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平和です 1

艶々の白米の上に、肉汁滴る焼いた肉を乗せて、塩とレモン少々。

野菜がたっぷり入った昆布出しの味噌汁。

葉野菜を塩もみして酢で漬けた浅漬け。


「魔王城に勤めて二百年……念願の和食!米‼︎」


完璧な塩焼肉丼定食前に、日本人である私のテンションは最高潮です。

お手軽過ぎる?

いいえ、これには訳がある。


私、琴村 椎奈(コトムラ シイナ)は、母親譲りの栗毛に同色の目、父親譲りのたぬき系平凡顔の女子高生だった。

成績も中の上、運動神経も平均。絵に描いたような平々凡々な女子高生。

それなのに、学校の階段からツルッとすべって落ちて、気がついたら異世界でした。

テンプレかよ‼︎‼︎‼︎と全力で突っ込んだ私は悪くない。

悪いのは階段をワックスでツルピカにした用務員さんだ。

私は異世界に飛んだから無傷だけど、異世界に辿り着けなかったら全身打撲だぞ。

階段の1番上からツルッと滑ってゴロゴロゴロゴロ。下手したら死んでるな。


そんな訳で気がついたら異世界の森の中にポツーンと居た。

なんで異世界って分かったかって?

図鑑でもテレビでも動物園でも見たことない未知の生物がよだれを垂らしてこっちを見つめていたから。

ライオンサイズの狼、毛皮は熊っぽい。ただし目が一つしかない。

片目を怪我してるとかではなく、元から単眼。顔の真ん中に大きい目がギョロリと私を見ている。

で、よだれを垂らしている。

どう見ても私が餌認定されてますねオワタ。

異世界転移そうそうに人生の終末を悟った私の前に現れたのは、白馬の王子でも勇者でもなく、筋肉ムッキムキのおじいさんでした。

身長二メートルはありそうなガチムチなおじいさんが出刃包丁で単眼生物首を一撃で仕留めました。

怖っっっ‼︎


衝撃映像やらなんやらで精神的に限界だったのか私は気絶。

目が覚めたら広い厨房の片隅にある木箱の上で、出刃包丁持ったガチムチおじいさんが近くにいて再び気絶しそうになった。

血が滴る出刃包丁片手に、極悪人相の屈強なおじいさんが振り返ったんだぞ?ホラー映画かよ。

見た目めちゃくちゃ怖いおじいさんだけど、あったかいスープくれて、色々と話をしてくれた実は良い人系の強面さんだった。

曰く、ここは魔王城で。

私が単眼生物に狙われていたあの森は、この魔王城を囲むようにある“終焉の森”という名の魔王領らしい。

魔王城とかラストダンジョンじゃん。ラスボスじゃん。最初からクライマックスかよ。私の人生の。

ガンツという名の強面おじいさんはこの魔王城の料理番で、総料理長をしているらしく。

手元で捌かれているお肉は先ほどの単眼生物グーマというらしいで、私がイイ囮になったと褒められた。嬉しくないです。

行く当てのない私をガンツさんは魔王城の料理番の下働きとして迎え入れてくれて、ひとまず衣食住は手に入れた。


毎日毎日野菜の皮むきや皿洗いを必死こいてこなして。

気づいたら二百年。

魔王城のみんなも緩やかに歳とった?いやでも超元気じゃん⁇ってな感じで、二百年でも一、二歳くらいしか老けてない。

誰かのお子さんらしい弟みたいに可愛がってきた男の子はすっかり美青年に成長したけど。超イケメン。小さい頃は天使レベルの美少年だったから納得の成長です。眼福。

私に至ってはびた一文変わらない。身長そのまま。胸もささやかなまま。

成長期!帰ってきて!

魔王城に勤める人達が人間じゃないのは知ってたけど、私も人間じゃなかったのか。

むしろ異世界人という時点でこの世界の人間とは違うのか。

納得納得。


そんなこんなでファンタジー世界な訳で。

メインは当然、パンやパスタなどの麦製品。

米が。味噌汁が。恋しくなるよね⁉︎だって日本人だもの‼︎

ガンツさんや、仲良くなった子に散々愚痴ってたら、最近魔王様が東の国から輸入してくださった。

顔も見たことない魔王様!貴方が神か‼︎‼︎

ええ、下っ端だからこの二百年、魔王様のご尊顔なんて拝見したことないです。

大変お美しくて超お強いそうです。

魔王城最弱の下っ端さえ気にかけて下さる最高に優しい魔王様です。


どういうことかって?

私、超弱いということが判明してね。

みんなから最弱魔物スライムやゴブリン以下の戦闘力と評されました。(そもそも平和国家の女子高生に戦闘力を求めないで欲しい)

ガンツさんがいうには、大体百年に一回の周期で勇者と名乗る人間が魔王城にやってきて、魔王様に挑戦するらしい。

最初はふーん程度だったんだけど、下働き始めて五十年くらい経った頃、本当に来たんですよ。自称勇者が。

なんか魔法使いぽいイケメンだとか、僧侶ぽいお姉さんだとか、エロビキニアーマーな女戦士ぽいのを引き連れて。

下っ端だし関係ないや、と思ってた私は愚かでした。

魔王城に勤めてるみんなは、流石というか、かなり強い戦闘要員で。なんの役にも立たない私はガンツさんに言われて厨房の隅っこに隠れてたんだけど。

なんでか厨房まできた自称勇者に見つかって、殺されかけた。

私を姉のように慕ってくれる仲の良い子が駆けつけてくれて、私の命は助かった。

剣に貫かれた腹は魔法によって塞がったけど、高熱にうなされた。

魔王城で仲良くしてくれた子が、何人か殺されていたことがショックだった。

あの自称勇者の衣服についた血は、みんなの血だったのだと思うと、何度も吐いた。

身元不明の怪しい私を迎え入れてくれた魔王城のみんな。

なんの理由もなく、魔王城に攻め入って来て命を奪って行った人間。

理不尽な暴力の恐怖に、日に日に私の体は弱っていった。

ガンツさんや厨房番の仲間たちが心配してくれるけど、どうしても食べられなくて。

涙が溢れて干からびるんじゃないかってくらい泣いて。


そんな時、魔王様が城に強固な結界を張り直した。

何日も掛けて行うほどの大きな魔法で、直後は強大な魔力を持つ魔王様でも意識をなくすほどのものだったらしい。

そして、魔王様は「命は懸けず、生き延びることを優先。無理だと思えば自分が出る」と城内にお触れを出した。

魔王様は、ちゃんと悼んでくれた。

ちゃんと、城内のみんなを見てくれている。

顔も見たことない魔王様に憧れるのは、あっという間だった。


そんな訳で、人間よりも崇高な我らが魔王様は最高で最強の優しい王様なんです。




別に、お米で買収された訳じゃないのよ?




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