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魔法使いの弟子と白の魔女  作者: かなん
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第5話 初の飛行

毎日投稿継続です(遅刻)



 初めて、街の結界の外で任務を行った日の翌日、渚沙が魔法協会本部のロビーへ着くとそこには既に指導者メンターであるグウェンの姿があった。


 「すいません、お待たせしました」

 「ん?あ、全然そんなことないよ。むしろ、十分早いくらい」


 備え付けのソファから立ち上がったグウェンがテーブルに広げていた書類をカバンにしまう。朝九時、人通りの多いロビーにはテレビなどでよく見かける著名な魔法使いの姿も多くある。目の前のグウェンもその一人ではあるのだが、どうにも、戦っている彼の姿と普段の気の抜けたような彼が同一人物だとは思えない。


 「じゃあ、今日はユルグの森と、森の先のグレンデル渓谷まで行こうか。体調は大丈夫?」

 「問題ありません」

 「それは良かった。調子が悪くなったらいつでも僕に言ってね」

 「・・・ええ」


 外に出て、グウェンが指笛を二度鳴らすと二本の箒が二人の前に降りてくる。

 箒、とは言ってもそれは見た目だけで、その正体は正式名称『バレー・カイト』、箒のような形をした鳥の一種だ。よく見れば、箒の先端にくちばしや目があるのが分かる。この街では本来の箒を『掃き箒』と呼び、この生物を『箒』と呼んでいる。


 「ウィノー、よろしくね。由川さんはその子、チルに乗って。チル、頼めるね?」


 甲高い、それでいて耳障りのいい声で鳴いたチルと呼ばれた箒は折りたたんでいた羽を広げて渚沙に、背中へ乗るよう促してくる。学院での練習通りに乗ると、箒は加速感を感じさせない、滑らかな飛び方で空へと昇った。


 「いい乗り方だね、ちゃんと箒に寄り添ってる」


 隣に上がってきたグウェンが言う。


 「いえ、教えられたとおりにやっただけですから」

 「それができていない人も多いんだよ、箒にも意思があるのを分かってない人がね」


 出会ってからは常に朗らかだったグウェンの少し険のある声音に驚く。こんな声も出せるんだ、などと少し失礼な考えが浮かぶが、流石にそれを口に出すような真似はしない。

 そして、彼もすぐに切り替えて渚沙の方に向き直る。


 「余計な事を話したね。そろそろ行こうか。乗り方は分かるだろうけど、今回はチルに任せてあげて、ちゃんと僕についてくるから」

 「分かりました」

 「よし、じゃあ行くよ。ウィノー、ゴー」


 グウェンが言うと同時に二匹の箒が加速する。

 時速にして30から、40キロ程度の速度で補助具も無しに街中を飛ぶというのは、高所が苦手な人からしたら絶叫物の体験だろうが、慣れてしまえばこんなに楽しいものも無い。

 緩やかな風が頬を撫で、街の景色が背後へと流れていく。


 「・・・気持ちいい」


 思わず、素直な感想が漏れる。見習いの魔法使いは一人で箒に乗る権利が無い。こうして、指導者メンターに付き添ってもらう必要がある。学院の授業では指定された範囲の外を飛ぶことはできなかった。


 「初めての飛行、楽しんでもらえてよかった」

 「っ、いえ・・・まあ」


 だから、そんな彼の言葉に少し取り乱す。完全に油断してしまっていた、他人の目の前だというのに。そんな渚沙の様子をほほえましく見守っていたグウェンが話を続ける。


 「由川さんには、今日も僕の任務を手伝ってもらうね」

 「はい」

 「けど、『解放』の使用は禁止する。いいね?」

 「え、それはどういう・・・・」

 「言葉通りの意味だよ、まだ未熟な君にあの技を使わせるわけにはいかない」

 「・・・はい」


 『解放』、魔法使いの切り札とでも言うべきその技は学院では習っていない。渚沙が独自に習得したものである。昨日使ってそのまま動けなくなってしまった彼女は、頷くしかない。


 「独学で覚えたの?」

 「ええ、まあ」

 「そうか・・・君は才能があるんだね」

 「そんなことないですよ」


 少し、食い気味に答えてしまってから後悔する。普段とは違う渚沙の様子をグウェンが訝しむが、それきり黙り込んでいると、彼の方から話を変えてくれた。


 「『解放』は難しい力だ。一歩扱いを間違えれば自爆してしまう、君も身を以て知っていると思うけど」

 「・・・はい」

 「もし、君がよければだけど、時間のある時にでも僕が教えようか?」

 

 とても魅力的な提案だった。現役の、それも一等魔術師に教えてもらえることなど滅多にない。普通であれば、上手い話には裏があると疑うのだが、僅かな付き合いとはいえ、目の前の男性がそんなことをするはずもない、底抜けのお人好しであることは渚沙にもわかる。


 「先生が、よろしいのでしたら」

 「よし、じゃあ、約束だね」

 「約束、ですか・・・そうですね」


 街を出るタイミングで、強く風が吹きつける。結界を抜けた先に広がるのは、かつて始まりの魔女が作り出したと言われる巨大森林ーー『ユルグの森』だ。

 

 

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