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竜堕トシ  作者: 真城 成斗
一章・銃士と剣士と魔法使い
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一・銃士と剣士と魔法使い 4

「カナタ、大丈夫? 〈ヒーリング〉!」


 駆け寄ってきたイチが光魔法〈ヒーリング〉の魔法陣を描いて傷を治療してくれた。


「……村は?」


「〈トランスパレント〉を解いたから、村はもう見えないものに戻ったわ。今はさっきの子に襲われることもないから、安心して」


 そう言うと、イチは警戒と怒りを込めてロイヒテンを強く睨み付けた。


「君、何のつもり?」


 するとロイヒテンはショットガンを下ろして、両手を上げて見せた。


「あ、え、いや、違うんだ。争う気は無い。悪かったよ、怒らないで」


「人のことを後ろから撃っておいて、『怒るな』なんて無理な話よね」


「違うんだってば。落ち着いて」


 ロイヒテンは少し引き攣っているながらも、どこかヘラヘラした笑みを浮かべた。それが癪に障って、私はイチの手を借りて立ち上がり、ロイヒテンに短剣の切っ先を向けた。


「邪魔しないで」


 私達がアイスビーツにやってきた目的。それは、各地で起こったもう一つの異変である魔族の狂暴化から逃れたという、イレギュラーな人物を探す為。


 イチのように強い魔力を持つ者の多くは未だ異常を来していないようだが、そうではない一般的な魔族は、今その大半が理性を失ってしまっている。理性を失うタイミングには個人差があるようだが、魔力が弱いほど、早くに狂暴化している傾向がみられている。


 とは言え、本来であれば魔族といっても人族より多少強い魔力を持っているというだけで、他に何か変わるところがあるわけではない。ことローズガルドに於いては、魔族と人族の違いよりも奴隷か貴族かの方が重要なほどで、中には自分がどちらの種族か知らない者も少なくない。


 その生活が、あの日を境に壊れたのだ。理性を失った魔族達は突如として人族の家族や友人に牙を剥き、喰い殺した。それが齎した絶望は、まさに阿鼻叫喚の地獄そのものだった。しかも狂暴化した魔族は魔法陣を使うことなく、まるで息をするように魔法を発動させることができるのだから堪ったものではない。


 そんな状況で得た情報が、力の弱い魔族でありながらも理性を保ち続けている男が、アイスビーツの村にいるというものだったのだ。

何だか不名誉な噂だが、それが本当なら、狂暴化の原因は魔力の高低だけではないということになる。


 ……とは言え私がシャドウの出現や魔族の狂暴化についての情報を追うのは、今私と共にいるイチもいつか理性を失ってしまうかもしれないからどうにかしたいとか、そういった理由ではない。どちらかと言えば死者の為――シオウ様の為だ。


 あの砦で凄惨な殺戮を行ったのは一体何者で、何の目的があったのか――最低でもそれを暴くまで、私は引き下がるわけにはいかない。できることなら、私のようなドブネズミを拾い上げ、人らしく生きる術を与えてくれたシオウ様の仇を討ちたいと思う。


 ちなみに、あんなに私を嫌っていたイチがなぜ私に同行しているのかは不明だ。まぁ、彼女の旅の理由なんてどうでもいいけれど。


「ねぇロイヒテン、ちょっと聞きたいんだけど」


 するとイチが私の肩を掴み、私よりも一歩前に出た。


「女の子を後ろから撃ったっていうのは後でお仕置きするとして――……君ってもしかして、アイスビーツにいる弱っちい魔族さんじゃない? 見るからに弱そうだし」


「弱っちい!? 失敬な。……それに俺は人族だ」


「ふーん」


 イチは頷いて、軽く握った右手から、何かに沿うように左手を上へと動かした。パリパリと乾いた音がして、彼女の手の中に美しい銀の剣が現れた。


「じゃぁ、斬っちゃっていいか!」


「えっ、なっ、待て!」


「カナタの仇!」


 勝手に私を死んだことにしながら、イチがロイヒテンに斬りかかった。ロイヒテンは「うわわっ」と慌てたような声を出して、ショットガンをイチに向けた。


「かかってくるなら容赦できないぞ!」


「……上等」


 イチは口元に好戦的な笑みを刻んで、ロイヒテンを間合いに捉えるなり、剣を下方から一気に突き上げた。


 ギィンッ!


 鈍い金属音がして、ロイヒテンが銃身を使ってイチの剣の軌道を逸らした。イチはすかさず剣を翻し、薙ぐように刃を振り払った。


「待て、落ち着けっ!」


「容赦できないんでしょ? だから私も容赦しない」


「あ、違う。ごめん、ごめんなさい! 単純に、単純に!」


「単純に? ――〈ブリッツ〉!」


 ピシャァアアンッ!


 イチが指で素早く紫色の魔法陣を描くと同時に甲高い破裂音が響き渡り、奔る稲妻がロイヒテンを直撃。全身に紫色の電流を迸らせながら、彼は声も無くその場に倒れた。しかしすぐにプルプルしながら身を起こし、双眸に哀願を滲ませて言った。


「た、単純に、助太刀しようとして外しちゃっただけなんだ」


「あれ? もう起き上がるなんて。手加減しすぎたかしら」


 イチはニッコリ笑いながら、ロイヒテンの顔の横に剣を突き立てた。ロイヒテンは顔を引き攣らせながら、助けを求めるように私へ視線を向けた。


「あ、いや、だから……本当に悪かったよ!」


「ふーん?」


 呟いたイチの顔が、ギギギ……と音がしそうなくらい不自然に、ゆっくりと右へ傾いた。


「えっと、あの……」


 恐怖のせいか言い淀むロイヒテンの耳元に、イチは笑顔のまま唇を寄せた。


「下手くそなら引っ込んでいてちょうだい。ね?」


 ロイヒテンがカクカクと頷くと、イチは私を振り返った。


「カナタは? 一回くらい刺しておいたら?」


「……いい」


 答えて、私は短剣を鞘に収めた。


「そう?」


 イチは地面から剣を引き抜くと、それを手の中から消し去った。するとロイヒテンは心底安堵したような表情で胸を撫で下ろし、長い息を吐きながら立ち上がった。服に付いた土埃を払っている彼に、私は尋ねた。


「ロイヒテン」


「な、何だ?」


 先ほどイチに脅されたのが効いているのか、ロイヒテンはビクッと肩を震わせながら私を振り返った。


「……別に刺さないから、大丈夫」


「そ、そうか……?」


 私の顔色を窺っている様子のロイヒテンに、私は小さく頷いた。後ろでイチが「刺しちゃえ刺しちゃえー」と茶々を入れてくるが、とりあえず無視しておいた。


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