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2.お姉さんとの連弾

「ねえ、そう君、私と連弾しない?」


「えっ?」


夏休みが始まり二週目のレッスン日。お姉さんと交代する時にお姉さんに急に僕の半袖のシャツの袖をひっぱられたかと思ったら、突然の誘いをうけた。


「…僕とですか?」


聞き間違いだったかなと思って、確認してみると。


「うん!」


「えっと、僕、多分次の発表会は塾の試験日だから出れないと思います」


この教室では、小さい時から習っている友達同士や先生との連弾が普通だから僕は誘われてとても驚いた。だけど凄く嬉しい。


…でもその日のテストは休めない。

ガッカリしていた僕にお姉さんは。


「あっ発表会じゃなくて今月最後の週にちょっとだけ弾けたらいいなって。今月で通うの最後だから」


えっ。


「…やめちゃうの?」


「うん。続けたいけど受験とか色々あるから」


僕は、その日、お姉さんとの会話をほとんど思い出せなかった。



「あら? なんだか習い始めた時みたいな曲ね。明るくてテンポがいいわ」


「うん。さよらなら会で弾くんだ」


「誰かやめちゃうの?」


「…うん」


「そう。お母さん、いつもの難しそうなのもいいけど、この曲も好きよ。また機会があれば、そのお友達と会えるだろうし楽しい会になるといいわね」


夕方、珍しく仕事から早く帰ってきたお母さんは、スーツのままゴロンとソファーにころがり、僕にもっと弾けと催促してきた。


「うん、そうだね」


返事を返しながら、僕はまた弾きはじめた。

僕のお母さんは、営業の仕事をしていて帰りは遅いし大雑把で、休みの日は寝てばっかりな人だ。正直いつも様子を見に来てくれる伯母さんのほうが、ご飯も美味しいし、優しい。


でも、たまに鋭い事を言うので、ちょっと、本当にちょっとだけ、尊敬している。


「颯君、まり子おばちゃんのご飯温めて~。お腹空いた~」


…やっぱり、さっきの言葉は訂正する。




「う~ん。颯君は、ここの強弱をもう少しめりはりつけようか。あとは大丈夫」


「はい」


先生が楽譜に1本で青と赤の二色になっている鉛筆で強くを表す記号フォルテに赤い色をつけた後、僕の隣にいるお姉さんを見てため息をついた。


「問題は美和ちゃんよ」


「え~」


「え~じゃありません。タッタタのところが違うし、最後も頑張って諦めない。颯君の音をよくきいて。颯君と弾くのは、かなり合わせやすいはずよ」


「う~。わかっているんですけど、颯君の上手さは予想以上でした。ごめん、誘っておいて」


「えっ、大丈夫です」


急に話が僕にふられて、慌てて返事を返した。

今、僕は、違う意味で緊張していたから。


だって、お姉さんとの距離が凄く近いんだ。


今日初めて合わせて、まあ子供向けの曲だったし、弾くのは簡単だった。だけど連弾なんて先生と何年も前にした時以来だったから。


お姉さんからは、何故か先生と違ったいい匂いがするし、肩があたる距離で集中が全くできない。


「もう、美和ちゃんが言い出しっぺなんだから頑張ってね。あと来週しかないんだから」


「うう~頑張ります! 颯君、見捨てないで!」


「えっ、は、はい」


この日は、なんだか最後まで、上手く話せなかった。


あとちょっとで会えなくなるのに。

小学生の僕は、本当に無力だ。








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