平和です 14
厨房から中庭に出てすぐの所に、ファンシーな切り株のお家がある。
ある、というか……最近できた。ある日突然。
熊さんを飼ってもいいと魔王様から許可が下りて、ガンツさんを始めとした料理番のみんなに熊さんの話をした。食材じゃないからね⁉︎とかなり念を押した。
その翌日。
朝、厨房に出てきたら、可愛い切り株のお家ができてました。
魔法の世界ってすごいわーと、現実逃避した私は悪くない。
家の中は木製のベッドに切り株のテーブルと椅子だけのシンプルな作り。
全てガンツさんサイズ。
じゃない。これは多分、熊さんサイズ。
本人……本熊?もまだ来てないのに。
いや、そもそも面倒見るってまだ確定じゃなかったはずなのに。
飼い主探してるんじゃなかったっけ?
そのあと、熊さん連れたレフさんが現れたので、魔王様の手配だった模様。さすが魔王様。
熊さんは料理番たちに温かく迎えられました。
裏庭に出たレフさんは遠い目をして「ガンツ翁……仕事が早過ぎる」と呟いてた。
早朝に狩ってきた獲物をすごいスピードで解体してたもんね、ガンツさん。
熊さんが怯えてたけど、あの肉は熊じゃなくてグーマだよ。
いつものお昼休憩。
熊さんはファンシーなお家が気に入ったらしく、毎朝フルーツをお腹いっぱい食べて、お昼の休憩時間は大体ベッドでお昼寝してる。
なので今までと変わらず、アー君と二人でのお昼ご飯。
ガンツさんに聞いた話をふと思い出した。
「アー君、月の雫って何か知ってる?」
「月神の力の欠片だね。欲しいの?」
おお、神様の力の欠片かー。
すごくレアアイテムぽいのにアー君があっさり欲しい?とか訊いてくるってことは割と普通のアイテム?
いや、でも、ガンツさんも中々手に入らないって言ってたし……
「ガンツさんがね、熊さんに呪いが掛かってるって言ってて、その月の雫があれば解呪できるらしいんだけど」
「は?」
アー君が瞠目して私を見てくる。
うん、熊さんが呪われてるとかびっくりだよね。わかる。
あの頭の良さは呪いによるものだったのかな。
「命に関わったり危険な呪いじゃないみたいだけど、出来たら解呪してあげたいなーって」
「呪術師に確認させたけど呪いなんて……総料理長がそう言ったの?」
「うん。ガンツさんには解呪できない強い呪いだって言ってた」
というかガンツさん、解呪できたんですかっていう衝撃のが大きかった。
ガンツさんチートかよ。実はガンツさんが魔王だったりしない?
「月の雫は用意できるけど、解呪は総料理長にやって貰って。シーナは近くにいないようにして」
「なんで?」
可愛い弟からじっとりした視線いただきました。
いや、なんで!?
「解呪するのに不測の事態が起きないとも限らないからね。シーナはか弱いんだからダメ」
か弱いと言うと乙女ぽいけど、実際はゴブリン以下の最弱生物だからね。
魔法も使えないし、何か起きたらすぐ死ぬ自信がある。
だって私、一般人!
過保護とは思うけど、今回は大人しく従おう。
「総料理長とレフと相談して解呪の日にち決めよう。その日はシーナは休みにして、俺と一緒にいてね」
にっこり笑ったアー君はとても綺麗なお顔でした。
うむ、眼福。
今更だけど。
意思疎通ができるようになる呪いとかだったらどうしよう。
お利口さんじゃなくなって、野生チックな熊さんになってしまったら私は即餌になりそう。
…………もしかしてそういう心配もあった?