平和です……?
神話の時代より続く魔族の王。
その記録は膨大な量となり、魔王城の記録室に保管されている。
【xx年--月xx日】
人間の襲撃により魔王様が身罷られた。
城内でも甚大な被害をもたらした人間を討ち果たされたが、
最早魔法でも助からないほどの重傷であった。
魔王様が父神の庭へ召されたのち、次代の魔王様が誕生された。
恐ろしいほどの力を秘めた魔王様の誕生に、
遺された者たちは歓喜した。
【**年--月--日】
料理番・総料理長ガンツ殿が終焉の森にて人間の娘を保護した。
異なる世界から来たという娘シーナを料理番として雇う。
前回の襲撃から四十年程。
人間の密偵ではないかとの疑惑が上がるが、
全く魔法の使えない、戦い方も知らない無知な子供に
密偵が出来るとは思えない。
しばらく監視をすることにする。
【**年--月##日】
異世界の人間シーナが階段から落ちた。
受け身も取れず気絶していたシーナをガンツ殿が発見、
すぐに回復魔法にて体の傷を癒す。
目を覚ましたシーナの証言は以下の通りである。
『階段から落ちたら帰れると思った』
階段から落ちてこの世界に招かれたらしい。
監視させていた同室の者たちの証言でも
彼女は帰りたがって泣いていることがあるという。
まだ十数年しか生きていない幼子ならば当然であろう。
監視ではなく、見守ることにする。
【**年##月--日】
最近、魔王様のご機嫌が麗しい。
昼時に何処かへ行かれるが、
午後にはお戻りになり機嫌よく政務をなさる。
良いことなのだが……何があったのだろうか。
【##年**月--日】
シーナはすっかり料理番に馴染んだ。
ガンツ殿がシーナの世界の料理に興味を持ち、
時折出される珍しい料理に城内の者の反応がとてもいい。
同室の娘たちとも関係は良好。
魔法の練習を一緒にしているのをよく見かける。
ただし魔法の適性が低いのか、あまり強くはないようだ。
本人は楽しそうにしているから気にしてなさそうである。
【--年--月xx日】
人間の寿命は六十から七十年ほど。
我ら魔族に比べて瞬く間に老いて一生を終える。
シーナの世界の人間もそうだという。
なのに彼女が来て随分経つが成長も老いもなく、
未だに来た頃のままの姿でいる。
世界を渡った影響なのだろうか。
【--年--月--日】
同室の娘たちがシーナに服を贈ったらしい。
淡い緑のワンピースを着てガンツ殿に見せに行く姿は
親を慕う子供のようだった。
そしてシーナを見て目頭を抑えるガンツ殿は
娘が嫁に行く時の父親のようだった。
とは、見ていた料理番たちの言である。
【##年xx月--日】
人間がきた。違う、襲撃だ。
そうだ。魔王様が誕生して百年近い。
城内にて数名が死傷。
ガンツ殿の命令で隠れていたはずのシーナまで襲われた。
魔王様により救助されるも傷は深く、意識もない。
魔王様がシーナに治癒魔法をかけ続けたお陰で
一命は取り留めた。
【##年xx月##日】
襲撃により死んだものたちを父神の庭へ送り出した。
シーナと同室であった娘たちも父神の庭へと旅立った。
シーナはまだ目覚めない。
魔王様は時間の許す限りシーナの傍にいた。
いつの間に出会ったのか、
シーナは魔王様の唯一だったようだ。
どうか死なないでくれと祈るほかない。
【##年--月xx日】
シーナが目を覚ました。
傷口は完全に塞がっていたが高熱を出す。
誰も戻らない四人部屋にパニックを起こして暴れた。
魔王様の計らいでシーナの部屋を居住区の一画にある
警備が万全な貴賓室へ移した。
【##年--月--日】
シーナが吐いた。
食事どころか水さえも吐く。
ガンツ殿の果物も受け付けない。
見る見る衰弱していく。
人間の脆さを実感した。
【##年--月**日】
魔王様が魔王城を包むように結界を張られた。
絶大な魔力を保有する魔王様でさえ昏倒する程の、
命懸けの結界は強固だった。
そして配下に死を禁じた。
全てはシーナのため。
【##年**月xx日】
少しずつシーナが元気を取り戻した。
魔王様の配下として頑張るとやる気を出している。
配下じゃなくて伴侶では?
【¥¥年xx月--日】
シーナに後輩ができた。
先輩として張り切るもガンツ殿が狩ってきた肉で手を切り
ガンツ殿に肉を取りあげられる。
ゴブリン以下の弱いシーナに肉を切るのは荷が重いようだ。
以後、シーナには野菜しか切らせてないとのこと。
【¥¥年--月--日】
ガンツ殿の狩りにシーナがついて行った。
転けて帰ってきた。
ガンツ殿がこの世の終わりのような顔をして帰って来たので
料理番たちが大騒ぎした。
膝を擦り剥いており、治癒魔法をかけようとしたが
本人がすぐ治るからと拒否。
その後、魔王様とガンツ殿に説教をされる。
終焉の森への立ち入りを禁止された。
シーナは不服そうであったーーーーーーー••••••
「これ、城内の記録というよりシーナ嬢観察日記じゃ……?」
「魔王様に見つかる前に処分しろ!」
当代魔王様の側近たちによって記録の一部消失したとか。
しなかったとか。