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竜堕トシ  作者: 真城 成斗
二章・公子と少女と竜殺し
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二・公子と少女と竜殺し 3

「母がケーラー家の一人娘。最初の婿の子が俺。次の婿の子がリーゼロッテ」


「……俄かには信じがたいわ」


 呟くと、イチが「世も末ね」と頷いた。


「本当に失礼な奴らだな」


 彼は憮然とした顔で言うと、割れた鏡を懐へ戻した。


「ローズガルドの北端の地であるエスメロードは、確かにかつてメイヴスの国土だった。あんたが言った通り、歴史の表舞台からは抹消されてる。……よく知ってたな?」


「シオウ様のところにいた頃に、色々とね。百年前のローズガルドの地図には、エスメロードやアイスビーツは存在していない。新聞記事には一切載っていなかったけれど、この辺りでは人攫いや誘拐事件が頻発していたって噂は残ってた。あとは情報屋からその辺の話を買い集めて――ってところかな。伏せられてこそいるけれど、隠し切れてはいないみたいよ」


 そう言ったイチに、ロイヒテンは口の端を上げた。


「情報屋に警告されなかったか? 『消されるぞ』って」


「ふふ。『これ以上は』が付いてたけどね。まぁ、そんな感じで、私程度が手に入れられるような情報を、当事者の君に隠す理由がないわ。……最も、私が知りたいのはもっと深いところのお話だけどね」


 イチは言って、私の肩をポンと叩いた。


「そういうわけでロイヒテンがエスメロードに案内してくれるらしいけど、カナタも一緒に行く? 確かここからそう遠くないわ」


「は!? 待て! 俺は案内するなんて一言も――」


「どんな理由で君が城を空けてるのか知らないけど、私達の案内ついでに戻ったら?」


「どんな理由って……。公王と妹を殺して、のこのこ領地に戻れると思うのか?」


 呆れ顔のロイヒテンに、イチは不可解そうに片眉を上げた。


「その理由で戻れないなら、どうしてアイスビーツに妹さんまでいたの? ロイヒテンだけが逃げてきたならわかるけど」


 するとロイヒテンは困ったように視線を空中に彷徨わせ、追求を拒むように腕を組んだ。


「まぁ、あれだよ。妹だけでも何とか助けられないかと思って……眠らせて連れ出したんだ。辺境のアイスビーツに隠れていたんだけど、日を追う毎に段々睡眠薬も効かなくなって、目覚めたリズはアイスビーツの人達を皆殺しにしちまったんだ」


 驚くべきロイヒテンの無責任っぷりに、私は目を丸くした。つまりアイスビーツの村人達は、ただの巻き添えで皆殺しにされたということだ。せめて人目のないところに二人で隠れるとか、もう少し方法はあっただろうに。


「こうなった以上、俺が領地に戻る理由は無いね。あれから、もう半年も経つんだ」


 するとイチが大袈裟なくらい顔を歪めて吐き捨てた。


「半年も? うーわ。君って最低だね」


「何とでも言ってくれ。俺だって、好きで公子に生まれたわけじゃない」


 鼻を鳴らしてひらひらと手を振ったロイヒテンを、イチの冷たい視線が嬲るように見つめた。その視線にたじろいだようにロイヒテンが身構える。


「な、何だよ。睨んだって案内しないからな」


「……別に君を責めようっていう気はないんだけどさ。他人を犠牲にしてまで守りたかったなら、せめて妹さんの仇くらい取りたいと思わない?」


「リズの仇?」


「もし本当にメイヴス教徒がメイヴスの竜の復活を目論んでいて魔族に呪いをかけているんだとしたら、妹さんはその犠牲にされたってことでしょう? 何もしないで引き下がるの?」


「…………」


 黙り込んだロイヒテンは、彼をじっと見つめるイチの視線から、フイと目を逸らした。畳みかけるようにイチは言った。


「私の魔法は超強力だし、カナタも強いよ。協力してくれるなら、私達もロイヒテンの力になれると思う」


「イチの魔法はともかく、カナタは俺にボロ負けしたけどな。イチだって、自分もいつどうなるかわからないからメイヴスをどうにかしたいってのもあるんだろ? 友達の為とか言ってるけど、結局のところ自分が可愛いってのが行動原理なのさ」


「ま、否定はしないわ」


 頷いたイチにロイヒテンはしばらく思案顔になっていたが、やがて長い髪をバサリとかき上げて、鼻を鳴らした。


「エスメロードに行くなら、絶対に目立たないようにするって約束しろ。あんた達にしてみたら他の土地にはない雰囲気が漂っているように感じると思うが、くれぐれも首を突っ込むな。それができるなら案内してもいい。まぁ、大した情報なんて得られないと思うがな」


「何が起きても人前で大袈裟な反応するなってことね。りょうかーい」


 念押しするように言ったロイヒテンに対し、イチは軽い口調で頷いて、彼の肩をポンポンと叩いた。


「それじゃ、改めてよろしくね。ちなみに私、シャドウとの戦闘には参加しないからそのつもりで」


「えっ?」


 驚いたように目を丸くしたロイヒテンに、イチは笑顔のまま無言の圧力をかける。そんな二人のやり取りに、私は「やっぱりね」と苦笑するしかなかった。


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