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平和です 9

最近、みんなが忙しそう。

厨房ではガンツさんが普段の三割増でしかめっ面だし、レフさんもなんか遠い目してたし、メイドの友人たちもピリピリしてる。

お昼に会ったアー君もぐったりしてたので頭を撫でてあげたらちょっと嬉しそうだった。

原因は、来客が多いかららしい。

なんでも魔王様に謁見するだけなのに、わざわざ一緒に晩ご飯を食べて行くからだとか。

そのせいでガンツさんが毎日豪華な献立に頭を悩ませてる。

メイドの子たちの仕事も格段に増えて忙しそう。

何より誘ってもないのにおもてなしさせられてる魔王様が可哀想。

そう。

誘ってもない来客なんだって。

レフさん曰く、結婚適齢期になった魔王様を射止めようとするお嬢さん方とその親が、日替わりでやって来てるそうだ。

魔王様モッテモテーなんて言ってる場合じゃない。

政務が滞るわ、魔王様の機嫌が日に日に最悪を更新するわ、城内のみんなからクレームくるわ、客のお嬢さんや親の相手が面倒臭いらしい。

正直、私のような下っ端には関係がない話なんだけど。

洗い物にいつもより高そうなお皿がプラスされたくらいで、やってることは普段と変わらず。

変わったことといえば、お客さんに会わないように休日でも図書室や庭園に出ないように規制されたくらい。

本はこないだ数冊借りたばかりだから全然問題ないし、庭園はダメでも中庭は良いらしいので特に不便は感じない。

問題があるとすれば周りのみんなの気が立っててちょっと怖いくらいだろうか。

誰かが怒ってる訳ではないけど、やたらと空気が重い。

そんな中で魔王様のお嫁さんが決まっても、歓迎されないんじゃないかな……





「という訳で、お疲れの魔王様に小豆のお菓子を献上しようと思うの。ガンツさんには許可貰ってきた!」

昼の仕込みが終わってすぐ、厨房の隅っこで後輩二人に手伝いをお願いしたらすごく微妙な顔をされた。

「シーナさんって下っ端を自称する割に発想が大胆ですよね」

「最上位の魔王様にお菓子……しかもガンツ様も許可出すって……」

「下っ端まで気にかけて下さる魔王様がお疲れなんだからちょっとでも和んで欲しいなーって。あとアー君にも差し入れしたいし」

疲れた時は甘いものがいいと思うのは前の世界での考え方だけど、世界は違っても変わらないでしょ。

レフさんに再出張させるくらい小豆が気に入ってる魔王様なら少しは喜んでくれるはず。

そしておやつ大好きなアー君も笑顔を見せてくれると信じてる。

「それで、オレたちは何すればいいんすか」

「この大豆を乾煎りして粉にしたいので手伝って」

きな粉作りに関してガンツさんに相談したら、私にはできないことが判明。

この世界、すり鉢すりこぎがない。

石臼?小麦粉は魔法で粉砕してるそうです。

小麦農家さんは農耕、乾燥、粉砕の魔法に特化してるそうですよ。

そりゃ魔法が使えれば石臼でゴリゴリする必要ないよね……時間短縮になるし。

無機物や植物相手なら魔法で粉砕するのは誰でもできる初級魔法らしい。

ええ、お察しの通り。

ゴブリン以下の戦闘力の私には無理でした‼︎

風同士をぶつけ合うってどうやるんですかね。

二百年魔法を練習してるのに未だにそよ風レベルの風しか発生できませんが。

因みにこの魔法のレベルを上げていくと生き物相手でも粉砕できるようになるらしいです。

異世界の魔法怖っ‼︎






「アズキの塊……?」

昼食後のおやつに二色のおはぎをアー君の前に出すと、きょとんとした顔で首を傾げた。

確かに餡子の塊に見えるけど。

「おはぎっていう、餅米と小豆のお菓子だよ。黄色い方は大豆を粉にしたきな粉」

「オハギ……」

フォークで一口大に切ったおはぎを口に入れたアー君。

うんうん、美味しいんだね。

目がキラッキラに輝いてるよ。素直すぎるよアー君の表情筋。

「すごく美味しい」

「きな粉の方も中に小豆が入ってるよ」

「こっちも美味しい……!」

最近しおしおだったアー君の久しぶりの全開の笑顔頂きました。

おやつでこの笑顔、大変可愛いです。

美味しい美味しいと食べてくれるアー君に嬉しくなる。

後輩二人やガンツさんにも試食で美味しい判定は貰ってたけど、なんせ二百年ぶりに作ったからちょっと不安だったのだ。

田舎の祖母ちゃん直伝のおはぎ。

懐かしい味。

二百年経って薄れてしまった過去の記憶が、ほんの少し蘇った。

家族や友達の顔も声も、もうほとんど覚えていない。

それでも覚えてるものも確かにあった。

でもね、おはぎ食べ過ぎて寝込んだこととか思い出さなくていいと思うの!

唸ってる私を指差して大爆笑する弟とか!

「シーナ?」

黙りこんでしまった私を心配してくれるアー君の可愛さよ。

弟よ、アー君の可愛さを見習え!

「魔王様にも献上する予定なんだけど、大丈夫かな?」

「こんなに美味しいものを嫌がる奴は居ないよ」

アー君が力強く頷いてくれる。

「最近忙しそうだからアー君がちょっとでも元気になってくれたら嬉しい」

魔王様も勿論だけどね。

会ったことのない敬愛する魔王様に献上したいのは本当。

でもやっぱり身近にいるアー君に元気になって欲しいというのが一番の理由。

素直にそう伝えれば、アー君は照れたらしく顔を真っ赤にしてた。

異世界でできた弟が、相変わらず可愛いです。






「忙しいのすぐに終わらせる……!」

「無理はしないでね?」

アー君が決意したあと、本当に数日中に元の平穏な魔王城に戻った。





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