8.5話 番外編 世界の理 死神さんの名前が発覚しました!
前回の9話を8.5話にして番外編扱いにしました!
本編の9話は現在作成中ですが、休みの変更があり、しばらく仕事が続くので、10話が遅くなるかも……
私は宵の部屋に遊びに行ったが、宵は居ないことにため息をついた。
「まったく!宵は私の僕になったのに、好き勝手に過ごして……
許可出したのは私だけど……暇だ……」
そう口に出して愚痴を言う……
愚痴を言ったが……なんだか嬉しく思った
自分じゃない他者の事を想っての言葉は……久しく使ってなかった。
魂を操ることは別に難しいことじゃなかったが、宵のように自我を保った魂の召喚だとあの事件以降だと初めてだ。
肉体とリンクが張られているから可能なことだが……
昔は違ったが、反魂術にて召喚できる魂は妄執はあれど自我を保っていることはない。
宵と戦わせたロックゴーレムも操作をしやすいように魂を刻んでいた……
妄執に囚われた会話もできない魂の抜け殻
あの忌まわしい事件は……私の失敗は世界の在り方を変えた
神の作った死者が第二の人生を歩むことが出来た死の世界は、どこにも無い
今の世界の死は、流転する
死神に連れられ、次の生命に流されるのだ
死者の為のあの世ではなく、強制的に次の生へと記憶や力、想いを世界に溶かしながら、流れる
現在の反魂の術はその流れに囚われた魂の残り香を魂として召喚するものだ
今までの術の使用で、そこまで理解できた
アンデットについても思いの残滓で彷徨っている
生者への怒り、死を認めないための暴挙
死人に意思はない
知識があれば魔術によって支配される
特殊な例がない限り、アンデットは使役される存在と宵に説明したのはその為だ。
自我を持つアンデットは事件以前の旧世代と呼ばれる。
私の場合は生来の力と知識で魂を肉体に縛ることに成功している。
私は宵の部屋から、ダンジョンへ移動した。
タイミングが悪かったのか、私の目の前に……死神が居た。
『おや?これは我が主……久しぶりですね~よく私の前に姿を現せましたね?』
そう言って、大鎌を構える死神……仮面に隠れているが、笑っている……
この死神……わざと私の目の前に現れたのだろう。
魂の感知はこの死神には容易いことだ。
特に死者の魂や……死の近い魂に敏感だ
「ルシア……茶番は止めろ
お前には古の縛りがある……私を害することなど不可能だ」
私はつまらない茶番を終わらせるためにそう言った
『ふむ……たとえ創造主と言えども……このような縛りを我ら死の運び手に施すとは……
鬼畜ですね』
そう言いながら、笑っているが……その言葉には明らかな不満が込められていた。
「そう言えば、宵が世話になっているな。EPの量が1万近く上がったのを見たときには驚いたぞ」
私がそういうと、ルシアの不満が薄らぎ
『うふふ……宵君には期待していますからね~』少し声のトーンが上がるが……
そんな事を気にせず、隙を見せた死神の仮面ごと顔を掴むと、そのまま壁に壁に叩きつけた
『ぐっ!?』ルシアが苦しむ
「そんな期待なんかどうでも良い!!!お前は宵に何をやらせたか理解しているのか?」
『クカッ……ただのレベルアップの為に教えただけでしたが……まさか……宵君が魂を喰らうなんて……知りませんでしたよ……』
その言葉に、仮面を握る手に力が籠った
「ふざけるな!!!世界の理をなんだと思ってる!!なぜ止めなかった?
流すはずの魂を喰らう存在が何を意味するか……理解しているだろう!!」
流すべき魂を喰らう存在……それはいつか全ての生命を飲み干すかもしれない危険な存在だ……過去にこの能力をもつ魔物は居たが……人間とこの死神たちが結果的に共闘することとなり、駆逐された……
『世界の理の心配?貴方が?死の世界を壊した貴方がそんなことを心配するのですが?
宵君があなたと同じ罪を背負う事を恐れるのですか?』
世界の理を壊した罪……
『我らアンデットが虐げられる世界を作り上げた張本人が!!私は大切だと思った存在の為なら……世界を喰らう存在であろうとも宵君を守り続ける!!』
その意思に……私は……頷いた
「ああ……だが、ルシア……お前は一つ間違えている。」
ルシアに動揺の気配が見える
「私は宵を滅ぼすつもりはない。宵が魂を喰らう力を持とうとも、宵が自ら世界を滅ぼそうと思わなければ、それは起こらない。それに、たかが一つの魂がすべてを吸収できるなどと言う事を考えるだけでも愚かしい!!」
まったく……この死神は……それが可能だとしても、宵の事を守ろうしただろう。
こいつは昔から甘ちゃんだ。
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産まれたときから私には前世の記憶があった
所謂 転生者だ
だが、私の過去は人間ではなかった
我は死の王だった。
世界が創造されるとき、死者の逝く世界を創り、管理する神だった。
その世界で、新たな生を、黄泉がえりを望む者に試練を与える神でもあった。
死の世界に居る限り、私は何者にも害されず、すべてを支配できる存在だった。
そう、生の世界に行かない限り……
我はどうして黄泉がえりと思うのか理解できず、生に執着する想いに興味を持ち……
ある死者の体を死の世界に持ってきてしまった……
その結果、私は滅ぼされた。
死の世界が滅ぼされた……
死者の魂の受け皿が無くなり、世界が滅ぶと思ったとき……惜しく思ったのだ……
だから、全ての死神に世界の魂を回す命令を与えた
それが、今の世界の理の始まりだった。
それを見届けることなく、我は自身が消滅すると思っていたが……
私は生の世界で再び産まれてしまった。
キリエ・エレインとして……死の王の記憶を持ったまま……
この世界で生を受けて、初めに思ったことは……皮肉だった
過去の記憶はすべて過去の事として、全てを忘れてただの人として生きようと思ったのに
この体は人とは違った日の光に耐えられない欠陥品
白い髪と赤い瞳……人とは違う事は禁忌だった。
周囲から蔑みを受け……暴力を受け……あっさりと死ぬような存在だった。
産まれて10年足らずで再び死を経験することになった。
死んだ私を迎えに来たのがルシアだった……
『貴方はなぜ死んだのですか?』
これが再会したルシアの一言だった。
私は過去の記憶を思い出しながら話をした
『久しいな……なーに……人がこのように脆いものという事を忘れていたようだ』
暴行を受けて涙を流しながら息絶えた体を見る……抵抗しようと思えば、殺す覚悟があれば抵抗できた。
だが、抵抗しなかったのは……
『我の命を守っているのか知りたかったからかな』
そう言ったが……
『この世界での父親に殺された事を……その言葉で済ませるのですか?』
ルシアの言葉に苦虫を噛んだ気持ちになる
『我は……』
『我はではなく、私はキリエ・エレイン!!貴方に聞いているんです!!』
ルシアのその言葉に……わ、私は動揺した……
『創造主の記憶ではなく、10年生き、死んでしまった貴方に!!』
過去の存在ではなく、今の私に聞かれた言葉に……
その意思の強さに……私の魂は震えてしまった……
『……み……た……い……』そして、呟いてしまった……
『聞こえませんよ?貴方の言葉は、想いはその程度ですか?』
その言葉に……
『認めたくなかった!!!父親に殺されるなんて!!私はただ普通に生きていたかった!!苦しむために生まれたわけじゃなかった!!死にたくない!!!まだ……何も知らないのに……このまま死にたくない!!!』
その言葉を聞くと……ルシアは私の頭を撫でて……
『なら、再び蘇れば良いじゃないですか?』
その言葉に、私は茫然とした
『もともと、死者の体に復活させるのは主の役割の一つでした。
それを使って、蘇ればいいでしょう?』
『でも……貴方は……前世の私に死者の魂を次に流す役割が……』
だから、ルシアがここに来たとき……つれて逝かれると思った
『確かにその命を受けていますが、私が主を送るなんて害する行為は契約で行えませんからね!』
そんな契約……肉体が死んでしまって魂になっている今なら、手が出せるはずなのに……
『前の私が……世界の秩序を……死の世界が滅びる原因を作ったのに……』
『貴方と再会したときは、死の世界が滅んだ償いをと考えましたが……泣きじゃくる姿を見たら、一回くらいは見逃してあげたくなりました。』
そういわれて、さっきまで泣きべそをかいていた自分に恥ずかしくなり、怒鳴ろうとしたが、『寿命をまっとうしたら、次は容赦しませんよ』ルシアは微笑むと姿を消した
そして……私は死んでしまった肉体にアンデット……正確にはエルダーリッチとして復活した。
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『そう……あの時、妙な慈悲を与えなければ……そもそも、人間として蘇るかと思ったら……アンデットでとか……』
過去の事を思い出して、遠い目をするルシア……
まあ、アンデットの立場が崩壊した事を知ったのは、それから10年くらい経ってだった。
ルシアもアンデットの魂が変化するような世界の異変になるとは思っていなかった。
「あの時の、甘ちゃんな死神のおかげで、私はいまだに存在できているからな」
私はそう言いながら、仮面から手を放した。
「このダンジョンの管理者として召喚したときに、私は言ったが……いずれ、私は世界を以前の姿に戻す!魂の受け皿を作り、新しい魂が産まれる世界を取り戻す。
神としての知識はあれど、実行するには力が足りない。その為に、外に出る時期だと考えている。」
その言葉に、ルシアは仮面を整えながら私を見る。
『それはつまり……宵君を連れていくという事かな?あの可愛い魂を汚そうと考えているのかな?』
死神の雰囲気が変わる……契約に反してでも斬りかかろうとする意思があった。
この魂フェチめ……私にはわからないが、ルシアには魂は球体ではなく別の何かに見えるようだが……余程、宵を気に入ったんだろう。
「宵を召喚したのは……戦力が欲しかったからだが……」
もともと、異世界から召喚しようと思ったのは、異世界召喚された者たちの戦闘力にあった。前世の私を倒したのも異世界からの召喚者だった。
つまりその力を上手く扱うことが出来れば、私の願いを叶える力となる!
「そんなに心配なら、ルシアも来るか?
私が旅立ったら、ここの管理とかも開放する予定だったし……」
『是非もなし!!!宵君は私にとってのこの薄暗い枯れたダンジョンでの希望だから!!
そんな希望を元創造主如きの為に危険にさらすなんて……』
私如きって!!お前たちに名前を与えたの前世の私なのに……扱い軽いな~
他の死神たちも似たようなものか気になるけど……
私の前世の記憶も完全なものではない。術式についてもルシアについてもふと思い出したようなものだ。
それより、確認したいことがあった
「あの……ルシア……」
『なんです?急に弱々しい声を出して……』
ルシアが警戒するように私を見る。
「なんで、管理人として召喚してから、私の部屋とかに遊びに来てくれなかったのかな?」
あの電波なナビに言われたことがどうも引っかかっていた。
私がボッチとか……ルシアが私の友達なら……でも、過去の事があって距離を置かれているのかも……
『あ……それは、普通に貴方と関わると厄介ごとに巻き込まれると思ったから!!
基本私は静寂な世界を好んでいます。こんな薄汚れたダンジョンの警備とか予想外すぎますけど。
それに……一度部屋を覗きに行ったら……貴方がぬいぐるみを抱きしめながら……転がる姿が……想像以上に不愉快でいて、それが気持ち悪くて……魂の姿の貴方は好みだけど……肉体を持つと……どうも……』
普通に好みの違いだったというか……
「なにをみた!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私は再びルシアの仮面を掴むと壁に叩きつけた!!