六・王女と虚実 1
* Closed Story…Fuka & Leuchten *
難しい顔で一点を睨み続けている風花に、ロイヒテンはへらへらと笑いながら肩を竦めて見せた。
「そんな顔して考え込んでいたって、どうしようもないだろう」
「うるさいわね。能天気な貴方とは違うのよ」
「どっちがだ。事前に俺が王家に手紙を送っていたことすら知らずに、それ聞いて鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていたくせに」
「それは……そりゃぁ、その点は悪かったわよ。確かにいきなり王族を訪ねても会えるわけないもの。でも結局会えなかったんだし、それとこれとは関係無いわ」
「はいはい」
噛み付かれそうなほどの苛立ちを露わにしている風花に、ロイヒテンはやれやれと溜め息を吐いた。
応接室という名のこの部屋に通されて、早数時間。広々とした空間で調度品も豪華な物が揃えられている上に、別室には寝室とシャワールームまであった。だが、廊下に出られる一つきりの扉にはドアノブが無く、窓には洒落たデザインの格子がガッチリと嵌め込まれていた。
――どうやら監禁されたらしい。
二人がそう気付くのに、それほど時間はかからなかった。
想定の範囲には入れていた事態だが、いざそうなってみると溜め息が止まらない。
「全く……頭が痛い」
自分の送った書状は届いているものの、誰かに握り潰されたと考えるのが妥当か。
わざとらしく眉間を揉んでいるロイヒテンに冷めた目を向けながら、風花は扉の方に耳をそばだてた。
「誰か来たわ」
「どうする? 俺は優雅に紅茶でも飲んでいることにするけど、お嬢さんは番犬の代わりに扉前で待ち伏せして飛びかかるかい?」
「誰が番犬よ」
風花にキツく睨まれ、ロイヒテンは「怖い怖い」と首を竦めながら苦笑した。それはしっかり風花に聞かれていて、彼女の眼光は更に鋭くロイヒテンを睨み付けた。
「刀を取り戻したら覚えていなさい? 貴方、即刻死刑よ」
すると間もなくガチャンと鍵の外れる音がして、ゆっくりと扉が開いた。
「失礼致します」
物腰の穏やかそうな、老いた男の声だった。ロイヒテンと風花が様子を窺っていると、白髪を綺麗に固めた騎士服姿の男が入ってきた。
「エスメロードの領主ロイヒテン・ケーラー殿と、竜殺しの一族の風花殿ですね。まずはこちらの無礼をお詫び致します。大変申し訳ございませんでした」
「…………」
ロイヒテンは眉を上げて首を傾げ、風花はぶすっとした顔で鼻を鳴らした。男は続けた。
「私は近衛騎士隊副長のシグルド・レイスと申します。お二人とも、ご無事で何よりです」
シグルドと名乗った男は、そう言って静かに微笑んだ。風花の頬が苛立ったようにピクンと動いたのを尻目にしながら、ロイヒテンは口を開いた。
「お初にお目にかかります、シグルド殿。ただ……私は田舎者なもので、堅苦しい話は苦手なんです。単刀直入にお伺いしますが、私からの手紙はお読み頂けたでしょうか?」
「えぇ……メイヴスの竜の件ですね」
頷いたシグルドに、風花が二人の会話に割って入った。
「ねぇ? ご無事で何よりってことは、シグルドさんはエスメロードと竜殺しに何が起きたのかご存知ってことなのかしら?」
挑発的に尋ねた風花に、ロイヒテンは今度こそ本気で眉間を押さえながら風花を振り向いた。彼自身も多少なり強気に出ているとはいえ、風花では相手を怒らせるばかりで、聞ける話も聞けなくなりそうだった。
「お嬢さん、頼むからあんたは黙っててくれ。――シグルド殿、失礼致しました」
「うるさいバカヒテン。面倒なやり取りは無しにしましょ。私が知りたいのは、これだけ町や村が滅んでいるのに、それを事故だの野盗の仕業だので片付けて知らぬ振りをしているローズガルドがメイヴスそのもの――悪の親玉なのかってことよ」
「……お嬢さん、俺はあんたと心中する気は無いんだが?」
こちらは丸腰だというのにずけずけとした物言いと態度を崩さない風花に、ロイヒテンは頭を抱えた。しかしシグルドは眉を下げて目を閉じ、静かに首を横に振った。
「メイヴスのことをある程度知っているのであれば、そう思うのも無理はありません。実際、ローズガルドは未だメイヴスの存在をひた隠し、空へ昇る地平線の欠片については『既に手は打ってあるので安心するように』とのみ、民に伝えています」
「こっちのバカヒテンも私も、世に伏せられているメイヴスの存在を前線で押さえてきた身よ。それでも『ある程度』って言い切るのは、どういうことなのかしら?」
「お嬢さん、俺のことはバカヒテンではなくロイヒテンと呼んでくれるとありがたい。親しみを込めてロイでも――」
「こんな時に何言ってるのよ、バカ」
「…………」
ロイヒテンは閉口し、小さく肩を竦めた。風花の問いに対する答えを待ってシグルドを見ると、彼は考え込むように口元に手を当て「どこから話せばいいのか」と前置きしてから、口を開いた。




