3.初恋終わる。だけど
さよなら会は、何人かの生徒達の演奏の後、ラストに僕とお姉さんは、連弾を無事終えた。
「ノーミスじゃん!」
「美和ちゃん上手だったよー!」
「颯君カッコイイ!」
皆、といっても今回集まったのは、夏休みもあって全員で6人くらいだ。でも皆はたくさん拍手をしてくれた。いつもなら曜日も時間もバラバラで、しかも子供達だけでなんてめったにないから参加できてよかった。
先生がお姉さんの背中をパシパシ叩く。
その顔はとても嬉しそうだ。
「よかったわよ!どうなるかと思っていたけど。特に美和ちゃんが」
「ですよね! 頑張りましたもん私! というか先生! ちょっとひどいっ!」
「褒めているのよ。颯くんも忙しいのに、よかったわ。途中美和ちゃんがテンポがずれそうになった時、上手くひっぱって立て直してあげたのは凄いわ」
「う~。確かに颯くんのお陰でミスしなかった! ありがとう! はい!」
「えっ」
お姉さんが椅子から降り楽譜を持つ僕に手を出してきた。
パチン
最初で最後のハイタッチは軽い音が鳴った。
「じゃあ、皆で向こうでお菓子食べましょうか。今日は特別に豪華なのよ」
「わー嬉しい!」
「え~ケーキかなぁ」
「俺、ポテトチップス!」
「お菓子なんだろうね。颯くんもいこ!」
「…はい」
結局、僕は凄く悩んで考えたプレゼントをお姉さんに渡すのが精一杯だった。
こうして、あまりにも急に僕の初恋は終わった。
その日の夜ダイニングのテーブルの上に問題用紙を広げ勉強していた僕にお母さんが話しかけてきた。
「進まないんなら、もう今日はやめたら?」
「解いてるよ」
「でも、ずっと同じとこで止まっているみたいだけど」
「うるさいなぁ」
話しかけられるのが嫌でつい声が大きくなった。僕は、もう話したくなくてノートを閉じ紙をクリアファイルにいれ片付けて立ち上がった。その時にお母さんに一言いわれた。
「縁があれば、必ず会えるわよ」
コーヒーを飲みながらチョコレートを食べるお母さんは、いつもの、ふざけた顔じゃなかった。
大人の、なにもかもわかっているようなムカつくけど子供の僕には敵わない。そんな顔をしていた。
何故かまた、わからない悔しさを感じた。
あれから10年以上が過ぎた頃、大人と話す時だけ「僕」といっていたのが、いつからか「俺」「私」にかわり日々を忙しく生きている俺は、ある日、運命としかいいようのない出来事に遭遇した。