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平和です 5

「シーナが東の国に行きたいと言い出した……」

絶望感漂う声の主は、この魔王城の君主たる魔王様。

その魔族の頂点たる最強の魔王様が、ゴブリンより弱い最弱の生き物に振り回されてるなんて誰が信じるだろうか。

魔王様の居室に設えられた公務用の机に肘をつき、組んだ手に額を当てている姿はなんともお労しい。

同じく魔王様の側近である同僚に助けを求めて視線をやったが無言で首を横に振られた。

オレにどうしろと⁉︎

雑用系側近には凹んだ魔王様の相手は荷が重すぎる。

「えーと……ひとまず引き留めましょう?」

「城から出ないよう言い含めた……半分泣き落としで」

魔王様が泣き落とし。

シーナ嬢にとってみればアー君は可愛い弟な訳で、可愛い弟の泣き落としなら……あり、なのか?

いや、ないわ。この美丈夫が泣き落としとか恐怖でしかない。

「シーナ嬢に贈り物して気を紛らわせてみては?思いきって指輪とか」

「前に指輪を贈ったら料理番だから衛生上アクセサリーはできないと断られた」

シーナ嬢ぉぉぉぉ────────────‼︎‼︎‼︎‼︎

間違ってない。間違ってないけど魔王様の心情を思うと受け取ってあげて欲しい。

「そ、それじゃあ服とか……」

「私服は亡き友から贈られた服があるから要らないそうだ……普段は料理番の制服着てるからな」

どんどん墓穴掘ってる気がしてきた‼︎

シーナ嬢の言い分は全く悪くないけど、魔王様が不憫過ぎる。

どうしよう。最早かける言葉が思いつかない。

同僚にはサッと目を逸らされる始末。

「そもそもの話、何で東の国に行きたいなんてことに?」

「ドラヤキだったか。あの菓子の話をしていたらそうなった」

「故郷を重ねてるのかもしれませんね……何の前触れもなく世界を渡って二百年ですし」

シーナ嬢にとってみれば、この世界は何もかもが異なるものばかりで。

多少なりと見覚えのあるものや食べ物に惹かれるのはしょうがない。

そうなると。

「もう一回東に出張ですかねぇ」

コメやミソの情報収集のために人間寄りの部下を東の国に置いてきたけど、栽培や製法を学んで実践し、魔王領に根付かせるまでには相当時間がかかる。

安定して生産できるようになるまでシーナ嬢の関心を逸らすには定期的に東の国から購入してきた方がいいだろう。

「シーナに欲しいものを確認してから行け」


コメ、ミソ、アズキ以外に何があるか知らないシーナ嬢に対して無茶振りじゃないですかね、ソレ。








案の定、シーナ嬢の困り顔を拝む羽目になった。

それでもモチゴメやモチコ、ショーユと言った物を頼んでくるあたり、やっぱり故郷の味が懐かしくも恋しいのだろう。

「本当は私が東の国に行って直接見たいんですけど……戦闘力皆無の私じゃ辿り着けないみたいなので」

実のところ、戦闘力皆無でも騎乗用の獣に乗って行けば最短三日くらいで着くし、寿命以外殆ど人間と変わらないシーナ嬢なら問題なく町に溶け込める。

だがそうなると我らが魔王様が一切使い物にならなくなるので魔王城の平和のためにシーナ嬢には城から出ないで頂きたい。

シーナ嬢が以前ガンツ翁に連れられて“終焉の森”に狩りに行って、木の幹で躓いて怪我した時を思い出して、思わず遠くを見た。

休日だったシーナ嬢は朝から出かけていて、魔王城からシーナ嬢の気配がなくなったと魔王様が大騒ぎ。

さらに転んで怪我したシーナ嬢をガンツ翁が血相を変えて抱えて帰ってきたから厨房の奴らまで大騒ぎ。

最終的に、シーナ嬢に“終焉の森”立入禁止令が出た。ちょっと膝を擦り剥いてただけなのに、魔王様とガンツ翁が頑に禁止した。

ガンツ翁の場合は親馬鹿というか爺馬鹿というか、純粋にシーナ嬢が怪我しないようにという配慮から。ゴブリンより弱い彼女があの森で狩りなんて命がいくつあっても足りない。

ただ、魔王様の場合は。

魔王城は周囲をぐるりと“終焉の森”に囲まれている。

正確に言えば“終焉の森”の奥深くに魔王城がある。

つまり“終焉の森”に立ち入れない、イコール、城から出られない。

シーナ嬢に、魔王城に軟禁されることを約束させたのである。

確信犯で。

シーナ嬢が思ってる可愛い弟のアー君なんてこの世に存在しないのだ。

いるのは狡賢い魔族の王である。

素直に頷いたシーナ嬢にちょっと同情したのは秘密だ。

そんな魔王様も、なんだかんだとシーナ嬢に振り回されてるのでおあいこだろう。






さて、再び東の国へ行ってきますかねー。






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