表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜堕トシ  作者: 真城 成斗
二章・公子と少女と竜殺し
20/99

二・公子と少女と竜殺し 9

「持ち物は全部取り上げられただろう。一体どこに隠していたんだ?」


「それは女に訊くものじゃないわね」


 風花はそれだけ言うと、ツンとした態度で目を閉じた。


「助かるぜ。いやー、実は結構痛くてさぁ」


 ロイヒテンはヘラヘラと笑うと、爪の無い指先でなんとか紙包みを拾い上げ、中から出てきた丸薬を口へ放り込んだ。カリッと牢獄の壁に軽やかな音が反響した。


「おえっ!? 何だこれっ! 吐物の味がするぞ!?」


 途端に目を白黒させながら、ロイヒテンがペッペッと舌を出す。風花が呆れ顔になり、がっくりと肩を落として溜め息を吐いた。


「せっかく丸薬にしたのに、どうしてわざわざ噛むのよ……」


「えぇ?」


 ロイヒテンはワケがわからないといった様子で眉を寄せ、風花は片手で頭を抱えた。


「貴方と話すと疲れるわ」


 そんな呟きを漏らして、風花は首を横に振った。ロイヒテンは気にした様子もなく続けた。


「はー、しかしあんたが俺の花嫁って話、ただの口から出任せで助かったぜ。あんたみたいな――」


「御託はいいから。今度は貴方の番よ」


「――可愛げのない女はごめんだ」


 小声で続きを呟いて、ロイヒテンは私に視線を移した。


「花嫁にするなら、カナタの方がまだマシってやつだな。イチと違ってペッタンコなのが難だが」


 言われて、私は「絶対嫌」と答えながら自分の体を見下ろした。……悲しいかな、足元がよく見える。


「ロイヒテンは、大きい方が好きなのね」


「あぁ? そりゃぁもちろん大きい方が――」


「それなら自分のサイズを見直して、発言を振り返ってみるべきだと思う」


「なっ……!」


 絶句したロイヒテンに、私はニコリと笑って見せた。まぁ、ロイヒテンのサイズも小さいわけではないんだろうけど――……ね。


「あー、くそっ。庇い甲斐の無い奴らだぜ」


 ロイヒテンがボソリと呟くので、私は首を傾げた。


「え?」


「なんでもなーい」


 しかしロイヒテンは気の抜けた調子でそう言うと、長い息を吐いた。


「俺が説明できることはそんなに無いよ。ただ、カナタには言っただろ? 俺は義父と妹を殺したんだ。義父の方は、母の目の前でね。愛し合う二人には、大層ショッキングな光景だったに違いない。発狂する母の前から二人の子である妹を攫ってきたんだが、その殺人鬼で誘拐犯の男が一人で戻ってきたとなれば、気が済むまで鞭で引っ叩きたくもなるだろうさ」


「でも義理のお父さんは魔族で……」


「そう、仕方ないんだ。俺がやらなければ、間違いなく母も殺されていた。でも残念ながら、母にとっては仕方ないことじゃない」


「ロイヒテンがメイヴスを信仰してるっていうのは?」


「俺が義父と妹を殺したのは、二人の力を自分のものにする為だっていう話になってるみたいだ」


 そう言ったロイヒテンに、風花はもう一度深い溜め息を吐いた。


「それにしたっておかしいでしょう。貴方だって息子で、しかもれっきとした公子なんだから」


「あー、それね。母は俺のことが大嫌いだから」


「あら、そうなの?」


「そうそう。今の父親と再婚して俺のこと嫌いになったっていう、典型的なヤツ」


 ロイヒテンは軽い口調で言ったが、それについて彼がどう思っているのかは、彼の表情から読み取ることができなかった。風花は渋い顔をして、首を横に振った。


「それにしたってあんまりだわ。貴方、人望無かったのね」


「あはは、返す言葉も無い」


 ロイヒテンはやはりヘラヘラと笑って、やがて起き上がっていることに疲れたのか、ゆっくりと床の上に身を倒した。その顔が少し寂しそうに見えたのは――多分、気のせいだと思う。


 私は格子の隙間に頭を押し付けて、廊下の様子を窺った。どこまでも薄暗い石の通路が続いている。


「イチは大丈夫かな……」


「あいつは別に心配要らないだろ。顔に似合わず鬼みたいに強いし」


「……それ、さっきも言ってたよね。イチに伝えるね」


「あんたには怪我人を労わる気持ちが無いのか?」


 眉を寄せたロイヒテンに、私は小さく笑った。


 それからまた、しばらくの時間が経った。豪胆なことにロイヒテンは眠ったようで、イビキすらかいている。私は竜殺し一族のことをもっと聞きたかったが、風花はかなり苛立っているようで、ピリピリとした雰囲気を隠そうともせずに、黙って目を閉じている。刺激したらとばっちりを受けそうで、私は黙って壁際に座っていた。


「お嬢」


 不意に聞こえた声に振り返ると、薄闇の中に、背の高い青年が立っていた。足音は一切聞こえなかったが、一体いつの間に現れたのだろう。


 風花は弾かれたように目を見開き、彼の姿を見るなり声を上げた。


(くれない)!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ