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平和です 8

魔族にとって憧れの職業である魔王城勤務。

長年の夢だった魔王城に一般衛兵として勤めることが叶った。

命を懸けてお守りするのだと決意を胸に初日を迎えた俺は、隊長から言われた言葉に首を傾げた。


「決して死ぬな。命を優先させろ」


魔王様のために命を張れることは名誉である。

それなのに、死ぬなという。

意味がわからない。






先輩と図書室前に立つ。

といっても図書室の利用者なんてほぼ居ないので、警備する意味などない。

それでも立ってなければいけないのは、図書室を利用するにはある程度の身分がないと入室できないからだ。

入室の制限のためだけにいる、閑職だと言える。

そもそも魔王城で本を読む暇のあるやつなんて居な……

「こんにちは」

「おう、シーナちゃん。その本もう読み終わったのか?」

先輩の前に、ちっこいのが立ってにこやかに話してる。

美形が多い魔族には珍しい平凡な顔立ち。いや、愛嬌はあると思う。

だが顔も体つきも未成熟で、茶色い髪は地味に見える。

薄い緑色のワンピースに薄黄色のストールを羽織った子ども。

手には分厚い本がある。

こちらに気づくと小さく首を傾げた。

「初めまして、ですよね?」

「こいつ先週入ったばっかりの新人なんだ」

先輩が俺を紹介するのを聞いて、その子どもは軽くお辞儀した。

「料理番の下働きのシーナです。よく図書室にお邪魔するのでこれからよろしくお願いしますね」

料理番の下働き?そんな奴が何で図書室に入れるんだ?

通常であれば入れるはずもない身分だ。

だが、先輩はこいつが図書室の常連であるような扱いをしている。

つまり、入れる何かがあるということ。

俺のあやふやな返事を気にした様子もなく、子どもは慣れた様子で図書室へと入って行った。

先輩が止めないのだから、何か理由があるのだろう。

戸が閉まったのを確認して、先輩の方を見ると苦笑いしていた。

「今の子はシーナちゃん。絶対に顔を忘れるなよ」

「あの……今の子は一体……?」

「彼女はな」

先輩の言葉が止まった。

いや、時間そのものが止まった気がする。

背筋が凍るような圧倒的な存在感。

御尊顔を知らずともその御方が彼の御方であると、全身が訴えてくる。

艶やかな黒髪の隙間から覗く紅い怜悧な瞳が、図書室へ続く戸を見ている。

「シーナは中か」

「はっ!おひとりでございます」

「誰も通すな」

他には目もくれず、真っ直ぐ図書室へと入って行った。

完全に戸が閉まると、漸く息が吐き出せた。

魔王様、だった。

雲の上の存在で、御尊顔を拝謁することなど夢だと思っていた、魔王様。

それがたった今、目の前を過ぎて行った。

やばい、腰抜けそう。

「あー……間に合わなかったかー」

「レフ様」

赤茶けた髪色の男が、魔王様が来られた方と同じ方向から歩いて来た。

先輩が様を付けて呼ぶということは、恐らく魔王様の側近だ。

「魔王様とシーナ嬢は中だろ?」

「ええ、たった今入っていかれました。誰もお通しするなとのご命令です」

「シーナ嬢との時間邪魔したら不機嫌になるからなー」

先輩が苦笑した。

「今日は休日のようなので夕方まで離れないでしょうね」

「だよなぁ。厄介な案件が入ってきたからシーナ嬢に会う前に伝えときたかったんだけどな」

「成る程。彼女に魔王様の機嫌を取ってもらうんですね」

「不機嫌でもシーナ嬢効果で上機嫌になるからな、あの御方。しょうがない、オレは邪魔しないように政務室に戻るわ」

「はい」

「お、お疲れ様です!」

ひらりと手を振って去って行く魔王様の側近に慌てて頭を下げる。

その背を見送って、少し考えてみる。

これまでの会話から察するに。

「もしや、魔王様の唯一ですか……?」

先輩に問いかければ、首肯が返ってきた。

あんな普通の、ひ弱そうな子どもが……?

「本人に自覚はないがな」

「へ?」

「シーナちゃんはあの御方が魔王様だと知らない。自分が魔王様の唯一であることも気づいてない」

それはつまりどういうことだ?

「魔王様の片想いなんだよ……城の連中全員が知ってるのにシーナちゃん(本人)だけが知らないんだ……」

そう語った先輩は、遠い目をしていた。

片想い。あの威厳ある魔王様が、あんなちっさい子どもに片想い。

嘘だろ。





数時間。

魔族最強の魔王様がすごく不憫に見えるという不可思議な光景を目の当たりにした。

魔王様、頑張ってください‼︎




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