2・元ネタばればれな、カードゲーム(これって、アウト?)
脱・脳筋にでも目覚めたか、騎士団では今、とあるカードゲームの導入が始められている。
そのゲームの設定はこうだ。
ある村に、村人に化けた魔物が住み着いており、その魔物は夜になると、村人を1人ずつ食べていく。
村人を魔物から守れる騎士はいるが、あくまで自分以外の誰か1人を守る事が出来るだけで、魔物の退治は行えない。
つまり、少しでも早く魔物を見つけ追放しなければ、村の安全は図れない。
昼には魔物が誰なのかを全員で話し合い、魔物だと思う村人を1日に1人追放する。
まずは魔物役が2人以上。
村人を守れる騎士役。
そしてそれ以外の、村人達。
それらの役のカードを配り、昼夜を決め。
夜時間になって全員が目を瞑る中……騎士役が誰を守るのか? 昼に追放されなかった魔物役が誰を襲うのか? 各々指差す先を見届け、
「君、食べられました」
と、村人役の肩を叩くマスター役。
5人以上1組で行う、カードゲームである。
たが5人ちょうど(うちマスター役1人)で、魔物役ではなく騎士役か村人役が追放されてしまった場合、魔物が相討ちでもしない限り、1昼夜にして、呆気ない幕切れとなってしまう。
正直、1回目は何も思わなかった。
マスター役を始め皆、頭には疑問符ばかりで、ゲームの進行自体がおぼつかなかった。
昼間の話し合いは全く進まず、ただ当てずっぽうで追放者を選んだだけ。
先日行った2回目は、上も考えたらしい。
マスター役にしっかりとゲーム内容を仕込み、マスター役がヒントを出す事でゲーム進行を行い、何とかゲーム内容が飲み込めた。
そして、本日3回目。
隊に関係なく、騎士団全体で組分けを行うという、素晴らしい、ゲームだと力説したい。
とりあえず、まさしく円卓の騎士(カッコ笑い)。
1つのテーブルに円になって座り、お互い手を伸ばせば届く距離だというのに、気配を感じさせない、無駄に強力な魔力が部屋を満たしている。
そんな魔力に気圧された沈黙を破る様に、マスターが厳かにゲームの開始を告げた。
「目ぇ、開けんなっ。今、役の確認をしてんだからっ」
「たりぃんだから、早くしろよ」
マスター共々、嫌々感を出しまくっていたり。
「そうだぜ、この俺が魔物だっ」
「いや、俺が魔物だっ」
「僕ただの通行人なんで、追放しないでねっ」
と話し合う前から、声高に茶化す声が響いたりする。
そんな中で。
「やぁ、キアテウ。恋しい君と同じ組になるなんて、これはもう運命だね」
あぁうん、実に素晴らしい。
同じ組の者達からは、何でこの2人を一緒の組にしたんだという、雰囲気ありありだが、そんなのどうだっていい。
キアテウを前に、いつも通り口は動く動く動く。
「愛しい人。私をこの村の、ではなく、キアテウ専属の騎士にしてくれるか? キアテウしか守らないし、守る気になれない」
すると、キアテウが少々ムッとした。
それもそうか、キアテウも騎士なのだから。
ちなみに、本日のマスター役はキアテウではない。
よく武隊班長にからかわれている、同班者だ。
「全員、目を閉じたっすね。……え~。これから1人ずつ肩を叩いていくので、叩かれた人だけカードを見て、自分の役を確認してほしいっす。確認を終えたら、机の上にカードを伏せて、もっかい目を閉じて下さいっす」
ふむ、今回の役はこれか。
マスター役がテーブルの周りを1巡りし、再び口を開く。
「それじゃ、簡単にゲームのルールを伝えるっす」
3回目なので、手順は何となく覚えているのだが、始めから説明を加えるらしい。
「では、昼の時間っす。目を開けて、話し合いをして下さいっす」
マスターの言葉通り、目を開けるが何より大事なのは、ゲームより目の前のキアテウ。
しっかりと視線を合わせる。
「いや、魔物がいいな。そうすれば夜になったら、もちろんキアテウを襲いに行くよ。大人しく、私に食べられてくれるよね。逆にちゃんと夜這いに来てくれるなら、キアテウが魔物でもいい」
「真面目にやれ、ユエマエル」
お、今度は怒るんじゃなくて、冷ややかな感じになった。
「引いていても呆れていても、返事をくれるそんなキアテウが大好きだなぁ。で、夜這いに来てくれるよね?」
「……マスター。もう追放する者を選んで良いと思います」
残念ながら、キアテウからの答えは聞けなかった。
まぁ、当然か。
キアテウってばテレ屋さんっと、心の中で呟いてみる。
「っす。では全員で魔物だと思う人物を、指差して下さいっす」
一見、厳かにマスター役が言う。
そして。
せ~ので、ばっと一斉に指差されたのは……まぁそうなるだろうな。
「はいは~い、追放されま~す。ではまたな、キアテウ。想定外の時間に、君と会えて幸せだった。大好きだっ」
その場にいても良かったが、キアテウの前仕様の口は、絶対に開いてしまうし。
内心を垂れ流し過ぎて、これ以上キアテウの機嫌を損なうのはマズイと席を立つ。
「ところで、マスター。自分の役柄の話を出すのは、今回も相変わらず禁止ですか?」
生真面目に尋ねている、キアテウの声に後ろ髪を引かれる。
「ルールは前回と一緒で、禁止っす。言い忘れてたっす」
が、もうゲームには戻れないので、渋々テーブルから遠ざかる……チッ!
思いっきり舌打ちしつつ、これできっと何人かは混乱すると思った。
なぜなら……。
「ん? さっきユエマエルの奴……」
「初めは騎士云々だったのに、後から魔物がいいって言い出したよなぁ」
そうなのだ。
私はカードが配られ、自分の役が分かった後で、魔物の事を話題に出したのである。
魔物役であるにも関わらず、ルールの説明がされていなかったからと、話題にしたのか?
それとも騎士役だったので、前回と同じくルールに沿って、騎士から魔物の話に変更せざるをえなかったのか?
誰が魔物役なのかは、マスターと魔物役本人しか分からない。
1組の中に何人魔物役がいるか分かっているのは、マスターだけだ。
「ちょっと、待てっ! そうすると?」
「まさか、ユエマエルが騎士役だった……?」
「ぎゃ~っ! これ、負けたっ!」
「なんでアイツが、騎士役なんだよぉ~っ!」
村人役を守る騎士役を追放してしまったと混乱し、途端テーブルに上がる悲鳴。
「とか悲鳴あげたお前ら、実は魔物だろうっ?」
「何だとっ? 危うく騙されるところだったじゃないかっ!」
「そうだそうだ。単に何も考えず、守るより襲う方がいいって、考え直しただけかもしれん」
「そもそも! ユエマエルを騎士役だと、言い出した奴が怪しいっ!」
「さては、お前が魔物だなっ?」
「いや、お前だろっ!」
すっかり疑心暗鬼に陥っている。
「なぁ、マスター。誰が魔物役だ?」
「教えられないっすっ!」
「ちょっとだけ~」
「ダメっすっ! 頑張って、頭使って下さいっす」
ぎゃあぎゃあ騒がしい声を背にし、私は1人廊下に向かい歩く。
きっと初めから、マスター役の説明が足りていないのを、キアテウの事だから気付いていたはずだ。
きっと混乱を誘う為に、まずは私を追放し、その後わざわざマスター役にルール質問をしたのだろう。
魔物役にとっての勝ちは、村人役を食い尽くす事。
村人役と騎士役にとっては、最後まで生き残る事。
皆で話し合って、昼の時間の終わりには、誰を追放するかを選ばなくてはならない。
適当に選ぶ事だって、もちろん出来る。
が、騎士団という職業柄なのか、ゲームだろうが何だろうが、負けより勝ちを良しとする、思考の持ち主が多い。
キアテウも例に漏れず、結構負けず嫌いだったり?
君の勝利に少しは私、役立てたかも……と、ちらっと振り返ると、一瞬キアテウと目が合った。
投げキスする前に、速攻で逸らされたけど。
あぁ、ホントに夜這いに来てくれないだろうか。
余談だが後日、魔物や精霊などが描かれた手札を、交互に出し合って攻防するという、カードバトルゲームが年若い騎士達の間では流行り始めた。
正直、ついていけず、私ももう年か……と思う。
いや、そんな事はない! と自分を奮い立たせ、キアテウに会いに行った。
キアテウ;魔物役 ユエマエル;騎士役 のつもり。