3・会話ばっかりの合同訓練(普段はもっと真面目…でもない気がする)
騎士団における、武隊と治癒隊の合同訓練では、使役している魔物や、精霊はもちろん使わない。
剣や槍、体術が得意な者も、特殊な棒だけを持って戦う。
身体および、武器防具の強化魔法を含む、全ての魔法も禁止だ。
この棒は触れた場所を赤く染め、そしてその赤色は治癒術の魔力に触れると、消えるという仕組みになっている。
ちなみに余談だが、棒を握る手も赤くなり、しばらく消えない。
詰まるところ、動き回る自分が担当した騎士を、遠距離からどれだけ的確に、癒しの力を送り届けられるかを主目的とした、むしろ治癒隊の為の訓練なのだ。
この棒だって当たればそれなりに痛いのだが、結果、戦いというよりも、治癒隊との合同訓練は、武隊にとって、お遊び感覚である。
「お前が先にオレに斬り掛かって来た」
「いや、その前にお前が、斬り掛かって来た」
「喧嘩売ってんのか?」
「100万で買ってくれよ!」
こっちに向かって来たとか、目が合ったとか、訓練というより私闘を始める者あり。
それを聞きつけて。
「こらこらお前ら、喧嘩は良くない」
「何すんだ、てめぇーッ」
「何って、仲裁?」
「ふざけんなっ! 止めるどころか、両方に斬り掛かりやがってっ!」
「手元が狂っただけだって」
「「今の、どこがだ~~ッ!」」
私闘に面白半分、首を突っ込む者あり。
「1人狙い止めろよぉっ」
「いや~? 近くにいるヤツを、適当に狙ってるだけだって~というのは建前で、お前狙うのが趣味なの」
「趣味って何だ、趣味ってぇっ」
「じゃあ、おれ趣味に走ってる、お前を狙うー」
「じゃあじゃあ、そのお前だけをオレも狙うーー」
よく分からない連鎖が起きたり。
「進路を塞ぐ奴は倒~っす。滅べっ!」
「イヤだ」
「うわあ、超冷静なんですけど」
「……そこは、だが断る。だろっ?」
とか。
「1塁打~、2塁打~、3塁打~。よっしゃ~ッ! ホームラ……って、避けるなよ~」
「避けるに決まってんだろーがっ。てか、どこの言葉だよっ」
不意に出来た静かな膠着状態に、耐えかねたかの様に……。
「おらおら、どうした。掛かって来いや~~~」
と、叫び。
「おうおう、俺が相手してやるぜ」
「受けて立~つ」
「んじゃ、遠慮なく~」
「……あ、いや。そんな大勢でじゃなくて、1対1が良いかな~なんて? ぎゃ~あ~~れ~~~っ」
アッサリ墓穴を掘って、自爆する者あり。
もはや大混戦状態である。
そんな混沌を横目に、私は一直線に走って向かう。
行く先はもちろん、キアテウの居場所だ。
これまで意識を向けもしなかった、騎士団の混沌は騒々しく、愚かしく、そして愉快。
恋をすると、周囲の意見なんて聞こえなくなるというが、むしろ私の場合は逆なのかも知れない。
キアテウの居場所を探すついでに、見たり聞いたりなので、全く足は止まらないが……。
「やぁ、キアテウ。こんな時間に会えるなんて、今日はついてるなっ」
せっかくの合同練習なのだ。
この混沌の中で、ばったり出くわすなんて偶然など、私は待ったりしない。
「構えろ、ユエマエル」
「キアテウに武器を向けるなど、出来るわけが……」
「そうか」
キアテウの瞳に冷酷な光が宿り、そして私は真っ赤に染まったのだった。
治癒隊には悪いが、一方的にやられても、キアテウと会えて満足である。