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1・好きなものを思い浮かべるだけでヨダレが出る(って、私だけ?)

 初めて存在に気付いてしまったのは、キアテウが出入口の砂利を掃いている時だった。



 この出入口、普段はさして気にならないのだが、うっかり絶妙な角度で砂利を踏むと、何故か浮いてふわっと風に乗り、結構な速度で飛んで行く。

 そして、その風にイイ具合にブチ当たると、かなり痛い。


 常時、鎧兜を装備し続けている奴なんて、ほぼいないから、ブチ当たってくる砂利は最強だった。

 靴底の分厚さなんて、表に出ている顔を目指すがごとく飛ぶ砂利には、全くもって関係ない。


 砂利の被害は、この出入口を利用するすべての騎士が受けていた。


 だが、出入りするたびに砂利は紛れて来るし、従者なんてものを連れている上等な騎士など、ここにはいない。

 日常生活の雑務さえ、自分達で担当する事が多々あるのだ。


 誰しもが新たな雑務なぞ、増やしたくない。

 出入口を掃き退ければ、砂利は飛んで来なくなるという考えを、思い付きもしなかった。



 そんな中、キアテウは……。


 実は磨けば光るらしかった、観葉植物の葉っぱを拭き。

 買い物に出れば、そのまま帰って来ない連中だっているのに、いつだって直行直帰。

 勤務時間の数十分前には、到着している。


 たぶん神経質、絶対すんごい超大真面目。


 そんなキアテウの存在に初めて気づいたのは、砂利の痛さと同時だった。

 しばらくなかった痛みに、つい視線を向けた風の先に居たのが、出入口を掃き清めているキアテウだったのだ。



 キアテウの存在に気付いてから、なぜか目で追ってしまい。

 更には様子を探りに出向き、当たり前だが我慢が出来なくなって、早々に声を掛ける様になって。


 耳周りまでを刈り上げて、そこよりは少し長い前髪はキッチリ安定の七三分け。

 根本は消炭色なのに、先端部だけが青いキアテウの髪。

 その青は空の色よりも、水を連想させ、何だか無性にノドが鳴る。

 

 近くで見ればますます、何だかとっても美味しそう。

 そう思うのは私だけか?


 あぁ、ホントに食えたらいいのに。

 舐めたり、啜ったり、齧ったり、したい。

 この飢えを潤せるのは、キアテウしかいない。



「このシミ。お前そんな腹減ってんのか、ユエマエルよぉ? ……あ~まぁ、読めるからいいけどな。さっさと飯食ってこい」

 渡した書類を見た武隊班長から、呆れた様に言われた。


 さて、報告書も終わった事だし、食事の前にキアテウに会いに行こう。


「日取りを決めないといけないんだが、この週とこの週なら、どこが都合いい?」

「あっ! 自分、この日ダメっす」


「じゃあ、その日で。よろしくなっ」


「……へっ? いやいやいや、待って下さいっす」

「ガハハ、冗談だっ冗談っ」


 武隊班長からの言葉に、瞬間固まった後の、同班者の焦りと困惑と、ちょっぴり怒りを起爆剤にして、重なる大笑い。

 そんな遣り取りを背後に聞きながら、部屋を後にした。


 騎士団は数種の隊から構成され、同じ武隊の中でも、更にいくつかの班に分かれる。

 残念ながら、キアテウとは同じ班ではないのだ。

 ずっと見ていたいのに、キアテウを探しに行かねば見られない。



 私の髪は、枯れた芝色をしている。

 陽のあたり具合によっては金に見えた。

 どうもナニかの先祖の血が、濃く出ているらしい。


 その血によって、我が家は武勲を上げているのだが、金の色が濃く出た者については、狂気な逸話が多く伝わっている。

 たった1人にだけ、強い想いを抱いてしまう事がそれらの逸話の原因だった。


 たった1人の相手なのに、年齢はおろか性別さえ関係がない。

 しかも、独占欲は人一倍。

 従って、必ず想い合えるわけではなく、ついには狂ってしまうのだ。


 拒絶や突然の死別による、発狂。

 想い人を探しに行くと、そのまま失踪。


 悲しい末路を幼い頃から聞かされ続け、決してそうはなるまいと思っていた。

 ただ淡々と武術を磨き、金の血の成せる業か、適性もあったから、そのまま国内有数の魔物多発地帯の騎士団に入隊。


 周囲との壁だって、しっかり作り上げていたはずだった。

 それは確かに成功していて、同じ騎士団内にいたキアテウに数ヶ月間、私は気付かなかったのだ。



「やぁ、愛しいキアテウっ。今日もキアテウの元気そうな姿を見れて嬉しいよ」

「ユエマエル」


 なぜだろうか、キアテウを前にすると。

 口が弾むし、表情が動くし、ついでに身振り手振りも加えて、それはもう大袈裟になる。


 声を掛け始めた時は、思いっきり警戒というより、キアテウからドン引きされた。

 でも名前を呼んでいるからか、真面目なキアテウは一応ずっと返事をしてくれた。


 最近ではすっかり慣れた様子で、いや、呆れているだけかも知れないが……。

 抱えた狂気を全面に押し出したら、きっとキアテウから拒絶されてしまう。


 だからまず始めはこれでいいのだ。


「キアテウ、昼ご飯はまだ? 一緒に食べられたら、午後からも頑張れるのだが」

「分かった分かった」


 あからさまに要望を口に出して、それも受け入れてもらえて。

 このまま距離が縮まれば、キアテウは君自身を食べさせてくれるだろうか?


 比喩だけど、比喩じゃなく、切実に。





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