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竜堕トシ  作者: 真城 成斗
二章・公子と少女と竜殺し
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二・公子と少女と竜殺し 6

「おいおい、ついさっきまでいただろう。迷子なんて勘弁してくれよ」


 ロイヒテンはフードの奥で眉を寄せたが、すぐにお気楽な調子で言った。


「まぁ、イチなら鬼みたいに強いし、放っておいても大丈夫だろ」


「でも、ここにはメイヴスの信者もいるんでしょ? もしイチに何かあったら……」


「そんな大っぴらに活動してる馬鹿はいないだろうよ。それともご主人がいなくなって不安なのか?」


 ニヤニヤしながら言ったロイヒテンに、風花が意外そうな顔をした。


「あら、貴女奴隷だったの? じゃぁ、別段説明する必要もないかしら」


 そう言った彼女に、私は慌てて首を横に振った。


「駄目、それじゃ困るの。私はイチの奴隷じゃないし、メイヴスについて知らないまま立ち回るのは難しい。私の無知は承知しているし面倒だろうけど、教えてくれると助かるわ」


 言うと、風花は少し考える素振りを見せた後、頷いた。


「いいわ。それならひとまずエスメロード城へ行きましょう。さっき大袈裟に花嫁宣言しちゃったし、ここだと目立つもの」


「目立ってるのは誰のせいだよ……」


 ぼやくロイヒテンを一睨みして、風花は堂々とした足取りで街路を進んでいった。彼女の後を追う形で私とロイヒテンも歩を進め、間もなく街路と同じくさびれた城門前に到着した。


「しばらく見ないうちに、えらい廃れ様だな」


 ロイヒテンが小さく呟いて、門兵の傍へ寄っていた。


「何だ、城に何か用か?」


 門兵に尋ねられて、ロイヒテンは目深に被っていたフードをバサリと脱いだ。僅かに乱れた長い髪をかきあげて、彼は口の端を上げる。


「俺の顔を忘れたのか?」


 勝手な理由で城を離れていたくせに、ロイヒテンの口からはそんな台詞が飛び出してきた。


「ロ、ロイヒテン様……!?」


「あぁ、戻ったぞ。後ろの二人も一緒に通してくれ」


「は、はっ!」


 門兵はやや緊張した様子で敬礼すると、私達に道を開け、門の脇にある石の櫓に開門を呼びかけた。


「ロイヒテン、ちゃんと本物だったんだ……」


「当たり前だ」


 鼻を鳴らしたロイヒテンに、風花が苛立ったように舌打ちした。それが怖かったのか、ロイヒテンは引きつった顔をしながら城内に入っていった。


 初めて城などという建物の中に入る私は、内心で少し緊張しながらぐるりと辺りを見回した。全体的に質素な造りになっていて、エントランスに提げられたシャンデリアもそれほど大きくない。壁画も階段の彫刻も、どれもシンプルで最低限のものだった。


「あら、領主の居城にしては随分と質素ね」


 私が思っても言わずにおいたことを、風花がさらりと口にした。しかしロイヒテンは気分を害した様子も無く、のほほんとした口調で応じた。


「あー、昔はもっと綺麗だったけど、俺が売り払ったからな」


「へぇ。何で?」


「別に。金が欲しくて」


「…………」


 黙り込んだ風花にロイヒテンはヘラヘラとした笑みを浮かべると、エントランスホールを抜けてしばらく廊下を歩いた先の一室に、私達を案内した。


 そこは客室なのか、部屋にはソファの他にベッドやキャビネット等の調度品も揃っていた。


「ここで待っていてくれ。話をつけてくる」


「わかった。早く戻ってきなさいよね。逃げたら承知しないから」


「わかってるよ。竜殺し一族の執念深さは半端ないからな」


 ロイヒテンは大仰な溜め息を吐いて、部屋を出て行った。風花はその背中をしばらく睨み付けていたが、やがて思い出したように私を振り返った。


「そういえば、話が途中だったわね」


 風花は腕組みをすると、小さく首を傾げた。


「で? 貴女は何が知りたいの?」


「えっと……まず、竜殺しの一族って何なの?」


 尋ねると、風花は「そうね」と呟いて、腰に差した刀に触れた。


「メイヴスの厄介なところは、メイヴスという神様的なものがちゃんと実在することなの。だから一般の宗教でありがちな、信者の思い込みの力で起こる奇跡や呪いなんてものを遥かに超越した力を発揮してしまう。魔法陣を描いて儀式をすれば、それをしただけのことが起こる。それがメイヴスの怖いところよ」


「じゃぁ、凄く強い魔法みたいなもの?」


「そうね、条件を揃えてメイヴスに呼びかけるっていう意味では、魔法の発動と似たようなものかもしれない」


 風花は頷いた後、意外そうに秀麗な眉を上げた。


「貴女、なかなか頭が良いのね。奴隷だっていうのは本当?」


「……幼い頃は。でも今は自分が奴隷として生きないといけないとは思ってない。こんなこと言ったら、風花は腹を立てるかもしれないけど」


「別に? 私、その辺のことについてはどうでもいいわ。問題は、貴女が教養の無い奴隷並みの理解力しかないのか、そうでないかってことだけね。言葉が通じるみたいで安心したわ」


 奴隷に対して偏見が無いというのもなかなか珍しいが、それでもいちいち棘のある口調で、風花は言った。


「あぁ、それで――。その実在する神であるメイヴスの力に対抗できるのが、私達竜殺しの一族よ。メイヴスの信者がどんなに儀式で力を高めても、私達には一切の魔法が効かないの」


「魔法が効かない!?」


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