平和です 6
「帰省?」
「そー。妹の結婚が決まったらしくって」
ふわっふわのうさ耳が可愛らしい友人が、夕食の席でしばらく休んで故郷に帰ることを報告してきた。
彼女はこの城でメイドをしている。うさ耳(本物)メイドが普通に存在するのがこの世界。
見た目もおっとりした口調も最高に可愛いけど、彼女も戦闘系メイドなので普通に強い。
こないだ熊っぽい大男に言い寄られて、ぶん投げてた。自分より倍以上大きい大男を。魔王様に謁見に来たお客様らしいけど、窓から勢い良く投げ捨ててた。
仕事が休みで読書しようと中庭に向かってた私は一部始終をバッチリ目撃。
私と目があった彼女は照れ笑いで誤魔化してきた。テヘって笑ううさ耳美少女メイドがあざと可愛い過ぎて即誤魔化されました。可愛いは正義だよね。うん。
因みに大男は衛兵さんに連行されたそうだ。他の子が言ってた。
「まあ今回も破談になると思うけど〜」
「破談?結婚決まったんじゃないの?」
「妹がね、昔から自分より強い男じゃないと結婚しないって言い張ってて。今までも何回も結婚が決まってすぐに相手の男を再起不能にして破談になったのよ〜」
アマゾネスかよ。
緩い口調に騙されそうになったけど、言ってる内容とんでもない。
この美少女の妹だから、多分うさ耳美少女。が、自分より強い男と結婚したいが為に相手を再起不能にすると。見た目詐欺すぎじゃない?
「わたしの種族って多産型だからね〜。子が出来にくい種族から引く手数多なのよ」
「もしかしてこないだ言い寄ってきてた大男も……?」
「そー。わたしも弱い男は嫌だもん」
ブルータス、お前もか。
「生き残るためには少しでも強い血を残さないとね〜」
「なるほど」
ただの脳筋じゃなくてちゃんと納得できる理由だった。
自然界でよく聞く話と一緒で、弱者から淘汰されて行く。だから少しでも強者と縁を結んで、強い子孫を残そうとする。
ただでさえ勇者という不条理な暴力が魔族を襲ってくるのだから、それも当然のことだと思う。
「そうなると魔王様はモテモテな訳か」
「そーね。魔族の頂点に座す方だものー。見目も麗しいから色々縁談を持ちかけられてるそうよ」
「さすが魔王様」
強くて美しくて、さらに配下にまで気を配ってくれる最高の王様とかモテないはずがない。
出来たら奥様も配下に優しい人がいいです。心の中で祈っとこう。
「ということはゴブリン以下の最弱生物は嫁の貰い手ゼロってことじゃん‼︎」
正直自分の寿命がどれくらいか知らないけど、一生独り身?異世界でぼっち?何ソレつらい。
そうだよ。いずれ友人達も可愛い弟も結婚して家庭を持つに決まってる。だってみんな顔良し、仕事できる、戦闘も当然の優良物件ばっかり。
……………………よし、私はガンツさんに一生ついて行こう。優しいガンツさんならきっといかず後家の最弱生物でも放り出したりしないはず。
料理番の下っ端として頑張って生きて行こう……
「えー、シーナは大丈夫でしょ〜」
「なんでよ。強さが第一の魔族で、ほぼ人間の私とか無理でしょ」
しかも人間以下の魔法レベル。人間の幼児でももっと使えるって言われたんだからね!
「魔王様の統べる魔王領だって魔族の領土とはいえ、人間もいるのよー?」
「そうなの?」
「人間同士なのに馴染めない人間っていうのが居るらしくてね、時々こちらに移り住むのよ。だからね、見た目が殆ど人間と変わらない人たちは人間の血を引いてたりするの」
アー君やレフさんが殆ど人間と変わらないのはそういう理由もあったのか。
魔族はなかなか奥が深い。
「そういう人たちは諜報員として重宝されるのよ〜」
「それって、ただし強いものに限るっていう注釈付かない?」
「つくわねー」
どう足掻いても私じゃ役立たずじゃんか!
うさ耳の彼女は夜のうちに“終焉の森”を越えるらしく、食後はそのまま別れた。
夜の森は危険では?と思ったけど、“終焉の森”を自力で抜けるのは魔王城で働くための最低ラインらしく、「それくらい余裕よ?」ときょとん顔で言われたので、最弱生物は黙ります。最低ラインも超えれない雑魚で本当にすみません。
私は“終焉の森”に入ったら即魔獣の餌になる自信があるからね!
ガンツさんとアー君に絶対に“終焉の森”に入ったらダメって言われてるんだけどね!
うっかり木の幹に引っかかって転んだだけで、城のみんなにめちゃくちゃ心配されたのは未だに解せぬ。いくらゴブリン以下の最弱生物でも、流石に膝すりむいたくらいじゃ死にませんけど。
剣が貫通しても生き残ったんだから。
そういえば、魔王様が結界を張ってから一度も勇者の話を聞かないけど。
あれから百五十年経ってるからそろそろ勇者が来るのでは……?