5・木の塔攻略と、罰ゲーム(うん、商品名は出してない)
縦横に組んで積み上げられた木のブロックを、1本ずつ順番に抜き取っては一番上へと重ねていく。
その作業を交代で行い、塔を崩してしまった人が負け。
器用さ? 集中力? 忍耐?
もう、この騎士団が一体何を目指しているのか、分からなくなって来た。
そろりそろりと引き抜いて、倒れない様に上下左右バランス良く。
そう考えながら、慎重に初めは引き抜きを行っていた。
ところが、ある一箇所をわざと崩れやすく狙って、引き抜く者が少しも経たないうちに出た。
もちろん何とかバランスを保とうとする慎重派もいるのだが、どんどん木の塔は危うく変形していく見事に。
「……」
陥落した木の塔が立てた盛大な音と共に、湧き上がる笑いと囃し声。
何が言いたいかというと……。
木の塔が倒れてしまったのは必然であって、決して私が不器用なせいではないという事だ結論。
しかも罰ゲームまで、青汁・ミックスジュース・激辛ソースと、しっかり準備されていた。
わざわざ、その3つから選ぶ為のダーツが作られている。
くるくると高速回転する的に、投げナイフを突き立てるタイプだ。
たぶん、ちゃんと回るか試している者が製作者に違いない。
面白がられる声に押され、当たったのは激辛ソース。
このソースを舐めた人間が死んだという売り文句で、罰ゲームの一点に選ばれたソースである。
「……っっ」
興味津々、悪い意味で見守られつつ、まずは試しとほんの一匙を口に含んだ瞬間は、そうでもないと思った。
そう思ったつかの間、強烈な痛みが口の中を襲う。
続けて、一気に噎せる。
こんな物を食うなと体が拒否して、異物を外に出そうと噎せ続けた。
辛いというより、痛い。
とにかく痛い。
痛いという言葉しか浮かばない。
「え? そこまで? ホントかよ?」
「大丈夫か~?」
「辛いのダメな質なんじゃね?」
「俺にも1口」
その1つ1つに答えている余裕はない。
罰ゲームの意味がなくなる気もするが、最後の者が言う通り、全員で試してみればいいのだ。
噎せ過ぎて、涙が滲んで来た。
この痛みは普通の水を飲むだけでは駄目だ、絶対に焼け石に水になると走り出した。
どこへなんて決まっている、キアテウの所へだ~~~。
「げほごほっ、がはっ、げほほほほッ!(訳;キアテウっ、キアテウっっ。私にはキアテウだけなんだッ!)」
あまりに勢いに気圧されたという感じで、壁まで後退ったキアテウの肩をがしっと掴む。
「ベゲッ! ゴホグァッッ。ガホッガ……(キアテウしか欲しくないッ! 好きだ、愛してるッッ。お願いだ、私のものになって……)……っ!?」
足払いを食らって体勢が崩れ、キアテウが行ってしまった。
話し掛けて、全く返事がもらえなかったのは始めてで、結局ますます痛くなる。
痛い。
やばい、嫌われた? 拒絶された???
口の中だけではなく、たぶん胃まで荒れている。
心臓痛い、涙腺破裂する。
これまで、せっかくずっと、この重過ぎる想いを全面に出さず、怖がられない様にしてきたというのに。
今の、たった一瞬で、それが水の泡……。
「メソメソするな気色悪い、ほら」
「……。……げほっ?(キアテウっ?)」
「いいから、飲め」
そうズイッと、キアテウから差し出されたコップを受け取ると、なみなみと白い液体を注がれた。
ぼやけた視界でも分かる、牛乳だ。
コップがカラになると、再び注がれ、またカラにして注がれて。
キアテウが戻って来て、相手もしてくれるから、痛みが収まっていく。
「えらくキツイ刺激口臭がしていたぞ。どうだ? ちょっとはマシになったか、ユエマエル?」
「ありがとう、愛しい人。キアテウが戻って来てくれなかったら、どうなっていたか分からない」
「よし、いつも通りだな。もうこれからは噎せながら迫って来るなよ、ユエマエル。というか、あれだけ強引にやれるなら他にもっと……」
「私はっ、キアテウがっ」
あれ?
もしかして噎せていた(訳)の部分が、ちゃんとキアテウに通じている?
「分かった分かった。ほら、もっと飲めって」
それを確認しようと思うのに、次から次へと勧められ、結局、牛乳でもギブアップする羽目になった。
もはや、たっぷんたっぷんを通り越している。
口を開くと、牛乳が出る、絶対出るというところまで飲まされた。
あれれ?
激辛ソースと、牛乳で、罰ゲーム2倍?
この激辛ソース、団内で面白半分の度胸試しに短期間だけ使われ、その後は虫除けとして食料庫の片隅で立派に働いているらしい。