「孔明、孔明、ぼく孔明!」 熱い友情のバディもの(三国志高校生の日常)
友情物を書きたくなりました。
現代に転生した三国志の人物が通う高校、通称「三国志学園」。
そこに春から通うことになった平凡な農民こと、俺。
期待と不安の高校生ライフが始まる。
◇◆◇
2カ月後の6月。
良く晴れた日。
夏の日差しが窓から教室に突き刺さる。
そんな教室の中で、俺は自分の席にいた。
すると、
「孔明、孔明、ぼく孔明!」
っと明るい声で俺に話しかける長髪の男。
身長は175cm程だろうか。そこそこ高い。
長髪を後頭部で団子の様に結衣、頭の上にはカップーラーメンを赤く染めたような物がのっている。よく見ると、カップラーメンに紐をつけ、帽子のように被っている。
俺の友達こと、三国志で有名な軍師、諸葛孔明だ。
「知ってるよ。もう6月だし」
「なに、三国志ジョークでござるよ。つかさ殿が浮かない顔をしているからでござる。どうしたでござるか?」
孔明が俺を見る。
そう、彼の言うとおり、俺は落ち込んでいた。
ものすっごく落ち込んでいた。
その原因は簡単だ。
「実は、水筒のお茶を全部飲んじゃったんだ・・・」
「まことでござるか!まだ3時間目でござるよ。正気でござるか!」
孔明は取り乱し、俺の机を「バン」と叩く。
相変わらずのリアクションが大きい奴だ。
後、今の衝撃で机に頬杖をついていた俺の肘が僅かにずれて、「ぐしゃ」ってなった。
地味に痛い。
「落ち着け。あぁ、正気だ。喉が渇いて一口。そしてもう一口。二口が四口になり、四口が八口になり、八口が十六口さ・・・」
「な、なんということ・・・」
孔明も驚いている。
再度、机を「バン」と叩いている。
いいかげん、それはやめてほしい。
頬杖をついている右ひじが痛い。
俺は窓の外を見る。
過去を振り返る。
俺は水分に飢えていた。
物凄く飢えていた。じりじりと湧き出る汗。
喉がうねうねと動き、水分を求めていた。
生物にかかせない水分。
その原初の欲求。
それは俺を包み込んだ。
その結果、俺は水筒のお茶をすべて飲んでしまった。
なんと我慢弱い男か、俺は!
毎日畑仕事をしていた頃が懐かしい。
あの頃は、我慢強かったはずだ。
さんさんと照らす太陽の下、妹を背中に背負いながら鍬で畑を耕していた。
手にまめができては潰れ、いつのまにか皮膚が固くなっていた。
妹はよく泣いていた。
そのたびに、あやしながら畑を耕すの大変だった。
あの時、水は貴重だった。
だが、今はどうであろう?
平成の世に適応し、俺は弱くなってしまったのかもしれない。
その結果が今の状態だ。
これから俺はどうなってしまうのか。
だが、今後に思いをはせている場合ではない。
問題は直近のことだ。
昼食を水分なしで過ごさなければいけないのか?
しかも、今日はからあげ弁当だったはず。
ヘタしたら、から揚げがのどにひっかかって死ぬかもしれない。
と、思案していると。
「でも、それなら購買の自販機でジュースを買えばよいでござるよ。そんな落ち込むことないでござる」
ポンポンと俺の肩を叩く孔明。
だが、それは俺の心に空しく響く。
孔明よ。それではいかんのだ。
「俺、今日、財布忘れたんだ・・・・」
「・・・」
孔明と俺の目が合う。
彼の瞳が僅かに動く。
孔明は頭の上のカップラーメンのような物をとり、その中から赤い財布?のような物をだす。中身を確認する孔明。
「なに、心配ないでござる。小生とつかさ殿の仲。小生がドリンクをプレゼントするでござる」
俺は孔明を見る。
いつもは若干、いや、普通にうざい奴だが、今は良い奴に見える。
頭の上のカップラーメンも今は輝いている。
「なんでゴミを頭の上につけてるんだろ~頭おかしいんじゃないか?」と心の中で思っていてごめん。でも、多分それ、中国の偉い人が被ってる帽子のマネなんだろうけど、クオリティが低すぎると思う。
「い、いいのか?」
「大丈夫でござる。早速、購買にいくでござる」
「ありがとう」
「なに、拙者、義をを大事にするでござる」
俺は孔明の左手を両手で握る。
温かい体温を感じるその手。
そして呟く、
「義ある所に、信義あり」
「なんでござるか?」
「いいや、ただ心から湧いてきたワードだよ」
「そうでござるか、では行くぜござる」
「あぁ」
◇◆◇
購買の自販機にたどり着いた俺達。
が、その光景に俺達は衝撃を受けた。
「な、なんで自販機が全面黄色に」
「そうでござる。これじゃ、どのボタンを押せば何が出てくるか分からないでござる」
「どうすんだよ!」
俺は狼狽えていた。
自販機が何故か全面黄色に染められていた、
ドリンク見本が置かれているガラスの部分まで黄色である。
先程までに心に湧き上がっていた高揚感が霧散する。
その衝撃のせいか、体中から汗が湧き出てくる。
額から汗が落ちる。
喉が渇いた。
俺は知らぬ間に孔明の胸倉を掴んでいた。
が、孔明は狼狽えない。
「確か、何でも黄色に染める集団の噂を聞いた事が・・・」
「な、なんなんだよ、その意味不明は奴らは?くそっ!俺の水分を・・・・」
「なに、心配ないでゴザル。小生は三国志随一の軍師。このような問題、取るに足らないでゴザル」
「本当か?」
俺は彼から手を放し、彼の凛々しい顔を見上げる。
おぉ、気のせいか、孔明から知性があふれ出ているように思える。
「勿論でござる。一見何も見えない自販機。それなら汚れを消してしまえばいいだけのこと。見た所、スプレーで黄色に染めたようでござる。ならば答えは簡単。つかさ殿、手伝うでござる」
「お、おう」
俺は孔明に言われてトイレに行き、とある物をとってきた。
孔明は、どこからかホースを持ってきたようだった。
ガーデニングで使う奴のためか、レバーがついており、それを押すことで水が出るものだ。
つまり、蛇口ではなく、手元で水のON、OFFをコントロールできる物。
「つかさ殿、その洗剤を自販機にぶちまけるでござる。塩素系洗剤ならスプレーを落とせるでゴザル。とどめで小生の水圧で汚れを落とすでゴザル」
「そうか、さすが孔明!」
「簡単なことでござる」
俺は手に持っている洗剤を思いっきり自販機に掛けた。
ちょこっとだけ、青い液体が自販機にかかる。
何かいけないことをしている気分だ。
「もっとでござる。全部かけるでござる」
「お、おう」
俺はさらにかける。
なんか楽しくなってきた。
洗剤の容器を両手で押しつぶす。
ガンガン液体をかけまくった。
べコッという音と共に液体が自販機にかかる。
「こんな所か?」
「そうでござるね。では、発射!!!」
孔明が持っているホースから、水が勢いよく出、自販機に当たる。
「バシャン」という音が響く。
水浸しになる自販機。
自販機の下には大きな水たまりができている。
「どうでござるか!これが小生の力である」
「おお、なんかすごいぞ!」
さらに、高圧で発射された水が自販機にかかる。
バシャバシャと音がなる。
だが・・・あれ、・・・汚れが落ちていない・・・
全く落ちてない。
本当に全く落ちてない。
「孔明、大変だ!全然汚れが落ちてない!全くと言っていい程、効果無だ」
「なむ?」
「他の手はないのか?」
俺は孔明を見る。
水しぶきで僅かに姿が曇る孔明。
ホースの蛇口から水が漏れたのか、僅かに濡れた顔。
濡れて黒く光長髪がオーラを発揮している。
これが軍師の圧力か!
「あるでござる。三国志随一の知将を侮ってはいけないでござる」
「さすが孔明。で、その方法は?」
「中央突破でゴザル」
「え?」
「スプレーの膜が自販機を覆っているから見えないのでござる。それならば、その膜だけとればいいだけのこと。ちょうどここにスコップがあるでござる」
「でも、それは・・・」
「侮るでないでござる、つかさ殿。小生、これでも武芸に嗜みがあるでござる。戦場でただ指示をしていただけではないでござる」
孔明がホースを床に置き、スコップを握る。
強くスコップを握りしめ、それを剣のように持つ。
スコップを地面から僅かに浮かしながら、自販機に近づく。
自販機の前にたどり着く孔明。
水浸しの自販機と、僅かに濡れた孔明。
二人は惹かれあうように出会った。
「では、参る!」
孔明が宣言し、スコップを頭上に振りかぶる。
そして、思いっきり自販機を殴る。
「バコン」という音が響き渡る。
僅かにひびが入る自販機のガラス。
「お、おい、孔明。何普通に殴ってるんだよ!スプレーの表面だけとるんじゃないのかよ」
「手元が狂ったでござる。もう一度」
っと、その時。
「貴様ら、何をやっている?」
高圧的な低い男性の声。
そちらを振り向くと、筋肉隆々の男が一人。
眼帯が片目を隠している。
制服がムチムチというか、僅かに腕が破れて世紀末ルックになっている。
うちの制服にタンクトップはなかったはずだが・・・
夏の新作だろうか?
だが、俺はその男を知っていた。
いや、この高校に通っている者のほとんどは知っているだろう。
あ、あれは・・・魏の猛将、
「夏候惇風紀委員殿!」
「違うんです、孔明がいきなり自販機を殴りだして」
「な、何をいっているのでござるか、つかさ殿。小生は汝のために自販機を殴ったのでござる」
「おい、スッコプござる、とりあえず自販機から離れろ」
夏候惇風紀委員が孔明に近づく。
威風堂々としたその雰囲気に俺は完全に飲まれていた。
場を支配する圧倒的強者の歩み。
これが猛将のオーラなのか。
俺は孔明を見る。
孔明はスコップを持ちながらビクビク震えている。
先程までは、濡れていた彼がカッコ良く見えたが、今はあれだ・・・
何かを漏らしてびくついているように見える。
彼の制服から水が地面にしたたり落ち、自販機の下には大きな水たまり。
あれだよね?
本当に漏らしてないよね?
そんな疑念が俺の心に浮かぶ、
いかん、友を信じなければ。
だが、ここは撤退の時。
俺は孔明を見て頷く。
孔明をそれに反応して頷く。
そして震えが止まる彼。
孔明は夏候惇と相対し、スコップを地面に突き刺す。
「小生、諦めが悪い男である」
ん?何いってるんだ?
何か勘違いしてるっぽい。
俺は「諦めよう」という意思表示だったんだけど。
「小生は、最後までやるでござる!義を貫く、それが信条!」
スコップを抜く孔明。
そう、まるで伝説の剣「エクスカリバー」を抜いたアーサー王の様に。
それは彼の決意を大きさを表しているのかのように。
彼の周りに何か、神秘的な何かが集まっているようだ。
彼は怯える小鹿から、戦士になったのである。
孔明は笑い、俺に親指を立てる。
意味は分からないが、俺もなんとなく親指を立てる。
「心魂一滴!」
と叫び、ガンガンとスコップで自販機を殴りだす孔明。
見る見るうちに自販機のガラスにひびが入っていく。
あれだ、某格闘ゲームの車壊しのようになっている。
孔明、もしかしたら凄い奴なのかもしれない。
格闘家として変なトーナメントで優勝するかもしれない。
「気が狂ったか!スコップござる」
夏候惇風紀委員が孔明を後ろから羽交い絞めにする。
もがきながらもスコップで自販機を殴り続ける孔明。
俺はその姿に見惚れていた。
彼の信念の強さに憧れていたのかもしれない。
俺は、自分の信念の弱さから、水筒のお茶を3時間目までにすべで飲んでしまうという失態を犯してしまった。
だが、彼はどうであろう?
頭にカップラーメン?を乗せながら、全身ずぶ濡れになり、スコップで自販機を殴っている。
なんでそんなことをしているか、よく考えると分からないが、あの、剛腕の夏候惇風紀委員に抑え込まれながらも動いている。
俺はその姿に震えていた。
俺の目指すべき姿がそこにあったのかもしれない。
「つかさ殿。今でゴザル。僅かばかり、自販機の塗装が落ちたでゴザル。今買うでゴザル。今でゴザル。今です!」
っといい、俺に財布を投げる孔明。
それをうけとる俺。
「おう、任せとけ!」
もみ合う二人を横に、俺はお金を入れて、自販機を見る。
が、問題発生だ。
全然わからん・・・
どのボタンを押せば何が出てくるのか、全く分からん。
僅かに塗装ははがれているけど、ほとんど意味がない。
僅かな隙間から見える、黄色い奴と赤い奴。
このままでは、孔明の頑張りが無にかいしてしまう。
そんなことはできない。
奴の頑張りを俺は無下にはできない。
ふと横を見ると、孔明が何故かスコップを持って夏候惇風紀委員と対峙している。
夏候惇風紀委員はいつのまにか手にホースを持っている。
二人の間には漂う戦意。
「小生を邪魔するでござるか?」
「基地外が!それに、何か匂うぞ・・・なんだこの匂い・・・」
「う、うるさいでござる!」
スコップを持って夏候惇風紀委員に殴りかかる孔明。
夏候惇風紀委員はホースを孔明に向ける。
そして水を放つ。
「あぐわぁぁぁ」
と悲鳴をあげる孔明。
水の塊が上手く孔明の口の中に当たっている。
さすが夏候惇風紀委員。
彼は満足そうな笑みを浮かべている。
俺は思った、「この二人は一体何をしているんだ?」と。
俺は正面に向き直る。
俺が飲みたいのは炭酸ジュースだ。
喉を潤すあの黒い液体が飲みたい。
ならば、簡単。
答えは赤だ!
赤でいけるはず。
俺はボタンを押そうと思った。
だが、そこで手が止まる。
待てよ。
赤いからあの炭酸ジュースとは限らない。
もしかしたら違う物かもしれない。
黄色いエネルギー満タンの栄養ドリンクでもかまわない。
すると、黄色が当たりではないだろうか?
俺は迷った。
赤と、黄色、どちらが正解なのか?
「あぐわぁぁ」
と孔明の叫び声が俺の思考を遮る。
どっちだ、どっちが正解だ。
赤と黄色。
どっちなんだ!
俺は目をつぶる。
そこに浮かんでくるのは、あの中国の広大な大地。
俺は畑を耕していた。
毎日毎日耕し、家族とほのぼのな日常を送っていた。
妹の泣く声。
鳥の泣く声。
動物の泣く声。
あれ?泣き声しか浮かんでこない。
「あぐうわぁぁ」
そこに孔明が泣く声?が混ざる。
その瞬間、俺は思い出した。
そうだ、答えは簡単だった、
赤と黄色。
どちらも正解。
選ぶこと自体ナンセンス。
どちらであろうと、飲料なのだ。
液体であれば、俺は救われる。
俺の喉は潤うのだから。
心は決まった。
俺は、人差し指を赤く光るボタンの元にもっていく。
孔明、俺も小鹿から戦士になる。
俺に力をくれ!
「心魂一滴!」
俺は叫び、ボタンを押す。
ドゴンという音が鳴り響き、自販機の排出口に缶ジュースが出現する。
俺はそこに手を入れ、一気に取り出す。
高々と頭上に掲げる。
それは、
ホットココア・・・
であった。
俺の心の時は止まった。
ただ、その缶ジュースを見ていた。
悠久の時を超えて、中国の大地を思い出していた。
あの日も、鴉が鳴いていたな。
俺は泣きたくなった。
あちっ。
痛みで意識を取り戻し、思わず逆の手に持ち帰る。
本当に熱いホットココア。
ホットだ。
「放すでゴザル」
「いや、風紀委員室までこい」
ずぶ濡れになり暴れている孔明に、彼を抑え込んでいる夏候惇。
孔明は、いつのまにかスコップを取り上げられたらしい。
近くの地面にスコップが刺さっている。
根元までぎっしり。
スコップ部分が見えないぐらい。
一体、どうやったらあんな風になるんだ!
孔明に近づいたためか、夏候惇風紀委員も僅かに濡れている。
孔明の抵抗はほとんど意味をなしていない。
時間の問題だろう。
彼が完全拘束されるのは。
「放すでござる、放すでござる。つかさ殿、買えたでござるか?」
どさくさに紛れて孔明の叫び声が聞こえる。
「あぁ、買えた!買えたよ!」
俺はホットココアを背中に隠しながら返事をする。
あっち。
左手に持ち帰る。
「そうでござったか。我、これで安心していけるぜござる」
その瞬間、孔明は抵抗をやめ、夏候惇風紀委員に拘束された。
二人の争いは終結した。
夏候惇風紀委員は、孔明を拘束しながらも僅かに距離をとっている。
「スコップござる。お前、漏らしただろ?」
「・・・なんのことだか、さっぱりでござる」
「俺にかかってないだろうな?」
「それはどうでござろうな。小生が武芸で貴公に勝てないのは道理。そこで罠を張ったまで。溶液がいつ漏れたか、それはいつであろうか・・・」
「貴様、謀ったな!」
「小生は軍師。それは褒め言葉」
怪しげに笑う孔明。
孔明の罠、ここに極まり。
はて、勝者は一体誰だったのだろうか?
夏候惇はドヤ顔の孔明を見る。
「スコップ、お前、キモいな・・・」
「え?ござる・・・」
「高校生にもなって、あろうことかあの軍師、諸葛孔明が漏らすとは。お前に誇りはないのか?」
「ござ・・・」
「そこのお前もそう思うだろ」
夏候惇が俺を見る。
俺は顔をそむける。
確かに、孔明はきもい。
さすがにそれはないと思う。
でも、それが奴の義の形。
俺は夏候惇を見る。
「きもいです。でも、俺は誇りに思います」
「つかさ殿・・・」
俺と孔明は見つめ合い、目で会話する。
俺達は何かを分かち合った。
心の深い部分で。
「ふ、くだらん」
そう呟くと、夏候惇は孔明を連行して行った。
俺は、ホットココアを右手と左手で交互に持ちながら、彼らが去って行くのを見ていた。
誰もいなくなった購買の自販機前。
俺はホットココアの口をあけ、飲む。
飲料のはずなのに、飲んでいると何故か喉がかわいてくる。
だが、暑さが俺の中を満たしていく。
俺の心は温まっていく。
頭上で太陽がさんさんと輝く中、今はいない、孔明の義を感じた俺であった。
ここまで読了ありがとうございます。
宜しければ、他の作品もご覧下さい。
ご感想、お待ちしております。