目的地、到着
2人を乗せた馬車がゴトゴトと目的地へと運んでいるのは、呼び出した相手からの依頼を受けてから3日後の事であった。
「準備期間が正味2日間て…あの人…ホントに人使いが荒いですよね…」
そんな事を言いながら頭の後ろに手を組んでいる黒髪の男ーーライーーに、対面に脚を組んで書物を読んでいる金髪イケメンーーロイスーーは視線をあげずに、
「まぁ…下手をしたら未曾有の危機へと繋がる事案ですからね…。さっさと…片付けたいのでしょ。…それに今回の件を解決しておけば、他国で同様の事案が発生した場合は…『解決した事のある国』として…諸国に対してアドバンテージが取れますしね。…中々に強かな方ですよ。」と自分の感想を述べた。
「…そういうの『とらぬ狸の皮算用』て言うんですけどね…。」
「…あの方からしたら『とれる狸の皮算用』という事なんでしょう。…で、準備は間に合ったんですか?ライさん。」
「…まぁ、少ないですけど種類は何とか…。幸いにもロイスさんがいますからね。楽させてもらいますよ。」
懐に手を当て軽く叩いた。
「まったく…。貸し1ですよ…。」
ロイスは本から視線をあげて苦笑混じりに嘆息する。
「…まぁ…今回は相手もそこまでの相手ではないでしょうからね。」
そう言ってロイスは馬車の外に目を移し、目的地を視界に納めた。
目的地は2人が住む街ーー王都ーーから北西に数十キロ離れている迷宮であった。そして2人は今、迷宮の目の前に立っていた。
「この迷宮の中に今回のターゲットがいるわけか…。魔物が統率された動きをしてるんでしたっけ?」
ライは頭をボリボリと掻きながら呟く。
「ええ…。そうみたいですね。…調査した結果『人為的』ではなく『ある一体』の元に統率されているみたいです。」
「この迷宮って良く『冒険者』が狩りに来ている人気の迷宮って聞きますし踏破もしょっちゅうされてますよね?」
「そうですけど…踏破といっても中の魔物を全部討伐している訳ではないですし、湧き出て来ますからね。魔物は。この迷宮は全10階層らしいですけど、10階層に到着した時には1階層には湧き出てるでしょう。…まぁだから迷宮の人気がなくならないんでしょうね。…ただ、大抵の迷宮だと迷宮内の強い個体が迷宮主のようなものになって君臨するらしいんですけど、この迷宮ではそうでもないらしいんですよ。…前回の踏破者からの情報では迷宮主は『ゴブリン』だったみたいで、他の魔物はその『ゴブリン』を守るようにしてたみたいですね。…で、今回は迷宮内の魔物達が迷宮外に出て人々を襲っているみたいです。…魔物達の襲撃まではいかないけれど近いうちにそうなりそうですね…。この迷宮の魔物達は一般人には脅威ですけど、冒険者にとってはそうでもありません。現時点では外に出た魔物達は全て討伐されているようですし…。ただ、何とかしないと第二、第三の魔物達の襲撃が起きる事は可能性ではなく明確な事実ですね。」
ロイスは客観的な情報と主観的な感想を以て、そのうちに最悪ではないが看過できない事象が発生するという。…実際にそうなのであろう。
魔物とは元々ただの動物である。ただの動物が長い年月を掛けて魔素を体内に取り込んだ結果、魔物化するのだ。だから、同じ種族の動物が魔物化したら同じ魔物となる。
つまり、魔物は別の種族の魔物を襲う事はあっても、別の種族、ましてや別の1個体を守ろうする事はない。
考えられる事は、迷宮内の魔物達はーー魔族に隷属化したという事だ。
相手の名前や容姿がないのは…しっくりくる名前が出来てないからです。