第11筆 初投稿
ついに連載部分が二桁になりました。今後ともどうぞよろしくお願いします。
柔らかな光が差し込む朝、目が覚めた。まだ少し残る眠気を吹き飛ばすように顔を洗い、眼鏡ケースから眼鏡を取り出す。
「おはよう」
母親が味噌汁を作りながら俺に挨拶した。俺は挨拶を返した。
「もうすぐご飯できる?」
「まあ、あと5分くらいかな」
「分かった」
あと5分あれば十分だ。俺は自分の寝室のある2階に上がり、パソコンを立ち上げた。明日が来るのがドキドキして眠れなかった――――という遠足前の小学生メンタルでは流石になく、いつの間にか眠ってはいたのだが、一晩たってPV数がどれくらいになったのかが気になってしまい、起きた時からソワソワしていた。
心内がざわつくせいか、「小説家になろう」のログイン時に要求されるパスワードがうまく打てず、入るのに少し手間取った。そして、ユーザホームから管理ページに飛び、小説のアクセス解析というところに辿り着いた。
さあ、初投稿の成果はいかに――——!!
俺は深呼吸して「南無三!」と言いつつ、アクセス解析をクリックした。
「小説全体 PV
小計 30アクセス
パソコン 18アクセス
携帯 0アクセス
スマートフォン 12アクセス」
アクセス解析には上記のように書いてあった。
「これは・・・どうなんだ?」
思わず画面の前で呟いていた。30というのは多いのか少ないのか。単純に考えれば30人も俺の小説を見てくれたことになるが・・・
感想、ブックマーク、レビュー、評価についてはいずれも0だった。PVは小説の画面さえ見れば1アクセスと数えられるようなので、仮に30人が見てくれたとしても、きちんと読んでくれた人はいないかもしれない。原稿用紙150枚くらいと長いし。
「うーん・・・・・・」
俺は喜んでいいのか落ち込んでいいのか良くわからず、ただ中途半端な高揚感だけを残してパソコンをシャットダウンした。ちょうどその時、母が1階から朝ご飯ができたよ、と呼ぶのが聞こえた。
朝食を食べ終わった後は歯を磨いて、再び2階へ向かった。火・水・木と文化祭が続き、金曜日が文化祭の翌日で休みになり、その次は土日で休みであるため、大学生は6連休となる。今日はそのうちの土曜日だから学校の授業はない。正確に言えば土曜日に実施される授業を履修すれば土曜日も学校で授業を受けなくてはならないが、俺は今学期は土曜日の授業を履修していないので、行く必要がない。だから今日は家でのんびりしつつずっとこれからのネット投稿戦略を考えることができる。
だいたいどのくらいのPV数やブックマーク数があれば人気作と呼べるのか、書籍化できるのかの参考にするため、ランキングの上位に来ている作品や、小説全体でブックマーク数が最も多い順という条件で小説を検索してみた。
そうすると、「完結済」「連載中」の文字が上から並んでいるのが分かる。何ページか見たが、短編は載っていない。しかもだいたいの作品が100以上の連載部分を誇っており、中には600以上の大長編もある。
なるほど、そういうことか。連載小説の方が、PV数やブックマーク数を稼ぐうえでは圧倒的に短編よりも有利なんだ。
考えてみれば当たり前の話だ。もう一度なろう攻略サイト的なものを調べ直してみたが、短編は投稿すれば「新着の短編小説」に掲載されるが、それ以降は新しく他の人が投稿した短編作品であっという間に掲載欄が塗り替えられる。そして短編はその性質上1部分で完結してしまうから、PV数を伸ばすチャンスは1回しかない。埋もれていけばいくほど不利になり、誰にも見られなくなる。
それに対して、連載小説であれば投稿するたびに「更新された連載小説」の欄に載るから、1部分の投稿ごとに人に見てもらえるチャンスがあるわけだ。しかも長く続けば続くほど、そのチャンスは増えることになる。だから長編の連載小説が必然的に上位に食い込むのだ。
あー、しまったな。短編じゃなくて、ちょっとずつ分けて連載小説の形式にすればよかった。まあ、次から気を付けよう。
そして俺が予想した通り、記念すべき初投稿作品である「千年目の終止符」のPV数はどんどん減少し、100PVを超えたあたりでついに1日のPV数が0になった。そして、それが数日続いた。当然、ブックマークも感想もレビューも評価も0だ。短編にしては長すぎたのも問題だったのだろう。
うーん・・・一回削除して、連載小説の形式で投稿し直すか。でも、削除ボタンを押すと、「なるべく削除はしないようお願いします」って出てくるしなあ。一応保留しておくか。もし今後、俺の連載小説を「面白い」って思ってくれる人がいれば、この作品の読者も増えるかもしれないし。
そんなこんなで、初投稿の日からは毎日小説のことを考えていた。文化祭ムードはすっかり収束した中で授業は再開し、気づけばもう、12月の中旬に突入しようとしていた。
ああ、時が流れるのは早いなあ――――
学校の西門近くに植えられている、卒業生寄贈の大樹を眺めながらしみじみと感じていると、携帯がぶーっ、ぶぶっと鳴った。
見てみると、学部の友達からLINEのメッセージが来ていた。
『来週の土曜、3人でカラオケ行かね?』
カラオケか・・・正直今は小説書く方に集中したいんだよな。
俺が断ろうとしてキーボードに手を伸ばしたその時、
『もっとよく人間を観察しろ』
西野の言葉がふと頭をよぎった。
待てよ、そうだとすれば、これは人間観察のチャンスなんじゃないか―――?
俺は一転して翻意し、『行こう』と友達に送った。