかとは比べ物にならないほど多く、混沌としているのに全体としてある種の秩序を感じさせる一つの芸術と化していた。

 扉を開けると、薄汚れた机が部屋の真ん中にあり、それを取り囲むように椅子が置いてあった。壁には本棚があり、部員が各々適当に持ってきた漫画や小説、ライトノベルや同人誌が所狭しと並んでいた。

 椅子に座り、パソコンを取り出して電源をつけ、「小説家になろう」のサイトを立ち上げる。「新規小説作成」ボタンを押し、俺は腕を組んだ。

 さて、兄弟の話を書くとは言ったものの、どういう話にすべきか。俺の弟のような奴を物語中に出しても、魅力的に映るかどうかは疑わしい。可愛くもない男兄弟に需要はあるのか。

 確か、『鬼殺しの刀』は兄が主人公で、妹がヒロインの話だった。

 妹か・・・

 俺は兄弟といえば弟しか知らないので、リアルな妹がどういったものなのかはよく知らない。しかし、せっかく物語を書くのであれば、俺にはいない妹を登場させても良いかもしれない。

 よし、決まった。

 主人公は男で、ヒロインは妹にしよう。で、妹は美少女にすると。ところでなぜ物語のヒロインは美少女が多いのだろうか?

 次はストーリーだ。

 『鬼殺しの刀』は王道のバトル物で、『君の心臓を食べたい』は病気のヒロインと主人公のヒューマンドラマだった。ジャンルが全然違うなあ。

 うーん・・・


 あ、そうだ。


 主人公の妹がある日突然、謎の病気にかかってしまうところから物語を始めよう。そこで主人公が妹の病気を治すために、医者を巡る。応急処置はしてもらえたが、治ったわけではなく、このまま放っておくと遠くない時期に死んでしまうと告げられる。で、その病気が近頃蔓延しており、その原因はある組織がばらまいたものだということを医者から聞かされる。そこで、主人公がその組織を倒して妹を治すことを決意し、妹と共に旅に出る。旅に出る過程で、様々な困難が待ち受けるし、主人公たちの存在に感づいた組織が刺客を送り込んでくるけど、そこで助けてくれた奴が仲間になって、・・・そうやって、仲間が増えつつ敵に近づいていき、最後はヒロインの病気も病気にかかった他の人達も治し、ハッピーエンドになる。

 

 的な話でどうだろうか。

 おお。悪くないんじゃないか。少なくとも「ヒロインが美少女」「主人公が妹思いで一生懸命で好感が持てる」「仲間たちとの出会いによる成長」「分かりやすい展開」といった売れる要素は入れているし、心理描写も『鬼殺しの刀』や『君の心臓を食べたい』のように詳細にすれば誰にでも伝わるように作れるだろう。あと一人称視点にすれば読者が感情移入しやすいかもしれない。

 よし。とりあえず、この話でいってみよう。

 俺は勢いのままに第1話を書き始めた。

 

 『おい、どうしたんだ、桜!』

 『お兄ちゃん・・・苦しいよ・・・』

 『待ってろ!俺が今すぐお医者さんに連れて行ってやるからな!』


 『そんな・・・治せないってどういうことですか!』

 『すまない。だが、我々にもどうすれば治療できるのかわからんのだ。何せ、最近急に流行った病だからなあ』

 『え・・・?』

 『ある筋からの情報によれば、この病気はダーク・ヤマイと呼ばれる悪の組織によってばらまかれたものらしい。そいつらなら、治し方もわかるかもしれんが・・・』

 『・・・俺、行きます』

 『何?無茶だ』

 『無茶でも何でもいい。妹を治すためならなんだってします』


 この後主人公は妹と旅に出る。そこで第1話は終わりだ。

 よし、これで投稿しよう。


 あ。

 タイトル、考えてなかった。

 

 

 

 


 

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