表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜堕トシ  作者: 真城 成斗
二章・公子と少女と竜殺し
13/99

二・公子と少女と竜殺し 2

 言う通りすぎて反論できなかった。黙っていると、イチは私の頭から手を離して、私をじっと見つめた。


「シオウ様は……あの砦にいた人達は、メイヴスの生贄にされたんだと思う」


「……っ!」


 思わず息を呑み、私はイチを凝視した。途端に胸の中に真っ黒な感情が溢れ出したかと思うと、心臓が押し潰されるような感覚に目眩がした。イチは続けた。


「私、実はカナタがメイヴス教徒なんじゃないかって思ってたの」


「え!?」


「だってカナタのせいで、シオウ様はあんな辺境の砦に飛ばされたのよ? そして大衆の目がなくなったところで、敵襲も無いのに兵士達もろとも皆殺しにされた。明らかに謎の死を遂げているのに、世間は誰も動かない。そんなの、誰かの企みにしか思えなくて」


「あの場で生き残ったのが私とイチだけなら……当然私を疑うってことね」


 イチは小さく頷いた。私は首を横に振る。


「私はメイヴスじゃない」


「大丈夫、わかってる。疑ってごめんね」


 イチの言葉に少し驚いて、私は渦巻くように噴き出してくる黒い何かを握り潰すように、自分の胸元をギュッと掴んだ。


「でもそれならどうして、今になって話す気になったの? ――しかも」


 私はロイヒテンにちらりと視線を向けてから、もう一度イチを見上げた。


「そんな危ない教団の話を、よりによって彼の前で。何でロイヒテンはメイヴスのことを知っていて、しかも信者ではないと思ったの?」


 ロイヒテンがメイヴスについて知っていたのは、彼自身が教団の関係者だからという理由だったらどうする気だったのだろう。私には、その可能性を否定するだけのものを彼が持っているとは思えなかった。


 するとイチはいつもの調子でクスクスと笑った。


「一気に質問するなんて、カナタは欲張りさんね。……でも君の最初の質問の答えは、それが理由なのよ?」


 意味がわからず眉を寄せると、イチはロイヒテンの手の中からヒョイと鏡を奪って、割れているそれを私に向けた。不安そうな表情をした私と、鏡の破片の数だけ目が合った。


「カナタはね、多分君が自分で思っている以上に顔に出るの。本当に可愛い」


「なっ……」


「隠し事ができないタイプなんだろうね」


「それが理由? 私の表情がわかりやすいから?」


 鏡を押し退けて少しだけイチを睨むと、イチはおかしそうに笑って頷いた。言い返そうと口を開くと、それを遮るようにイチが言った。


「だけどね」


 イチは笑うのをやめて、今度は優しい表情で首を傾げた。


「カナタ、最初は私の一挙一動をずっと気にしているようだった。私に心を許す気は無いって具合にね。それが今は私に笑ってくれるし、あのロン毛バカに奴隷呼ばわりされて傷付いた顔するんだもん。まぁ……そうやってわかりやすいくらい感情を顔に出してくれるようになったのは、本当に最近のことだけどね。以前は眉一つ動かしてくれなかったんだから」


「おい、誰がロン毛バカだ。俺は――」


「ロイヒテン、まだお喋りの許可は出してないわよ?」


「あ、すみません」


 イチに睨まれて、ロイヒテンは慌てたように口を閉ざした。まるで躾中の犬と飼い主だ。


 イチは続けた。


「だから、カナタとちゃんと仲良くなりたくて。君を疑っていたことを謝りたかったの」


「イチ……」


「他の人の言葉に惑わされないで。もう一度言うね。私は、君が好きだよ」


まるで異性への告白のような言葉をさらりと口にして、イチは微笑んだ。気恥ずかしくなって、私は思わず下を向いて両の拳を握り締めた。


「うん……」


 頷くと、イチはもう一度私の頭を撫でて、ロイヒテンに視線を向けた。


「で、もう一つの理由の方なんだけど。――ロイヒテン、これ返すからそろそろ喋っていいわよ?」


「あのな、何で俺がおまえの言うこと聞かなきゃ」


「あらやだ、本当に言う通り喋ってる」


「ぬっ!?」


 茶化すイチにムッとしたような顔をして、しかしやはりイチのことが怖いのか、ロイヒテンはそれ以上の文句を言うでもなく、わざとらしい咳払いをした。


「それで? どうして俺がメイヴスを知っていると思ったんだ?」


 先を促したロイヒテンに、イチは軽く腕を組んで頷いた。


「ちょっとしたコツだけで持ち主が特定の魔法を使えるようになる力を持った物のことを魔具っていうんだけど……〈トランスパレント〉の力を持つ魔具なんて、そうそうあるものじゃないわ。私が唯一知ってるのは……ローズガルドの北端の地を治め、メイヴスの秘密を守ってきたケーラー家の秘宝よ」


 私は驚いて、ロイヒテンを凝視した。


「ロイヒテン……私のことを奴隷呼ばわりしたくせに、自分は泥棒だったの?」


「誰が泥棒だ、誰が。どうして俺がケーラー家の人間だという発想が出て来ないんだ。最初にちゃんと名乗っただろうが」


「だってロイヒテンが後継ぎの一人だなんて、城主が気の毒……って、あれ?」


 ロイヒテンは義父を殺したのではなかっただろうか。つまり主はもういない。それでいて泥棒行為を働かずに家宝を手に入れることのできる立ち位置だとすると……。


「嘘でしょ、ロイヒテンって公子なの?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ