平和です 12
すみません、間が空きました。
ーーーーーーーある日、森の中、熊さんに出会った。
違う。
ここ魔王城。魔王城の中庭‼︎ 森っぽいけど中庭‼︎
私の五歩先にガンツさんと同じサイズの熊さんが仁王立ちしてらっしゃる。
日本だったら死を覚悟するところなんだけど、ここ異世界だからなぁ。
この熊さん、魔族の可能性ありそう。
なんか目が私が持つお昼ご飯に釘付けだし。
捨てられた子犬のような目で私を見てくるし。
その目が「お腹空いたよぅ」と訴えかけてるし。
その姿に何故か田舎のばあちゃん家に居た雑種のサブロー(♀)を思い出した。
「えーと、一緒に食べる……?」
熊さんの表情が明るくなりました。
熊って表情豊かなんだね……。
椎奈は熊さんを仲間にした。
頭の中でそんなテロップが流れた気がした。
「何それ」
「お腹をすかせた迷子の熊さん……」
アー君の視線の先は、料理番の制服である黒のサロンの端をちょこんと爪で摘んで背後をついてくる二メートルはある熊さん。(サロン掴んでるからやや中腰)
大人しくついてきた熊さんのお腹がずっと悲しげに鳴いている。
「とりあえずご飯食べようか。熊さんは私の分を分けるね」
「いや、あのね、シーナ。この中庭に普通の動物が居るはずないんだよ」
「大人しいから魔族かなと思ったんだけど、違うの?」
うさ耳の種族がいるなら全身が熊さんがいてもおかしくないかなって。
石でできたベンチにちょこんと座る熊さん。大変お行儀がよろしいです。
熊って何食べるんだっけ。とりあえずデザートもりんごをあげようかな。
「魔族……では無さそうだけど、普通の熊でもない気がする」
りんごを熊さんの前に置いたら拝まれた。いいからお食べ。お腹ずっと鳴ってるよ。
幸せそうにりんごをシャクシャク食べる熊さん。口大きいから一口でいけるだろうに、ちょっとずつ食べてる。りんごを両手の爪で支えながら。
めちゃくちゃ器用ですね⁉︎ お行儀も良すぎじゃない⁉︎
「確かに普通の熊さんじゃないね……」
「それでこの熊どうするの?」
「ここに居たってことは魔王城に飼い主さんが居るんじゃないかな。みんなに訊いてみるよ」
「そう……しばらくは俺が預かるよ。厨房には連れて行けないだろうし」
アー君の言葉に私は力強く同意した。厨房は危ない。
「話通すまで厨房に近づいたら絶対ダメだからね!食材にされちゃうから‼︎」
うっかり近づいたら食材扱いされるに決まっている。
ガンツさんは出刃包丁一本で狩りから解体までできる。あの出刃包丁はやばい。“終焉の森”の獣を骨ごとサクサク切ってた。
ガンツさん以外の料理番も普通に狩ってくる。料理番にとって獣は食材らしい。
私? 間違いなく獣の餌になるのでお留守番ですが?
そもそも“終焉の森”立ち入り禁止令出てるからね‼︎
熊さんは私の言葉を理解したらしく、ブルブル震えながら何度も頷いていた。
お昼の休憩後アー君に熊さんを任せて、手当たり次第知り合いに訊いて回ったけど熊さんの飼い主は見つからなかった。
「お利口さんだから野良じゃないと思うんだけど……」
「そもそも熊を飼う物好き居ます?」
「私が居た世界ではクマ牧場とか動物園では飼育されてたよ」
ただしあんなにお利口さんではなかったけど。
言葉が通じてる感じがあったのは異世界ならではだと思う。
このまま飼い主見つからなかったら中庭でお世話したらダメかな。
お行儀いいし、穏やかそうだし、捨てられた子犬のような目でこっちを見てくる熊さんがやっぱりサブロー(雑種・♀)に見えて仕方ない。
レフさん来たら魔王様に熊さんを魔王城で飼っていいか訊いてもらおう。
もし魔王様に却下されたら中庭でこっそり飼おう。
ご飯は私のを分ければいいし。
アー君なら協力してくれると思うし。