習い事コーディネーター
午後二時、公園には幼稚園帰りの子ども達が遊んでいる。そのママ達は、集まっておしゃべりに花を咲かせている。そんな日常風景。
「ねえ、ゆいちゃんママ、ゆいちゃんピアノ習い始めたんだって?どんな感じ?うちのマリもやりたいって言っていてさ」
「んー。ゆいは楽しんでいっているよ。ただね、親子レッスンだから私が大変」
「え、親子レッスンか、うちは下の子がおとなしくしないからな」
「下の子、預けられる人いるの?実家は遠いんだっけ?」
「そう、うちはどっちの実家も遠いのよ。パパも仕事が不定休だから。ピアノは難しいのかな」
「じゃあ、うちの美咲が行っているピアノ教室はどうかな。個人レッスンで、親が付いていかなくても大丈夫よ」
「え?それ、どこにあるの?」
「×山の近く、バス通っていないから、車でないと行けないのよね」
「うち車ないからな」
マリちゃんママはがっくりしているようでした。
その時、不自然な風がママ達の前を通り抜けた。
「子どもに習い事をさせたい、でも状況が整わない。そんな悩めるママの味方になりたい。区役所の方から参りました、習い事コーディネーター、水上涼子参上!」
ママ集団の中に突如現れた、おばちゃん。ママ達はびっくり。
「突然失礼します。私は区役所から参りました、習い事コーディネーターの水上と申します」
水上はママ達にチラシを配った。チラシには水上の名刺がホチキス止めされている。名刺には「○○市委託職員」と書かれており、○○市のマークがついている。怪しい物ではなさそうだと、ママ達は顔を見合わせる。チラシには「お子様の習い事の相談に乗ります。区役所の子ども支援課にて。」とある。
水上はマリちゃんママに話しかけた。
「今までお子さんたちの習い事経験はありますか?」
「いいえ、二人とも全く」
「そう、2丁目のカルチャーセンタービルは近いかしら?」
「えと、近いのですが、そこ大人向きの教室しかなかったでしたよね」
水上はカバンからチラシを取り出した。「子ども向け教室近日開講」と書いてあった2丁目のカルチャーセンタービルの案内だった。マリちゃんママはチラシをじっくり読みだした。
「ピアノ教室もある。時間も合いそう。でも付き添いありか」
「じゃあ、お姉ちゃんのピアノの間に、弟君は同じビルの水泳教室はどうかな?これなら、親なしでも大丈夫」
「なるほど、3時に水泳教室に行って弟を送り、へえ、着替えも親がやらなくていいんだ。それからマリとピアノに行って、できそう」
「でしょう、ただいきなり弟君一人では難しいかもだから、最初は弟の水泳から始めるとかかな。それから、このビルに保育室もできるから、預かってもらってもいいかも」
「いいですね、主人に相談してみます」
「やる気になったら、直接教室に問い合わせてもいいけれど、私に連絡すれば話は早いわよ。ただここは新設だから、評判は未知数ね。他にも、美咲ちゃんの行っているピアノ教室は、わかりやすくて評判がいいのよ。送迎には子育てタクシーと言って、定期的に子どもだけでも乗れるタクシーを使ってもいいかも。子育てタクシーの手配も私が代行できるわ。タクシーのチラシも渡しておくわね。あら、チラシがいっぱいね。封筒入れましょう」
水上は○○区役所と書かれた封筒をマリちゃんママに渡した。
「あの、大人の習い事も相談できますか?」
ゆいちゃんママが尋ねた。
「基本的には子どもだけど、大人の習い事も相談できるわよ。どんな習い事がいいかしら?」
「末っ子のゆいが入園して時間に余裕ができたから、何か習いたいなと思うのだけど、幼稚園の送りのバスの時間が9時40分と遅くて、なかなか時間の合う習い事がなくて。私は体を動かすものがいいのだけど」
「そうねえ」
水上はゆいちゃんママのできる時間での習い事をリストアップした。
「私は毎週水曜日にこの区役所にいるわ。他の曜日は他の区役所に行っているの。まだ市に一人しか習い事コーディネーターいなくてね。来所のお客様がいないときは、電話相談も受け付けています。市の事業だから、相談料は無料です」
水上は軽やかに去っていった。
この話は長編にするつもりが結局短編でした。
妄想話にお付き合いありがとうございました。