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平和です 4

料理番の朝は早い。

日が昇る前から野菜の皮剥いたり刻んだり。

ガンツさんや一部の料理番の人が魔王様の食事担当して、それ以外の料理番で魔王城で働くみんなの朝食作り。

因みに私は料理番の中で下っ端から三番目。二百年経っても下っ端。私が来てから新人二人しか増えてないんだよ。寿命長過ぎるから定年退職がないとか。

魔王城で働くのは魔族の憧れの職業らしい。

なのに私みたいなゴブリン以下の最弱生物が働いていて申し訳ない。




自分の担当が終わった人から順番に朝食を食べる。

食堂の端っこの方に座って食べてると仲の良い子が一緒に座って食べてくれるのでぼっち飯にはならない。みんな優しい。

朝食が終われば皿洗いが下働きのお仕事。

「シーナさん、もうちょい水流上げれませんか?」

「無理。これが限界」

「水魔法毎日使ってるのになんでレベル上がんないんすかねー」

「私が知りたいよ!」

新人二人(と言っても百年は経ってる)と大量の食器洗い。

水道なんてないので魔法で水を出しながらの洗浄なんだけども。私のレベルが低過ぎて蛇口から出る程度の水しか出せない。二百年頑張ってこの程度。攻撃に転用も無理。最弱の名は伊達じゃない。

どう見ても新人二人よりしょぼい先輩です。

「いやー、さすがゴブリン以下の最弱の生き物……」

「人間の方がまだ魔法使えますよね……」

「うーるーさーいー!」

こちとら魔法のない世界出身なんじゃい!




食器洗いが終わったらお昼の下ごしらえ。相変わらずやるのは野菜の皮むきやら刻んだり。

それが終わったらお昼ご飯。

みんなと同じ時間にお昼が食べれるのは下っ端の特権だったりする。

下ごしらえが終わったらすることないからね!作るのは中堅以上の料理番だからね‼︎下っ端の仕事は昼食後の皿洗いです。

お昼は魔王様もみんなと同じメニューらしいので総料理長であるガンツさんがメイン料理を作る。

今日のお昼ご飯はパンと肉が多いシチューぽいスープと卵サラダ。

なんの肉かとか、なんの卵とかは考えないことにする。心の平穏のために。

二人分を一つのトレイに乗っけて、中庭(という名の森)に繋がる裏口を抜ける。魔王城に来たばかりの頃にガンツさんに教えて貰ったオススメスポットで、この二百年お昼は毎日ここでご飯食べている。

「あれ?アー君早いね」

いつもの石のテーブルに先客を見つけて声をかける。

ここに来てちょっと経った頃からお昼になると現れるようになったちびっ子美少年アー君ことアレク君。

ガンツさんからおやつにフルーツを貰うのでお裾分けしてたらすっかり懐かれて、毎日一緒にお昼を食べるようになった。

昔は小さくて可愛かったアー君も、今やすっかり美青年に成長した。大きくなっても会いに来てくれてお姉さんはとても嬉しいです。

「今日は早く終わったから」

「お仕事頑張ったんだね」

子どもの頃からここに来てたので魔王城に住むお偉いさんのお子さんだと思うけど、親御さんに会ったことない。そもそもお偉いさんに会うことがない。だって下っ端だもの。

アー君も一応お偉いさんらしいけど、お仕事内容は「なんか書類書いたり面倒なこと押し付けられる」とか言ってた。先輩に嫌な仕事を押し付けられてるのではないかとお姉さんはちょっと心配です。

「今日はぶどう?」

トレイには粒の大きなブドウが一房。

ガンツさんは私を子ども扱いしてるのか、毎回おやつにフルーツをくれる。フルーツ自体はすごく甘くて美味しいんだけど……いつも季節ガン無視してるのがすごく気になる。どうやって手に入れてるんだろう。

「皮まで食べれる種なしぶどうだって」

トレイからアー君の分のお昼を並べる。

「「いただきます」」

「いただきます」と「ごちそうさま」はこちらにはない文化だったけど、私がやるのを見て、アー君も真似していたのがすっかり身についた。大きくなっても素直で良い子。

「パンにアズキ入ってる……」

「マジかよガンツさん天才か?」

お米と一緒に納品された小豆。昨日、使い方の説明と餡子作りを実演しただけであんぱんを生み出しただと……⁉︎

「昨日シーナが作ったしっとりしたパンケーキに挟んでたのも美味しかったよ」

「どら焼きね。魔王様もお気に召して全て食べて下さったって下膳に来た執事さんが教えてくれたの!」

小豆の使い方を知ってるのが私だけだったので、昨日は特例で魔王様の夕餉のデザートを任された。デザートでどら焼きはどうかと思ったんだけど、餅米も餅粉もないから作れるものが限られたのでとりあえずどら焼き。

今回は粒餡だったから次はこし餡に挑戦したい。

というか、餅が欲しい。ぜんざい食べたい。

東の国にはあるのかな。島国って言ってたし、日本ぽいのかな。

「東の国……行ってみたいなぁ」

ガチャーンという音が目の前からしてびっくりした。

アー君の手からスプーンが落ちてスープ皿にぶつかった音だったらしい。

「アー君大丈夫?スープ掛からなかった?」

「な…………ま、待って、え、シーナ……」

「ん?どうしたの?」

アー君の手元から視線を上げて顔を見たら、アー君の顔が青ざめてた。

「アー君⁉︎どうしたの⁉︎どっか痛い?何か口に合わなかった⁉︎」

呆然としたアー君が、私の顔をじっと見る。体調が悪いとかでは無さそう?

「シーナ、東の国行くの……?」

「え?いや、行けるなら行ってみたいけど……」

一人では無理。まず魔王城出て“終焉の森”の時点で死ぬ。間違いなく死ぬ。ガンツさんみたいに出刃包丁一本で魔獣狩りなんて無理です。

「駄目!絶対駄目っ!外は危ないから戦えないシーナは絶対に城から出たら駄目!」

可愛い弟から力一杯ダメ出しくらいました。ちょっと涙目でダメとか言われたらノーとは言えない。イケメンなのに可愛いとかアー君最強かよ。

「わかってるよ」

「本当に?約束だからね?」

念を押されました。どんだけ信用ないんだよ私。




お昼休憩から戻ったら再び大量の皿洗い。

時間外に食事に来る人だけになるのでその間に料理担当だった人たちが交代で休憩に入る。

そうして漸く厨房が落ち着いた頃、一日一回の納品がやって来る。

「おーい。シーナ嬢いるー?」

「あ、レフさん」

時々やって来るレフさん。人間の血を引いてるとかでよく人間の国に出張に行く、気さくで神出鬼没なお兄さん。アー君もだけど、この世界の魔族と人間の差異が分からない。見た目じゃわからない。

一昨日、米と味噌を買って来てくれた魔王様()の使者。

「魔王様がアズキ気に入ったらしくてまた東の島国に出張行くんだけどさ、なんか欲しいものある?」

「何があるか分からないのに訊かれても……」

「だよねー」

小豆のために出張って。どんだけ小豆気に入ったの魔王様。

「米があるなら餅米か、餅粉もあると思うので、見つけたらお願いしても良いですか?」

「モチゴメ……モチコ……?」

「餅米は米の品種です。餅粉は餅米を粉にしたものですね。あとは醤油もあれば是非」

「ショーユ」

「本当は私が東の国に行って直接見たいんですけど……戦闘力皆無の私じゃ辿り着けないみたいなので」

「ああ、うん……そうだね」

いつも陽気なレフさんが遠い目をするほど東の国への道のりは大変らしい。アー君が全力でダメって言うくらいだし。

行ってみたかったなぁ……東の国。




それから夕食の準備。

朝昼と同じく野菜をザックザック切っていく。

隣では新人二人が肉と魚を切り分けている。昔、肉切ってる時にざっくり指を切って以来、ガンツさんから野菜しか切らせてもらえない。

ちょっと筋が切れなくて力込めただけなのに……ただのうっかりだったのに。子ども扱いの原因はあれだったのかな。

それが終われば再び下っ端の特権で食堂で晩ご飯。

朝と同じく食堂の隅っこを陣取れば仲のいい子たちが集まってきて、女の子同士の話で盛り上がる。

え?二百歳以上は女の子じゃない?

心は永遠に女の子ですが!見た目も十代ですけど⁉︎




皿洗いを終わらせて、全員で厨房掃除をしたら一日の業務終了。

魔王城の一画にある居住区の女性用の大浴場でお風呂に入らないといけないけど、私は少し時間をずらして入るためにちょっと厨房に居残り。

ガンツさん特製のレモネードを頂きながら、最近の流行だという小説を読む。

こちらにきた当初、言葉は通じるのに字は読めなかった。ガンツさんやアー君に習って、今や小難しい本も読めるようになった。

人が少なくなったことを確認してお風呂へ。

お腹と背中に残る歪な傷痕。百五十年前に勇者に刺されて、アー君が魔法で塞いでくれた傷。

私自身は痛みもないし、気にしてない。

でも、知ってる人が見ると悲しそうな顔をする。魔王城のみんなは優しい。

そもそも魔王様自体が世界征服とか悪の権現って感じじゃないのになんで勇者に狙われるんだろうか。小豆が気に入って部下を再出張させちゃうくらいお茶目さんなのに。




自分に与えられた部屋に戻る。

料理番の下働きという下っ端だから本来は四人部屋に入るのだけど、私は一人部屋を与えられている。

異世界人だからとか、元人間だからという差別ではない。

百五十年前までは私も四人部屋だったし、同室の子たちとは一番最初に仲良くなった。

あの日、亡くなった人たちの中にその同室の子たちが居た。

高熱と、誰もいない四人部屋にパニックを起こして、食事も吐いて。

精神的にも弱っていった私は個室に移されて、それ以来ずっと一人部屋を使わさせて貰っている。

傷痕もあるし、着替えるのに気を使わなくていいからありがたい。

四人部屋の二段ベッドよりもスプリングの効いたふかふかのベッドに潜りこむ。





東の国に餅米と醤油がありますように。






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