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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大国様シリーズ

大国様が本気で義父を攻略するようです・十三

作者: 八島えく

注意:このお話は、男性同士・義理の父子同士の恋愛描写が含まれております。閲覧の際はご注意ください。

 俺たちが入った銭湯は、とても静かだった。客が少ないからなんだろう。外から見た限りだととても小さい所だ。

 番台の爺さんは眠そうだ。大国がそっと揺り起こすとはっと目を覚ましてくれた。とりあえず温泉だ。


 ここは小さい銭湯だけど、名物として露天風呂とか八百万の神々も立ち寄るとかっていう触れ込みがあるという。番台の掲示板にそう説明が書いてあった。地元で暮らす神々にとってはなじみが深いんだろうか。


 俺と大国はさっそく温泉に入る準備をする。入る前に体を洗わないと。

 屋内の浴室から、かぽーんかぽーんと洗面器を置く音が響いてくる。それからざーざーと湯が溢れる音も聞こえてきた。

 

 蛇口から湯を引っ張り出して、頭からひっかぶる。熱い湯が身体に気持ちいい。

 髪の先から雫がぽたぽた落ちてきた。


「お義父さん」

「うん?」

「お背中流しますよ」

 洗いタオルを手にした大国がそう言ってくれる。断るのも気が引けるので、珍しく甘えてやることにした。

「ああ、頼むわ。終わったら俺も流してやるよ」

「ありがとうございます。ちょっと失礼しますね」

 大国がわしゃわしゃと、俺の背中を洗ってくれる。


 気を使って洗ってくれてるのがわかる。強くこすらないで、優しくタオルを滑らせてる。俺だと加減がわかんなくてがんがんやってしまいそうだ。気をつけないと。


 そういえば、俺は親父にこうして背中を流してやったことがなかったなあ。死んだ母に会いたいと泣きべそかいて見捨てられてから、長いあいだずっと顔も合わせてなかったもんな。今は和解して、たまに一緒に酒を飲むくらいの仲には戻っている。でも結婚して子供ができるくらいの年になって今更親父の背中を流すってのが恥ずかしかったのだ。


 逆に、流してもらうといえば、まだ小さかったヤシマジヌミにやってもらっていた気がする。独り立ちしたあいつは元気だろうか。元気だろうな。ときどき手紙をくれるんだけど、必ず嫁さんといちゃいちゃしてる写真入れて来るんだよな……。


 ああ、そういえば大国にしてもらうのはこれが初めてだった。


「お義父さん、お湯流しますね」

「ん、悪いな」

 背中に熱い湯が流れた。義理の息子に背中を流してもらうのもいいもんだ。

「ありがとな、代わるよ」

 大国と場所を交替する。大国の長い髪が、肩に垂れてた。腰どころか膝くらいまであるんだから、髪を洗う時は大変だな。


 タオルを泡立てて、大国の背中に擦り付ける。俺は力加減をよく知らないから、こういうことは慎重にいかないと。

「痛かったら言えよ? 弱くする?」

「いえ、ちょうどいいです、お義父さん」

「そっか」

 大国は細いから、傷つけてしまわんように、力を弱くしないとな。でも今の状態がいいなら、それはそれで安心だ。

 

 しかしまあ、大国の肌のしろいこと。全体的にすらっとしてるし筋肉ついてないし見るからにひ弱だ。手首とかひねり上げたらばっきり骨が折れるだろうよ。

 こんな細い身で、地上の神々をまとめているんだから大したものだ。……いや、俺の子孫なんだからそれくらいして当たり前かも知れんけど。

 

 でも、一方であんまり苦労にもまれて欲しくない気持ちもある。そりゃある程度苦労するのは仕方ないにしても、こいつは大勢の兄弟から焼石に抱き殺されたり木に挟まれて圧死させられたりしてるから、もう苦労しなくていいと考えてしまうのも正直なとこ。


「お湯流すぞ」

「はい」

 桶に組んだ湯をざーっと大国の背中にかける。大国の長い髪が肩あたりにぺったりはりついた。


「入りましょうか」

「うん。髪、まとめてやろうか?」

「これくらいは大丈夫です。自分で結いますので」

 大国は器用に髪をまとめ上げてみせた。


 名物という露天風呂は、なかなかのものだった。


 外の空気がひんやりしていて、肩から上が冷たくて気持ちいい。でも身体は湯につかっているから寒くない。ひんやりした感と熱い湯がぴったり重なってるんだ。

 体の疲れがお湯に流れてくような感じがする。全身の力が抜けて、眠ってしまいそうだった。


 露天風呂の端っこにデカい木が生えている。枯れ葉が時々ひらひら落ちてきて、水面にぺたっと落ちる。

「おや」

 大国が楽しそうに枯葉を拾う。

「もう冬なのですね」

「……みたいだな。だからこそこんなに温泉が気持ちいいんだろうな」

「ええ、きっとそうです。……いずれ、父をこの場所へ誘いたいです」

「冬衣に?」

 はい、と大国は頷いた。冬衣とは大国の実の父親だ。不愛想で誰とも関わろうとしない、そのくせ息子からの贈り物は百年以上経った今でも大事にしている不器用な奴。今まで冬衣と大国はぎすぎすしていたけど、少し前に和解できた。

 大国が冬衣にもこの場所のよさを味わってもらいたいと思うようになれたのは、仲直りの何よりの証拠なんだ。そう思うとちょっと嬉しくなる。


「あ、すみません。今はお義父さんと一緒にいるのに、父の話を……」

「いや、いいさ。お前らが仲良くなったのがわかって、嬉しいからさ」

「そうですか……。少しくらい嫉妬してもいいんですよ」

「しねーよっ」

 ……いや、ちょっとしそうになったけど。


「ふ、お義父さんは相変わらず愛おしいですね」

「褒めてんのか? だったら何も出ねーぞ。口説いてんだったらなびかねーし」

「心の内をそのままお伝えしただけです」

「あっそ」

 

 そうしてしばらく俺たちは、のんびりと湯につかっていた。

 ちなみにその後大国がのぼせた。さすがにこれには焦ったわ。



「そりゃ名物温泉だからじっくり浸かってたい気持ちはわかるけど……何も俺に合わせなくたってよかったんだぞ」

 銭湯を出てその後、俺たちは旅館に戻った。

 

 温泉から上がったあと、フラフラしている大国が心配で、脱衣所でそっと見守っていたら案の定倒れた。

 さすがに焦って、とりあえず浴衣をさっと着せて扇風機に当たらせて、冷たいものを飲ませてようやく落ち着いた。温泉巡りは一つで終わった。 

 宿に戻った今でもフラフラしている大国をこれ以上歩かせるのはできないから、一旦宿に戻ってきた。この分じゃ、今日一日は外に出ないな。


 でも俺はそれが嫌じゃなかった。外を見て回るのは明日でもいい。何より、大国の近くにいてもいいっていう口実ができあがるから。いくら心配しても平気だもんな。


「……すみません。ご迷惑をおかけして」

「いいよ。明日になれば体調も元に戻るだろうさ。その時にまた温泉見つけよう」

「はい……」

 しょんぼりしてる大国が、今だけは何だかほんとの息子みたいでかわいいな、とか……。


 思ったけど口に出してやるものか。

温泉はいいですね。特に露天風呂は外のひんやり感とお湯の熱さがうまくまじりあっている雰囲気が大好きです。温泉街の画像を眺めながら書いておりました。温泉行きたい。

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