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竜堕トシ  作者: 真城 成斗
四章・死者と疑惑と恋心
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四・死者と疑惑と恋心 10

 * Closed Story...Kurenai & Leuchten *


 時は少し戻り――紅とロイヒテンは、すっかり回復したと笑うイチにカナタと風花を頼み、外の様子を窺う為に、城の屋上へ向かっていた。


「……で、実際のところはどうなんだよ?」


 向かってきたシャドウをショットガンで蹴散らしながら、不意にロイヒテンが尋ねた。


「実際のところ、というと?」


 紅の長い脚が鮮やかな弧を描き、シャドウが纏う電撃を物ともせずに吹き飛ばす。続くもう一体の顔面にストレートを叩き込みながら、紅が疑問符を返した。


「イチに決まってるだろ。どう思う?」


 紅は少しの間考えてから、口を開いた。


「イチ・ドラールの名は、信者や犠牲者を含め、とにかくメイヴスに関係した者を辿るとしばしば垣間見える。恐らくカナタは、何も知らずに利用されているんだろう……。だが、俺の掴んだ情報に出てくるイチとあのイチが同一人物なのかどうか、正直自信がなくなってきたところだ」


「だろうな。……イチがメイヴスなら、死ぬ危険まで犯して俺を庇う理由が無い」


「あぁ」


「それに、俺にはイチが刷り込みや盲目的な信仰心でメイヴス復活を望むような女には思えない。あいつは最後の最後で神に祈るより、自分の手を伸ばしに行くタイプだろ」


「しかし……それなら、だからこそメイヴスの竜を利用して力を得ようとしているのかもしれない。自分の手を伸ばしに行くタイプなんだろう?」


「いやいや。あいつ、ほぼ最強の魔法使いの位置にいるだろ。あれ以上の力を付けて、一体何するって言うんだ」


 ロイヒテンはそう言った後、茶化すような口調で付け加えた。


「あんた、どうしてもイチを疑いたいんだな。まぁ、メイヴスの髪飾りを持っていただけで、疑う余地は十分あるけどな」


「イチは竜の臭いがするんだ。微かだが、カナタからも。友人の物だという髪飾りを持っていたせいかもしれないが、疑う理由には十分だ」


 ロイヒテンは目を丸くして、苦笑した。


「竜の臭い? 竜殺しの一族ってのは、そんなものもわかるのか」


「お嬢は感じないらしいがな。それにお嬢が言っていた、ハウィンとかいう黒ずくめの男も気になる。喋るシャドウや黒い靄を見ていると言うカナタのことも、やはり妙だ」


「ハウィンがカナタを庇ったってやつか。風花の血が薄いって話は?」


「百年前から数えても、俺達はまだ三代目だ。薄いなんて有り得ない」


 断言した紅に、ロイヒテンは不可解そうに首を傾げた。


「それなのに、竜の臭いを感じているのはあんただけなのか?」


「あぁ……そうらしい」


 紅は頷くと、やや苦笑気味に言った。


「いや、お嬢は昔から注意力が足りないところがあるから、その可能性も高い」


「ふーん。……それならどうしてお嬢さんは魔法で怪我を?」


「わからない。ただ」


 紅は一度言葉を切ると、眉間に深い皺を寄せた。


「魔法ではなく自然の炎なら、俺達に傷を負わせることもできる。……だが、そんな炎を自在に操れるのは神くらいだ」


「神?」


 ロイヒテンは怪訝そうに眉を寄せたが、一拍の後、ぶっと噴き出した。


「勘弁してくれ。いるかどうかもわからない神様が、カナタとお嬢さんに何の用だってんだよ。メイヴスみたいなのがいるんだから、そりゃぁ他にも神様はいるんだろうけどさ」


「……。だな」


 紅は頷いて、溜め息をついた。


「忘れてくれ。馬鹿げたことを言った」


 ロイヒテンは笑うと、屋上へ通じる塔の扉を押し開けた。扉の向こうに現れたいくつもの眼光に、うんざりしたように髪をかきあげる。


「なんだこの数。紅、仕留め損ないは任せるぞ」


 ロイヒテンは言うと、ショットガンを構えて深く息を吸った。


「ビーンストック・ショット!」


 ドガガガガガガッ!


 銃口が黄色く光ったかと思うと、まるでマシンガンのような爆音と共に高速で散弾が撃ち出され、次々とシャドウ達を吹き飛ばした。紅は驚いたように眉を上げながら、ロイヒテンの撃ち漏らしたシャドウが向かって来るのを叩き伏せた。


「……今のは?」


「イチが魔法で剣を作ってたろ? 俺は弾を作れるんだ」


「そういった応用は難しいと聞いていたが……」


 僅かに目を見開いた紅に、ロイヒテンは得意気に胸を張った。


「褒め称えてくれてもいいんだぞ?」


「ふふ……あぁ、さすがロイヒテン殿だ」


 ロイヒテンの態度に苦笑した紅は、屋上へ続く階段を見上げた。シャドウ達を倒しながら螺旋階段を駆け上がり、外界へ通じる最後の扉を前に、少し緊張した面立ちで立ち止まる。


「どうした?」


「いや……何か少し、嫌な気配がする。戦うつもりでいた方がいい」


「心配ない。最初からそのつもりだ」


 ロイヒテンは涼しい顔で口の端を上げると、いつでもどうぞと言わんばかりに首を傾げた。


「そうか」


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