第10筆 いざ、ネットの世界へ!
『お前みたいな素人はさ、ネットにでも投稿すんのがお似合いなんだよ』
俺は家に帰ると布団にダイブし、寝転がりながら西野の言葉を脳内で反芻していた。
インターネットか。
確かに、インターネット上で小説を発表するサイトがあるのは知っていた。しかし実際に投稿したことはない。なぜなら、そういうのは趣味で小説を書く人達の溜まり場であって、プロの作家を目指す道としては違うと思っていたからだ。
しかし、賞に応募したところでもう3年も鳴かず飛ばずなのだから、このまま同じことを繰り返していても、デビューはできない可能性が高い。親にも嫌というほど現実を突き付けられたところだし、もうそろそろやり方を変える必要があるとは思う。
今日は11月30日だ。明日から12月が始まるから、4年生になるまではあと丸々4か月しかない。悠長なことは言っていられないし、手段を選んでいる場合ではない。
しょうがねえ。ネットでも何でも、可能性が少しでもあるなら、やるしかないのだ。
やってやろうじゃねえか。
とりあえず、インターネットで「小説 投稿サイト」と打って調べてみた。すぐに画面が切り替わり、検索結果が表示される。
上から順に「ノベリズム」「小説家になろう」「カクヨム」という投稿サイトの名前が出てくる。それに続き、「小説投稿サイトオススメ9選」という記事を見つけた。投稿サイトをいきなり見ても何が何だか分からないので、とりあえず件の記事をクリックして開いてみる。
その記事によれば、まず「小説家になろう」というのが最も人気だと紹介されていた。数ある小説投稿サイトの中でも最大規模を誇っているのだそうだ。『近年では小説家になろう出身の作品が書籍化、アニメ化することが多く「なろう系」というアニメジャンルの言葉まで誕生しました』とまで書いてある。確かに、書店とかで「小説家になろう発!」という煽り文句の帯が付いた本を見たことがあるから、それなのだろう。
次に「カクヨム」というサイトが紹介されていた。角川がサイト運営をやっているらしい。角川出版の漫画はいくつか読んだことがあるが、どれもそこそこ面白かった。ある程度信頼できるサイトなのかもしれない。
他にもいろいろあったが、とりあえずは最も人気で規模の大きい「小説家になろう」に投稿してみようと思った。正直、記事を読んだだけでは違いはよく分からない。
というわけで、早速、「小説家になろう」のホームページに飛んでみた。すると、「月間ランキング」という文字が目に飛び込んできた。どうやらその下に数字と共に書いてあるのが、人気作のようだ。どれもタイトルで2行以上使っており、長い。ジャンルの端には「恋愛」「文芸」などと並んで「異世界転生」とあった。
クリックしてみると、ランキングが10位まで表示されるのだが、その中に「悪役令嬢」が二つも入っていた。試しに「悪役令嬢」でサイト内検索をかけてみると、なんと1万件以上もヒットした。全体の作品数が78万ほどだから、およそ78分の1を占めていることになる。
いやいやいやいや・・・
ちょっと待ってくれよ。
悪役令嬢多すぎない?どういうこと?何で?
あまりの多さに愕然としてしまったが、一件一件確認すると膨大な数になるので、とりあえず置いておいた。画面を下にスクロールすると、「人気キーワード」というリンクを見つけた。これを見れば、よく書かれているジャンルがわかるようだ。クリックしてみると、「ざまぁ」「もう遅い」「成り上がり」「チート」「ハーレム」など、それだけでもう展開がある程度分かってしまうような言葉が並んでいた。そして、やはり上位には「恋愛」が食い込んでおり、読者も多いことをうかがわせた。
こういう流行りのジャンルに乗っかっていけば、ある程度読んでもらうことはできるのかもしれないが・・・しかし・・・
俺には描きたい異世界は特にない。描きたくないのに書いてもしょうがないよなあ。
とりあえず流行りのジャンルの人気作だけチェックして、大体の人気傾向を掴んでおこうと思った。上位に来る作品なら、それだけみんなが「良い」と認めたということだし。
さて、俺は何を投稿するべきか。賞に落ちた作品はいくつか持っているから、それを出すか。「連載小説」と「短編小説」があるようだが、完結しているから「短編」でよいだろう。
というわけで、俺はこの間落ちた作品「千年目の終止符」を出すことにした。原稿用紙100枚以上という縛りがあったので、結構長いが。
あらすじはどういう風にするか・・・ネタバレにならないようにしないとな。
「俺の前にある日、自分を殺してくれという男が現れる。男は『私はもう999年も生き続けてきました。1000年目の今年こそ、死にたいのです。ところが、いつまで経っても死ねない。だから殺して下さい』と言った。こうして、俺はこの男とともに、彼を殺す旅に出たのだった―――――」
まあ、こんな感じでいいか。時間は夜のほうが読者数が増えやすいそうなので、夜10時くらいまで待った。俺はパソコンの前に座り、「南無三!」と言いながら、『投稿する』ボタンを押した。
さあ、どんなもんだろうか―――――――
俺はドキドキしながら布団に入って、翌朝の読者の反応を寝て待った。