呪と魔法
ちゃんと戦います
ギシャアァァァッ・・・!!
迷宮へと潜りある程度開けた空間で2人を魔物がいきなり襲い掛かってきた。魔物は迷宮にいそうな毒蛇が一匹と大猪が二体の計三体である。
二体のビッグボアは2人を見つけるやいなや脚力を活かし突進してくるが、ロイスは横に避けることで、ライは横に転がりながら躱し、態勢を整えつつ、
「これは、確定ですね。蛇と猪が一緒にいますよ。」
ロイスが魔物に視線を向けたままそう口にし、ライもまた視線を魔物に向け石を拾い立ち上がり土埃を払いながら首肯する。
魔物とはいえ動物としての種の本能はある。絶対であるとは言えないが、魔物になっても同種で群れるもので別種の魔物が群れで行動することは稀であり、そもそも猪と蛇は捕食者と被捕食者である。組むことがあり得ない。その猪と蛇が徒党を組んでいるのだ。魔族の関与は間違いない。
ビッグボアは避けられても何度も突進を繰り返しライとロイスの2人の距離を引き離す事に成功し、ライとロイスはそれぞれ一体のビッグボアと対峙する事になった。
「舐められてるのかな...。俺たちの距離を離せば各個撃破出来るとふんでるのかよ。」
ライは戦闘という非日常の状況で口調がかつての自分へと戻り、目の前の猪を見据える。ロイスを心配する気もなく冷静に、正に目の前の猪をどう料理してくれようかと考えながら懐に手を入れる。
ビッグボアは前脚に力を入れ土を掻きながらライを睨んでいた。本来であれば一度や二度くらいならまぐれで躱される事もあるだろうが、こう何度も躱される事は魔物になってからはおろか動物時代でもそうは無かった。ましてや目の前の男からは警戒を促すような動物的本能も働いていない。被捕食者のはずなのに手を上着の中に入れて隠し、余裕があるように見えるのも気に食わない。絶対に食べてやる。
グオォォォッ!!
先程までの突進よりさらに前傾姿勢で勢いよく駆ける。前傾姿勢になったことで速度が速くなったはずだ。これでは躱せないだろう。このまま当たって壁にぶつけて圧死させてやろう。そして砕けた肉片ごと骨まで貪ってやろう。眼前の男が死んでからの事を考えながら男に突進していくビッグボア。
しかし、目の前の男――ライ――は、
「やっぱり猪ってのは猪突猛進だな!そんな直線的な突進にいつまでも付き合っていられるかっ!・・・猪鍋は食べたことあるけど、焼いた猪の肉は旨いかなっ!」
ライは懐から一枚の紙を取り出して先程拾った石に丸めてビッグボアに向かって投げ、両手を胸の前で複雑な形――印――を結び、
「火界呪っ」
と言い放つと、丸まった紙―-呪符――は皴もなくピンと張り、呪符が燃えビッグボアへと燃え拡がり一瞬でビッグボアを焦がしてしまった。猪の丸焼きの出来上がりだ。
一方、ロイスと対峙していたビッグボアは黒髪の男に向かっていった仲間とは違い、少し警戒していた。なぜなら、目の前の優男が笑みを消していなかったからだ。その態度が二の足を踏ませていた。
「やれやれ、猪に出来ることなんて突進以外にないでしょう。...そうですね。貴方たちの数ある敗因の一つを上げるとすればこのようなある程度開けた場所で襲ってきた事ですかね。もう少し狭い通路のような場所で突進してくれば私たちも少しは焦っていたかもしてません。...かと言って私達がやられる事はあり得ませんがね。...と、ここまで隙を見せているのに向かってきませんか...。もう既に仕掛けられているとはいえ私から攻撃するのは気が引けるのですが...。」
ロイスは右手をビッグボアに向けて上げながら敗因を口にする。
ビッグボアは言葉は理解出来ていないが罵倒されている事には気付いて激昂してロイスに向かって突進するがロイスの華麗なサイドステップで躱されてしまう。躱されたビッグボアは急停止し、方向転換で振り向く。
「最大の敗因は...私達に仕掛けた事自体ですよ。...ライさんの事ですから猪の焼肉とか言って丸焼きにしてそうですね。...まぁ、このような閉鎖的な空間だとライさんの手札だと火ぐらいしか使えませんからね。...ただ、血抜きの事は考えていなさそうですね。なら私は、臭みのない肉を提供しましょうか。...『風よ。我が意を解し、刃と成し我が敵の命を断て・・・ウインドカッター』」
ロイスの右手に魔素が集中し、風が巻き起こって方向転換したビッグボアの四肢を切り裂き、最後にビッグボアの頭部を胴体から切り離した。
ビッグボアはあっという間に五体を切り離され生命も切り離され、断面から鮮血をほとばしらせながら絶命した。ビッグボアが生命を散らす最後に見たものは笑顔を絶やさないロイスの顔であった。
毒蛇はいつの間にかその場所からいなくなっていた。
前話より2倍強のボリューム。
とは言っても前話が短すぎただけですよね。