第三話 面談
腰まで伸びた黒髪、女性よりも女性らしい白い肌、もう春も終わりだというのに黒灰色の魔導士専用ロングコートに身を包み、両手には長手の白手袋。整っていると言える、気の弱そうな顔立ちには緊張しつつもこちらを安心させようとしているのか、強張った微笑みが浮かんでいる。
優しそうな人、だけど、頼られるタイプでは無さそう。
由川渚沙は出された珈琲に口を付けながら目の前に座る男性、グウェン・バーレインを評価する。
「えーと、まずは自己紹介を、僕はグウェンといいます。よろしくお願いします、由川さん。申し訳ないけど、いくつか質問させて貰っても?」
「はい、どうぞ」
「・・・まず、なんで僕のところに来ようと思ったのか聞いても?君の成績なら他にいくらでも選択肢があったように思えるけど」
「・・・私の成績では一等以上の魔術師に指導を頼んでも取り合ってもらえないので、唯一可能だったあなたに」
「な、なるほど・・・ところで、僕の経歴とかは知ってるよね?」
「ええ、まあ・・・」
「よく、親御さんが許可出してくれたね?」
「親、いないので」
それを聞いたグウェンはなんとも言えないような表情をつくるが、すぐに取り繕って話を続ける。
「そう、じゃあ特に問題も無いので、君を僕の指導生として認めます。これからよろしく、由川さん」
「はい、お願いします。先生」
軽い握手をして、すぐに手を放すとグウェンはさっそくとばかりにいくつかの書類を取り出した。
「今日、この後の予定は大丈夫?よければ、僕の仕事に付いてきてもらいたいんだけど。現場を体験するのはいい経験になると思うし」
「ええ、大丈夫です」
「よかった、なら、どれがいい?今、ぼくの受け持ちはこの4つなんだけど」
書類にあったのは、指導者のいない見習い魔法使いでは受けることのできない、それでいてそこまで危険度の高くない任務ばかりが並んでいた。
(一等の魔術師に回ってくる仕事じゃ無い、私の指導者になるから、わざわざ?)
指導者になることには、魔法使い達にとって二つのメリットがある。
一つは人材の発掘。指導者になれば、指導した優秀な魔法使い見習いを自分の助手としてスカウトしやすくなる。
もう一つは等級の上昇。指導した魔法使い見習いが三級等上の魔術師になればその指導者は一等の魔術師として認められる。
グウェンは既に一級であるから、後者は無い。だが、前者の場合は、大体がスカウトによるものだ。
つまり、彼はメリットなど関係無く、ただ渚沙を指導するためだけにこんな事をしているということになる。
「呆れる程に良い人ですね、先生は」
「ん?何か言った?」
「いえ、最初はこの任務にさせて貰います」
そう言って渚沙が手に取ったのは、湖における水魔の討伐であった。