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第13筆 面白い作品

私用でしばらく忙しいので、次回更新は2月6日以降になる可能性があります。もしかしたらもう少し早く投稿できるかもしれません。ご容赦ください。

 二人は少し考えるような顔をしていたが、少しして今北が口を開いた。

 「面白い作品ってさ、小説でも漫画でも、アニメでも何でもそうだと思うけど、ごちゃごちゃ考える前に引き込まれてるもんだと思う。『面白い』って思うのは、直感的なもんじゃん。だから、面白い作品がなんで面白いのかって聞かれると、よく分かんねえかな」

 「なるほど。貴重な意見ありがとう」

 俺は今北が言ったことを早速メモした。確かに、今北の言うことには思い当たる節がある。物語そのものに没入していくような感覚。本当にレベルの高い作品は、そういうことができるのだ。夢中になっているとき、自分がいつの間にかその物語のキャラクターと同化しているように感じていたと思うことがある。

 「金田はどう?」

 「うーん・・・」

 彼はまだ少し考えこんでいるようだ。

 「すみません、大変お待たせしました。カシスオレンジとハイボール、それからチューハイになります」

 店員が注文した酒を運びにテーブルにやってきた。俺はカシスオレンジを取って自分の目の前に置き、ハイボールを金田に、チューハイを今北に渡した。

 「ありがとうございます」

「では、ごゆっくりどうぞ」

 店員が笑顔で去っていくその背中を見届けながら、今北がハイボールのグラスを前に突き出して言った。

 「それじゃ、かんぱーい!」

 「うぃ」

 「今年も1年お疲れ様でした」

 グラスがかんかんと鳴り、泡が中で跳ねる。3人ともほぼ同じタイミングで、酒を(あお)った。グラスを離した口から、一斉にぷはぁ、と息が漏れた。 

 「あ、そうだ。面白い作品、だったな」

 金田が思い出したように言った。

 「うん。何か思いつくことあった?」

 「そうだな。俺は別に、大したことは言えないけど。ただ、ストーリーが悪くなくても、キャラが好きになれない話は、俺は読む気になれない。なんだろうな、プラスの面白さよりも、読んでて不快感がない方が、好きかな」

 「なるほど・・・」

 プラス要素よりも、マイナスが少ない方を重視するという考え方だろう。

 「例えば、どんなキャラが好きになれない?」

 「んー、単純に嫌な奴。あと、癖の強すぎる奴とか、うざい奴とか。あとリアリティのないぶっ飛び方した奴も無理」

 物語のキャラクターも大変だな。読者に嫌われたら生きていけないかもしれない。俺は二人の話をメモした。

 「逆に好きなキャラは?」

 「うーん。やっぱり人間的にいい奴でしょ。あとは悲しい過去を背負いながらも懸命に生きてるとか?最初は悪役だけどやむを得ない事情があってそうなっちゃったとか?いろいろあるわ」

 「ありがとう」

 「いえいえ。ていうか、本多はどうなん?」

 今北が訊いてきた。

 「どういうこと?」

 「お前はどういう話を面白いって思うん?」

 「あー・・・」

 確かに、自分自身も読者の一人だから、それを分かっておくことは自分がどういう話を作るかって時に大事だな。俺は今まで読んだことのある物語を思い返してみた。

 「そうだな・・・」

 面白いと思った話。それはいろいろある。いろいろなタイプの「面白い」がある。

 「例えば、見ててわくわくするような話とか」

 「うんうん」

 「あとは、テンポよく進む話とか。一人一人のキャラクターの言葉が胸に響くようなやつとか。一本調子じゃなくて、泣いたり笑ったりできるやつとか」

 「そうか、言われてみればそうだな」

 「まあ、今思いつくのはそんな感じかな」

 「俺もそう思うわ。な、金田」

 今北が金田の横顔を見て言う。

 「そういうのもあるよね。でも、一つ一つの話はそれぞれ違うし、『面白い』に共通する要素を抜き出すと、どうしても抽象的にならざるを得ないよな。本多には悪いけど、あんまり役に立つようなこと言えてないかも」

 「いや、十分だ」

 多くの人が面白いと思う話というのは、読む人がある程度違っても、ある程度同じように心に作用してくるのだろう。俺と今北、金田との間である程度意見が一致したように。だから、今出たような要素を拾っていけば、たぶん「面白い」の一定水準をクリアできると思う。

 よし、とりあえず物語を作る際の大まかな方針は見えてきた。

 「今度、本多が書いたやつ見せてよ」

 金田が言う。

 「うん」

 俺は頷いた。

 それからは料理を食べながら、もう年末かーと話し始めた。今北が俺に恋人はいないのか訊いてきたり、冬休み明けのテスト期間が怠いと愚痴を言ったりして過ごした。そして、2時間ほど過ぎて、俺達は店を出た。

 「じゃあ、お疲れ。本多、来てくれてありがとう」

 「うん」

 「よいお年を」

 今北の家は反対方向だから店の前で手を振って別れの挨拶をした。

 「よいお年を」

 俺と金田は歩き出した。

 「本多は進路、どうすんの?」

 「作家になる・・・つもり」

 「おおー。すげえ。頑張って。応援してる」

 金田は笑わなかった。

 「じゃ、俺こっちだから」

 「うん。よいお年を」

 「よいお年を」

 金田が左に曲がり、俺は横断歩道を渡った。


 帰りに、何となく家の近くの本屋に寄った。店の中の低めの段には、挑発的な煽り文句の帯が巻かれた小説が大量にあった。その中には『芥川賞受賞作』とか『本屋大賞第2位』とか書かれたものがあった。一体この中のどれくらいの人が、一発屋で終わるのだろう。どれくらいの人が、後世に語り継がれるくらいの話を書けるのだろう。一体、どれくらいの人が挫折して筆を折るのだろう。

 でも、もしこの人達の中に一発屋がいっぱいいたとしても、一発当てている時点で、当てていない俺よりも確実に上なのだ。その一発が、最も大きな、超えられない壁なのだから。

 プロ作家を目指すってことは、この人達と戦うということなんだ。

 俺は確かな闘志を胸に抱き、力強く一歩を踏みしめた。

 

 

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